ドバイにやってきて3年目。初めてバスに乗った。今まで利用しなかったことをひどく悔やむぐらいバス旅は快適で、車を持たない人間の行動範囲を確実に広げた。ささやかな生活の革命である。
UAEで初めてのバス乗車
そもそもバスを使おうと思ったのは、あるアプリがきっかけだ。それがイスラエル発の乗り換えアプリ、「Moovit」である。2016年にイスラエルに旅行した時に、現地のイスラエル人に教えてもらった。
詳細は関連記事を参考にしていただきたいが、簡単に説明するとドア・ツー・ドアで行きたい場所へリアルタイムで案内してくれるアプリなのである。到着したい時間もしくは予定出発時刻と行き先を設定すれば、複数のルートを紹介してくれる。
ここまでだと、他の乗り換えアプリでもありそうだ。しかし、この「Moovit」がすごいのはリアルタイムで案内してくれることである。バスがあと何分で到着するとか、遅れているとか、この駅で降りろ!といったことをつぶさに教えてくれるのだ。これほど頼もしい旅の相棒はいない。
それがアラブ首長国連邦でも使えるようになったということで、さっそく使ってみることにした。「Moovit」さえあれば知らない場所でも臆せずに行ける。イスラエルの技術さまさまだ。
ちなみに私が働いている会社でも、イスラエルの会社が開発したツールを利用している。イスラエルとアラブ首長国連邦は、政治的にはあまり仲がよろしくないといえども、ハイテク技術ともなればそうはいってられないこともある。それほどイスラエルの技術は、世界に浸透しているとも言うべきだろう。
国内で唯一酒が飲めない首長国、シャルジャとは?
前置きがずいぶん長くなってしまったが、はじめてのバス旅で今回向かったのは、ドバイから車で20分ほどの場所にあるシャルジャという首長国。人口140万人で、国内で第3の規模を誇る都市だ。
物価が安くて生活しやすいことから、観光地というよりも人々が生活する場所という雰囲気が強い。通勤時には多くの人が、シャルジャ・ドバイ間を車で移動するため渋滞がひどいことでも有名である。
シャルジャは、7つの首長国からなるアラブ首長国連邦において唯一、アルコールの販売や消費が禁止されており、女性の格好においては肌を過度に露出させないスタイルが好まれるというほどイスラーム色が濃い。
その理由の一つに、バックに厳格なイスラームを実践するサウジアラビアがついていることがあげられる。1989年にシャルジャの銀行が破綻危機に陥ったところを助けたのが、サウジアラビアである。
当時、500万ドル以上の負債があったシャルジャの銀行に対して、資金援助を行ったのがサウジ。その見返りとして、サウジは”サウジスタイル”を取り入れることを当時のシャルジャ首長に迫った。
想像ではあるが、こんな感じだろう。「こちとら多額の資金援助をして救ってやったんだ。俺らのスタイルを取り入れるってのが仁義ってもんじゃねえの。兄ちゃんよお・・・ああん?」。もはや、ヤクザである。
そんなサウジスタイルこそが、シャルジャをイスラーム色の濃い町たらしめている所以だという。
バーやクラブではしゃぐパリピ(パーティー・ピーポー)が日常の風景の一部となっているドバイからすれば、車でたった20分の場所にそんな異空間が存在することが驚異である。いや、本来ならばイスラーム教の国なのに、パリピが跋扈している方がおかしいのだが。
そんなドバイのパリピ具合と、厳格なイスラーム空間の違いが見たくてシャルジャを訪れた。
ドバイのユニオン駅から出ているバスでシャルジャへ出発
ドバイからシャルジャへの移動は豪勢な2階建てバスだった。バスの1階は、イスラーム教の国らしく、女性は前の席、男性は後ろの席と分けられている。ちなみにユダヤ教の国イスラエルでも、こうした男女別セクションのバスはたまに見かける。
2階建てバスに乗車しながら、1階席で満足するのは愚行である。であるがゆえにちゃっかり2階席を陣取ることにした。そこに広がっていたのは、予期しない光景であった。
人々が、いまや余の眼下にいる。彼らは余に仕える平民たち・・・
視線が変わるだけで、階級が一つ上がったような気分になるから不思議だ。2階建てバスに乗ったらぜひこの高官ごっこを楽しんでいただきたい。
英語よりもアラビア語が広く使われているシャルジャ
バスがシャルジャに入り、まず一番に気づいたのは建物の高さである。ドバイが高層ビル群で人々を圧倒するのに対し、シャルジャは比較的建物の高さが低い。そこにホッとしてしまうあたり、やはり高層ビル群は無意識のうちに人々を威圧しているのではないかと思う。
視界に飛び込んでくる情報にも異変が。アラビア語がかなり優勢である。サウジスタイルのせいか、どうもアラビア語の看板が目立つ。中にはアラビア語オンリーの広告まである。ドバイであれば英語がやや優勢もしくは同列ぐらいだが。
どこにでもある外資系チェーン店(スター・バックスやマクドナルドなど)が多く展開するドバイでは、英語のブランド名をアラビア語表記にしたものが多い。一方で個人商店が多いシャルジャでは、本来の店の名前はアラビア語で、英語表記を後から足している、という印象を受けた。
この辺からして、世界中からの観光客を迎えるため、英語を浸透させ情報インフラを整えているドバイとは違う。
まだ町に降り立っていないのに、すでにバスの中にまでその雰囲気が漂ってくる。