パキスタンで子供に物乞いされ・・・衝撃的な結果に

カラチで生活していると貧困が常について回る。自分自身が貧困じゃなくても、貧困に囲まれた生活を強いられる。まるで貧困という蟻地獄にはまったような気さえしてくる。

現地の友達数人とカラチのフードストリートへ出かけた。

ファルーデと呼ばれる映えドリンクを飲みながら、店先のテーブルで友達と話していた。時間にすれば20分もなかったと思うが、3分おきぐらいに物乞いたちが、「お金くれい」と入れ替わり立ち代りやってくるのである。

その顔ぶれの中には、ヒジュラと呼ばれるオネエ軍団もいたり、キッズもいる。

パキスタン物乞いをする子供
風船を売るキッズ。友人の1人は商品を買わずに、お金だけ渡していた。見た目はかわいそうに見えてもしつこく居座るケースもあるので、物乞いを追い払うために仕方なくお金を払うこともある。

友人の一人が、物乞いにやってきたキッズに、飲み残しのドリンクを手渡した。何事かと思い見ていると、キッズはその辺のバイクの上にグラスを据え、ものすごい形相でドリンクを飲んでいるのである。

ひえっ

つられて私も、少しだけ残った自分のグラスをキッズに手渡した。

「これも飲みなよ」

キッズは無言でグラスを受け取り、再びバイクのポジションへ戻る。「んぐんぐ」といった漫画の効果音が聞こえてきそうなぐらい、勢いよく私の飲みかけを飲み干すのであった。

パキスタン物乞いをする子供
バイクをテーブル代わりにし、他人の飲み残しを飲み干すキッズ

そのままキッズは行方をくらましたのかと思いきや、背後から小さな声で「ありがとう」と言うのが聞こえた。

立ち去ろうとするキッズの足元を見ると、裸足だった。

「ちょっと待ったあ!!!!」

物乞いキッズを追いかけ、肩をつかむ。

「何で裸足なん?靴買ってきたるわ」

こう言いながらも、何でこんなことをしているんだろうと思った。単なるお節介じゃないか。キッズが靴が欲しいと言ったわけでもない。他人の残り物を平らげている時点で、靴を履くことすら彼にとってはどうでもよくなっているのだろう。

というかキッズとしては、靴よりもご飯をゲットするお金の方が欲しいはずだ。それはキッズのためというより、汚いカラチの町を裸足で歩くキッズの姿を見たくない、という自分の傲慢だった。

お節介おばさんになったのは、これが初めてではない。学校で陶器を作る工房に見学へ行ったときのこと。みな、陶器を作る工程を見てふんふんと言っているが、私は工房で働く一人の青年が気になった。

彼の服は見るからに生地が薄くなっておりボロボロであった。手縫いと安全ピンで破れを補修している。見てもいられなくなり、彼に新しい服を買って欲しいと工房の責任者へお金を渡した。後日、新品の服に身を包む青年の写真が送られてきた。

これもまた彼のためというより、ボロボロの服を着ている人間を見ることが耐えられないという自分の傲慢と偽善だった。

なぜ周りの人間は、こんな状況を放置できるのだろう。

おそらく彼らにとって、服を買えない貧しさは、日常的なものだからだろう。一方で、まだ着れるのに流行りじゃないから、気に入らないからという理由で服をじゃんじゃん捨てる社会に生きる人間にとって、その光景は衝撃的で罪悪感を感じさせた。そうした罪悪感を拭い去りたかったのだ。

10分ぐらいした戻るから、ここにおってな」

そう言い残し、我々は子供用の靴を探しに出た。本人不在のままで、独身3人組が「これは大きすぎる」などと言いながら靴選びをするのも何だが、とりあえずそれっぽそうな靴をゲット。

しかし、元の場所に戻ってみると、彼の姿はそこになかった。その後、30分ほど近辺を捜索。仲間と思われる別の物乞いキッズに聞いてみたり、その辺で食事している人に聞いてみたりもした。けれども、彼を見つけることはできなかった。途中、裸足の別のキッズを発見。

「もうこうなったら、あの子にあげようよ。あの子も裸足だし」

「だめ!あの子には靴が大きすぎるでしょ!」

せっかく買った靴が無駄になってしまう。結局、自分よがりの余計なお節介だったんだよな。仲間のうちの1人がここによくくるので、次回来たときに探してみるといってくれたのが、救いだった。

「物乞いにはな、各自縄張りがあるんだ。だから、次来たときも彼はあの辺で活動していると思うよ」

物乞いに縄張りがあるとは知らなかった。

「ああいう物乞いキッズを見た時ってどうすればいいの?」

お金を渡すかという以前に、キッズが物乞いをしているを見るのは、感情処理に大変困るものがある。哀れんでお金を渡したってどうにもならない、という無力感にいつも襲われる。

そして、こうしたキッズや貧困を野放しにしている政治が許せん!と怒りがこみ上げるが、肝心の政府もまた腐敗と汚職まみれで、希望が見出せない。ちなみにパキスタンでは建国以来、任期をまっとうした首相は一人もいない。

「物乞いキッズの裏には、マフィアがいるからお金をあげちゃだめ!彼らは朝晩、車に乗って物乞いポイントで降ろされてるんだから。物乞いが終わったら、また車でマフィアのところに帰るの!」

ひえっ

送迎付きの物乞い!?

西成の日雇い労働者じゃないか。しかし、西成の方がずっとマシだ。朝食も昼飯もついているし、給料ももらえる。

そう。キッズにお金を渡したとて、それはいわゆる反社にお金を渡していることになるのだ。けれども、悲しげなキッズを目の前にしたら、誰だって感情を揺さぶられるだろう。虎に餌をやる人間はいないが、傷ついた猫なら人間はついつい介抱してしまう。それがマフィアの狙いである。

なるほど、と思いながらも、本来であればただ友達とカフェにいって、おしゃべりを楽しみたかっただけなのだ。けれども、おしゃべり中に物乞いたちが割り込んできて、YouTube広告みたいに、ちょいちょい貧困を挟んでくる。

こうした貧困に、いちいち過剰に反応してしまう貧困素人な自分も嫌になる。貧しい子供にショックを受けて何かしなきゃと思って行動したり、服がボロボロだからといって気にかけたり。こうした光景を見ても平然としていられる友人たちを見て、数年もいれば自分もそうなるのだろうか、と思ったりする。いや、そうならないとここでは生きていけないのだろう。

友達と出かけただけなのに、物乞いに余計な気をかけて、靴を買いに行ったり、行方不明の物乞いを捜索したり。自分が他人を巻き込んで始めたこととはいえ、何だかどっと疲れた。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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