アラブとペルシャが交錯する場所。海沿いの商店街を訪ねて【ドバイ郊外の町を行く】その2

シャルジャについてまず向かったのは、ヘリテージ・エリアだ。特に目的意識を持って行ったわけではないが、ふらふらとさまよっているとこのエリアへたどり着いた。いかにも観光客向けの場所である。

ヘリテージ(伝統)という名前からして、伝統的なUAEの建物が密集したエリアになっている。光に集まる虫のごとく、人が集まる場所へと自然に足が行く。たどり着いたのは、「アル・アルサ・スーク(Al Arsa Souq)」と呼ばれる国内で最も古いスークの一つだ。

スークで感じる歴史の断片

こうした観光客向けのスークでは、歌舞伎町で「かわいい子入ってますよ〜どうですか〜」とばかりにキャッチという名の店員に捕まるのがオチなので、早急に切り抜けたいところである。また、買う気もないのに、相手をその気にさせても悪いなという思いもある。

しかし、運悪くキャッチに捕まってしまった。誘導された場所は、お土産というよりもアンティークショップである。キャッチの兄ちゃんは、イエメンとUAEのハーフでシャルジャ生まれ。名はサラという。雰囲気がちょっとさかなクンに似ている。

「メイド・イン・UAEのものってあるの?」
「ここにあるよ?」
「え?どこ?」
「オ・レ☆」

さかなクンのごとく「ギョギョ!」などとは言わないが、こんなやりとりをするあたり、ギャグセンスはやっぱりさかなクンレベルである。

もはやお土産探しというよりも、お宝探しである。古本、ラジオ、レコード、古銭、切手などが店内に所狭しと置かれている。


アーミラリ天球儀。星や月の位置を観測するために用いられた

中には、ソマリアの50シリング札まで売っていた。1991年にバーレ政権が崩壊し無政府状態になって以降、刷られなくなった札だ。ソマリアを旅行した時も、1,000シリング札は大量にあったが、50シリング札を国内で見ることは一度もなかった。なかなかレアな店である。

UAEのさかなクンは、逐一商品の説明をしてくれる。中でも特に目を引いたのが、アラビア語の古本である。保管方法がよくないのか、それとも単に古すぎるだけなのか、とにかく本はボロボロである。


イラクやエジプトなどさまざまな国の古本が並ぶ

ちょうどアラビア語を勉強し始めたので、私にでも読めるだろうか、と尋ねる。さかなクンが「これ、読んでみい」と指差した本の一文を見やる。

読める、読めるぞ!

「天空の城ラピュタ」で、ムスカが古代文字を読むシーンさながら、私はひどく興奮してしまった。

アラビア語をかじり始めたばかりだというのに、古本の一文(単純にイスラム教徒であれば、誰もがわかる一文というカラクリ)が読めるというこの感動。さかなクンとこの感動を分かち合いながら、キャッキャッしていた。

しかし、現実はそう甘くない。無造作に積まれた古本は、簡単に買えるものだと思いきやなんと安いものでも一冊2万円はするという。

さかなクンによると、地元のテレビ局などが番組作成の資料として購入をしていくという。ここで初めてさかなクンは、私を商品を購入する客だとみなしていないことに気づき始めた。どう考えても、その辺を歩いていた人間が衝動買いするようなものではない。さかなクンは、単に店のコレクションを紹介したかっただけなのだ。

ただ、商品を紹介して、単純に人との会話を楽しむ。そこには、店に入ったら買わなきゃというプレッシャーを感じる必要は一切なかったのだ。独り合点した後は、さわやかに挨拶を交わし、さかなクンの店を去った。

アラビア湾の対岸からやってきた人々

スークを抜けふらふらと歩いていると、個人商店が並ぶ海沿いの街道に出た。ヘリテージ・エリアに隣接するスーク・アル・バハル(Souq Al Bahar)と呼ばれる場所だ。

それにしても、とにかくUAE人が多い。もしかしたらイラン人かもしれないが。

UAEからアラビア湾(イラン側はペルシャ湾と呼んでいる)を挟んで150キロほど先にはイランがある。UAEの建国前からイランとこの場所は、人やものが盛んに行き交っている。UAE国内のイラン人の人口は40万人と、マジョリティ集団を形成する一つとなっている。

それゆえ昔からこの地に住んでいるイラン人は、UAEの伝統衣装を着ている人もいる。同じ衣装を着てしまうとイラン人なのかUAE人なのか見分けがつかないと思うが、ドバイ生まれの友人いわく「肌が白かったらイラン人だ!」という。

一方で、ペルシャ湾のホルムズ海峡上にはゲシュム島という島がある。イランの島ということになっているが、UAEからフェリーで行けるほど、地理的には近い場所にある。そこには、UAEの伝統的な生活様式で暮らすアラブ人が住んでいるらしい。イスラーム教のシーア派が多数を占めるイランだが、その島ではスンニ派の少数コミュニティがあるのだとか。

UAE、イランという国境線が敷かれてしまったけれども、かつてアラブ人とペルシャ人が行き来していた名残が、この海岸沿いにはある。

海沿いの商店街にも、イラン人オーナーが経営する店があった。オーナーはイランのシラーズから来たおっちゃんだ。店の前を素通りしようとしたら、近くにいた男が自分の店でもないのに、「入ってみんさい!写真もとってええで!」となぜか店内へ誘導してくる。当のおっちゃんは、暇そうに店の目の前の椅子でくつろいでいる。

ほとんどはイランからの輸入品だというが、中には手作り感満載のユーモア溢れる商品もあった。


手作り感満載のUAEの伝統工芸品を貼り付けたミニマグネット。なぜワセリンがついているのかは謎

現地の人々と買い物を楽しむ

それにしてもこの海沿いの商店街は興味深い。ドバイでは見かけないものばかりだし、個人商店ということもあって独特の雰囲気を出している。

どの店も「レジ」という画期的な発明品はまだ導入されていないようで、机の引き出しから札を取り出すスタイル。

レジ代わりの机の前には、太ったUAE人のおばさんが踏ん反り返って座っている。狭い店内を回ってみると、なぜかおっさんが椅子に座り狭い通路をふさいでいる。客の定位置すらもドバイと違う。

現地で親しまれている「バフール」や「ウード」といったお香にしても、この商店街であれば、20~50ディラハムで手に入るのに対し、ドバイの観光施設だとその1.5倍以上はする。こちらから交渉しなくても、向こうから値引きをしてくれることもある。


アラブのお香ボックス。使用頻度にもよるが上記のサイズで2〜3ヶ月はもつとのこと。価格は「バフール」が25ディラハム(約750円〜)、「ウード」が40ディラハム(約1,200円〜)


お試し用サイズの「バフール」も。価格は5ディラハム(約150円)


メイドイン UAEのエア・フレッシュナー。香りはやっぱりアラビアンな香り


コーヒー文化が根強いUAEでよく見かけるコーヒーポット

商品を丁寧に見ていくと、UAEの人々の生活が浮き上がってくるようだ。食器屋で、大量に置かれたおちょこのような形をしたコーヒーカップ。同じ柄が10~20個単位で販売されていることから、大勢の客たちを招く機会があるのだろう。

お盆にしても、とにかくサイズが日本のそれよりも1.5倍以上はある。こちらも来客用や親戚同士での集まりなどに使うのだろう。UAE人を含むアラブ人家庭は一般的に家族の人数が多い。3人兄妹なんてざらで、一つ上の世代ともなると兄妹が5人以上というのも普通だ。逆に1人や2人だけという方が彼らにとっては珍しい。

そんな家族の”サイズ感”さえも伝わってくるのが、現地の人々が利用する商店街。そこでは、ショッピングモールからは決して伝わらないものがある。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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