採用戦線に異常アリだ。
私が勤めるA社のある部署では、最近立て続けに新たに人々が入社している。出身地を聞けば、ブラジル、メキシコ、レバノン、イギリスなどとにかく多様である。
ドバイで採用することが難しい人材(特にテック系)の場合、インターナショナルなヘッドハンティング会社を通じて世界中に募集をかけているという。
スキルさえあれば地球の裏側から飛行機に乗って、翌日にはドバイで働いている、ということが現実に起こっているわけだ。
国が違う人々が、新たに職場に加わる。これが日本だったらば、大騒ぎだろう。
「ねえ、A子知ってる〜?最近、総務部に新しくブラジル出身の人が入ったんだって!」
「マジで!?サンバの国じゃん。仕事中に突然踊りだしたりしちゃって・・・」
みたいな会話が繰り出されるほど、きっと人々は興奮するのだと思う。事実、極東の島国からやってきた私は、一人上記のように興奮していた。
行ったこともない南米のメキシコ&ブラジル!というだけでわくわくしていた。それに、南米の人だからきっと陽気なんだろう、と勝手な妄想を膨らませていた。しかし、実際そうでもないことに、ややがっかりする。むしろ、日本人である私よりもおとなしい。
このような小芝居をやっているのは私一人だけなのだろう。周りは、粛々と仕事をしている。誰もメキシコやブラジルといったワードに興奮している様子はない。日本人が大半を占める極東の島国出身ゆえだろうか。南米に興奮してしまった自分がひどく田舎っぺに思えて、己を恥じた。
一方で嬉しい出会いもあった。
なんと東アジア人ゼロの会社に、超新星のごとく2人も中国人が入社したのである。これは喜ばずにいられない。無条件降伏のごとく、中国人というだけで無条件に仲間意識を抱いてしまうのだ。
生の中国語の会話を聞いた日には、はじめてカラーテレビを見た昭和の日本人のごとく、頬を紅潮させて、「うわあ、本物の中国語会話だ!」と興奮してしまうのである。
スーダンやソマリア、イスラエルなど、とにかく行く先々で出会うのが中国人である。それゆえか、なぜか中国人に対しては特別な親近感をもってしまうらしい。
中国人の一人、ダニエルは上海出身で、上海で3年、ドイツで1年、オーストラリアで5年働いていたという経歴の持ち主だ。オーストラリアからやってきたということもあってか、なぜか入社日に大量のオーストラリア土産を持参していた。
オーストラリア土産のコアラのマスコット。パソコンのディスプレイにひっかけられるタイプ。
気づけば、社内の至るところにコアラが大量発生していた。
ここにもコアラ
あっちにもコアラ
そんなコアラ事情を聞きつけて、「私にもちょうだい!」と言う隠れコアラファンまで現れた。コアラがあるところに、ダニエルあり。そんなわけで、コアラとともにダニエルは瞬く間に知名度を伸ばしていったのである。
こうした多文化に触れる度に、ドバイは面白いところだなと今一度思う。日本にいたらおそらく、シリア、レバノン、ブラジル、ブルガリア、スイス、ウクライナ、ポーランド、コンゴ、アメリカ、イギリス、フランス、アルジェリア、エジプト、モロッコなどなどこうした国々の人々と働くことは一生なかっただろう。