マラソン強豪国エチオピアで走ったら悲惨な結果に

2週間ほど滞在したサウジアラビア。その間に10キロマラソンを1つ終えた。次に私が向かった先はエチオピアである。ソマリランドマラソンまでは残り10日を切った。

エチオピアといえば、ケニアと並びマラソン強豪国である。箱根駅伝しか見ない私ですら、それぐらいは分かる。

が、エチオピアの強さを確信したのは、何気に見ていたドバイマラソンの結果を見ていた時のこと。

男女ともに上位10名がほぼエチオピア人なのである。UAEは200カ国以上の人々が住む国でひらかれる大会だというのに。

ドバイマラソンの優勝者には賞金10万ドル(約1,000万円)。賞金は1位から10位まであり、10位でもその金額は2,500ドル(約25万円)である。エチオピア勢が、賞金獲得を本気で狙いに来た結果なのだろう。

何やらともあれ、マラソンの強豪国で練習できるのは、心強い。そもそもなぜ走るのか?と妨害してくる輩が少なそうだし、練習できる環境も整っているだろう。

速く走りたいという気概はほとんどないが、エチオピアで走るだけで、なんだか速く走れそうな気すらする。

そんな淡い期待を抱いてやってきたエチオピアだったが、やはり甘かった。

やる気マンマンなエチオピア人

私が1週間ほど滞在していたのは、ハラールという小さな町だ。首都アディス・アベバからはバスで10時間ほど。東に位置するソマリランドとの国境までは、バスで4時間ほどの場所にある。

ハラールは、イスラーム教第4の聖地だとか、アフリカのメッカとも言われている。キリスト教が多数を占めるエチオピアだが、ハラールはイスラーム教徒の方が多いのだ。

それはともかく、ハラールの標高は1,800メートル。町外れには、いい感じの舗装された道路が続いている。これは、結構いい練習ができそうだ・・・・

と、思いきやである。滞在しているホテルのオーナー、ダニエルに確認したところ、「外で走るのは危ないな。近くに走れるスタジアムがあるからそこで走った方がいい」という。

ちょうどホテルで働いているスタッフが、明日の朝6時に走りに行くから一緒に行くといいよ、と提言してくれた。ラン仲間として紹介されたのは、ホテルでキッチン担当をしている、大阪でトラシャツを着てそうな小太りのおばちゃんだった。

「え、この人も走るん・・・?」

当日の朝6時。ホテルのロビーで15分ほど待っていたが、おばちゃんは現れることはなかった。昨日、心の中で密かにおばちゃんをディスったバチがあったたのだろう。

しょうがないので、一人でスタジアムへ向かう。どうせホテルからまっすぐ歩いて15分ほどの場所なのだ。

道すがら、ちびっ子軍団に出くわした。きゃっきゃと言いながら、同じスタジアム方面へ向かっていく。朝っぱらから保護者なしに、友達と連れ添って、自発的にランニングとは。その意識とやる気の高さに、おののいた。

どうにもこの辺に住む人々は活発だ。朝6時半だというのに、スタジアム向かいのサッカー場では、少年たちが全力でサッカーをしている。

スタジアム近くのプレハブ小屋には、筋トレマシーンが置かれ、青年達がせっせと筋肉生成に勤しんでいた。狭いプレハブ小屋は、すでに満員御礼で小屋は熱気でもわっとしていた。

何この国・・・・

日本であれば、意識高い系ビジネスマン&ウーマンが、やれ朝活だのエクストリーム出社だの言ってやっていそうなことを、エチオピア人はスマートに生活に取り入れているらしい。

エチオピアで走るのは楽じゃない

やる気マンマンなエチオピア人にビビりながらも、スタジアムのトラックを走り始めた。トラックは、舗装されていないが、走りやすい地面にはなっている。

エチオピアのスタジアム
ハラールのスタジアム。早朝はヤングたちがランの練習に勤しんでいた

安心してランニングに集中できるのはありがたい・・・

そう思った矢先だった。

「あれ、チャイナじゃね?」

出た。スタジアムでグループ練習に励むヤング軍団に絡まれた。立て続けに、先ほど道で遭遇したちびっ子軍団も、私が近くで走る度に「チャイナ」と野次を飛ばしてくるではないか。

ハラール滞在中は、このチャイナコールに悩まされる日々だった。正直にいうと、私は「チャイナ」は問題視していない。どー見ても私の見た目が、チャイナだからである。

理由を知ればすっきり!海外で「ニーハオ」と言われ違和感を感じる人へ

問題は、そっとしておいて欲しいのに、いちいち絡んでくることなのである。これにより、なんだか自分のHPポイントがどんどん消耗することに気づいた。私は繊細な人間なのである。

チャイナコールをスルーして走っていると、一人の青年がすーっと並走してくるではないか。警戒しながらペースを早めると、「ランはもう終わったかい?」などと聞いてくる。

変態か。

「チャイナ」の単発ならまだしも、並走してきたり、声をかけてきたりする連中には、気が滅入る。頼むから、そっと走らせてくれや。

けれども、チャチャを入れる魑魅魍魎もよく見れば、めちゃくちゃ本格的なランニングのトレーニングをしているのである。

素人の私が見ても、大学の陸上部なんかでやってそうなやつだということが分かる。そんなハードな練習をしながらも、異邦人に絡んでくる余裕を見せている。マラソン強豪国なのも、なんだかうなずける。

1時間ほどすると、魑魅魍魎は練習を終えて、スタジアムを去っていった。これで、落ち着いて練習するぞと思った矢先。

何やら黒い煙がただよってくる。どうやらスタジアムの裏で、ゴミを焼いているらしい。

ハラールでは、ゴミを処理するのに、とりあえず道端でゴミを燃やすという原始的な方法が用いられている。朝8時ごろになると、道端のあちこちから黒煙が上がるのだ。

魑魅魍魎が去ったかと思えば、次はゴミの煙かよ。ダイオキシンが発生しているのではないか、と不安になりつつも、黒煙を浴びながらランを続けることになった。

走ることに集中できねい!

ハラールというのは、世界遺産がある町なのだが、どういうわけかとてつもなく汚い。どのぐらい汚いかというと、冬であれば1週間近くは風呂に入らなくても平気な人間が、数時間で風呂に入りたくなるぐらいである。

汚さを誘発しているのは、ゴミの多さである。とにかくポイ捨てが常習化している上に、ジモティーがやたらと立ちションをしているし、その辺に落ちている野良犬だとかヤギのフンとあいまって独特の香りを発している。

また、町には覚醒植物である「チャット」も蔓延している。道路には、覚醒植物の葉っぱが、そこかしこに落ちている。

さらに、舗装されていない道を車や大量の人、ワンコが行き交う町である。車が通る度に、砂埃が舞い立ち、外に出て数時間もすると埃っぽくなるのである。

一度スタジアムが使えない日があったので、向かい側のサッカー場で走っていたことがある。どの国であっても、スポーツに勤しむ青年たちはほほえましい(小児性愛者というわけではない)。

いつものごとくチャイナコールやチャチャを受けながら走っていたのだが、やはり気になったのが地面に転がっているものである。

プラスチックごみ、動物の野グソ(人間のかもしれない)、石ころ、ゴミを燃やしたカス、瀕死の子犬(かと思ったら、途中からピンピン動いていた)、何だかよくわからない黒い物体などが、転がっている。

サッカー場の片隅には、謎の一家が住み着いており、ゴミを燃やしながら、子犬を愛でていた。夕暮れ時になると、羊の軍団が帰宅しなすったようで、その辺に生えている草をバリボリと食べ始める。

それでも、青年たちは平然とサッカーをし続けるのである。

うわあ・・・

確かにハラルには、走る環境はそこそこ整っていた。走れるスタジアムが近くにあるのは、ありがたいことである。何より、同じく走っている人がいるというのは、心強いものである。

一方で、サウジアラビアとは違う意味で、走りづらい国でもあった。マラソン強豪国で、のうのうとランに集中できるかと思ったが、むしろ感じたのは恐るべしエチオピアである。

マラソン強豪国エチオピアで走るのも楽ではない。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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