無料で食べ物と飲み物が取り放題!?ドバイの街に出現した”シェア”冷蔵庫の正体

ラマダンといえば、”断食”だけがフューチャーされがちだが、あくまでもメインは、信仰心の再確認と向上である。ゆえに、この時期では、「良いことをしましょう」というのがスローガンになる。

イスラーム教徒の5大義務の1つ、喜捨(ザカート)もこの時期にはよく行われる。喜捨とは、簡単に言えば貧しい人への施しや寄付である。

寄付といって思い浮かべるのが、募金だろう。募金箱は随時、ドバイの各所に設置されており、私の見る限りでは、結構な額が入っている。日本のように、余った小銭を・・・なんていうちんけな精神ではなく、額の高いお札がこんもりと入っているのがドバイの募金箱である。

しかし、募金はあくまで日常的なものであり、どちらかというとドバイのラマダンでは、食べ物に関する喜捨が行われる。

“シェア”冷蔵庫もその1つ。ラマダン中、ドバイの街中に出現する謎の冷蔵庫。貧しい人でも、お腹いっぱいたべられるようにと、誰もが無料で食べ物と飲み物が取り放題という魔法のような冷蔵庫である。

この「シェアリング冷蔵庫」というプロジェクトは、ドバイでラマダンの時期になると毎年行われている。2016年にオーストラリア人女性が始めたもので、いまではラマダンの恒例企画ともなっている。

主に心優しい個人が、冷蔵庫を自ら調達し、その中へ飲み物や果物などの食べ物を入れる。そこへ通りかかった人は、自由に冷蔵庫から、食べ物をちょうだいすることができるのだ。

冷蔵庫の主に、感謝の意を述べたり、一言断る必要もない。それが、冷蔵庫の主としての義務であり、食べ物をちょうだいする側の権利だからである。

個人が運営しているため、商業施設や駅といった人の集まる場所ではなく、人気の少ない住宅地などにひっそりと置かれている。

普通にドバイの街を歩いていれば、まず出会うことがないのがこの魔法の冷蔵庫。なので、実際に設置されている場所へ行ってみた。

やってきたのは、ドバイでも高級住宅地であり、UAE人が多く住むといわれるジュメイラ地区。閑静な住宅街で、私がローンを100年ぐらい組んでようやく買えそうな立派な邸宅が並んでいる。

ジュメイラ地区の横には、サトワ地区が隣接している。ブルーワーカーたちが、多く住む場所がある。ドバイでも有数の高級住宅地と、低所得者層が隣り合うという、なんとも不思議な場所なのである。


ドバイの高級住宅街の1つ、ジュメイラ地区

“シェア”冷蔵庫は、そのジュメイラ地区の一角にあった。ドバイにきて4年にもなるが、その冷蔵庫を実際に見たことはない。本当にこんな場所にあるんかいなと、人気の少ない住宅街を歩いていたら、それは本当にあった。

高級車が駐車されている一軒家の前に、置かれた冷蔵庫。中には、果物や飲み物が入っている。おおお!ついに見つけたぞ!と人の家の前で興奮していると、背後から男が近づいてきた。

振り返ってみると、それは、バイク配達人だった。男は、バイクを降りるとおもむろに冷蔵庫に近づき、水と果物を手に取った。お目当ての物をゲットすると、再びバイクに乗り去っていった。


ありがたくちょうだいします

その後も、何台かシェア冷蔵庫を発見したが、冷蔵庫が空っぽだったり、特定の時間のみにだけ食べ物を配ります、と張り紙がされたものもあった。

日没の時間も近づいたので、そのままサトワ地区に流れ込んでみる。いつものことだが、格差と同時に多様性を感じる場所である。こうした地区を歩くと、幼稚な掛け声や奇異の視線が若干まとわりつく。いつもの生活圏からは、発生しない類のものである。

断食明けまであと1時間を切った。街には、一定の人の流れができており、流れの向かう先はモスクである。

サトワ地区にあるモスク


アフガニスタンスタイルのパンを売る店に、断食明けの食事の買い出しにやってきた男たち

モスクもまた「喜捨」を見ることができる場所である。断食明け前にもなると、モスク近くには、ゴザとビニールシートがひかれ、断食明けの食事、イフタールが用意される。

メニューは、場所によって若干異なるが、この地でよく見るのは、ラバンと呼ばれる甘くない飲むヨーグルトや、スイカやバナナといった果物、定番のデーツ、メインにはビリヤニと呼ばれるご飯の炊き込みだ。

日本でいう炊き出しのようでもあるが、決定的に違うのは、彼らがれっきとした労働者であり、そこに同情や哀れみは存在しない。イフタールの施しは、喜捨の中でも特に推奨される行為なので、そこにはイスラーム教徒による義務の遂行があるだけである。

見渡す限り野郎しかいない。顔ぶれは様々で、パキスタン、インド、アフガニスタン、バングラディシュからの労働者が集まっている。彼らの多くが建築業に従事している。ドバイの街を築き上げた、影の立役者たちである。

こうした光景は、UAEを含めた湾岸諸国のラマダンの風物詩ともなっているようで、ラマダン中のインスタには、この手の写真がよくあがっている。それぐらい、非日常的で圧巻なのだ。

私もおこぼれをさずかろうと思ったが、女人禁制とでもいわんばかりのオーラが発せられているので、入り込む余地はなかった。

ドバイ人口の7割は男であり、その多くがこうした労働者たちである。普段の生活ではそうしたことは感じないので、いかに自分が断片的なドバイしか見ていないのかがわかる。

7割が男?高齢者がいない?ドバイの不思議な人口構成

男しかいない!?野郎ビーチに行ってみた

とまあ、街は浮き足立ったように、「心温まる」光景やプロジェクトで賑わう。為政者や国もまた「喜捨」をしたというニュースもラマダン前にはよく流れる。

今年、印象的だったのはサウジアラビアとUAEが共同で、ラマダン中にイエメンに巨額の200万ドルの救援を行う、というニュースだ。自分たちで壊して、苦しめておいて何が救援だとも思う。

「シェアの精神」と称して、街中で連日行われる高級レストランのきらびやかなラマダンテントとお得なブッフェ。ラマダンは、普段よりも多くの食べ物が廃棄されている時期なんじゃないか。窓越しに見えるレストランのビュッフェ料理と、客の数を見てそんなことを考えた。

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サイゾー

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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