海外にいるとなぜか足が向いてしまうのが、動物園である。
動物に遭遇した各国の人々のリアクションを見るのも一興なのである。
今回私が行ったのは、UAEのアル・アインという場所にある動物園。ドバイからバスに乗り、2時間ほどかけていった。当日の気温は45度越え。
バスにあった温度計は47度を示していた
何も、そんな日に行かなかくてもよいじゃないか、と人は思うだろう。
しかし、行きたいと思った時に行かねば楽しさも半減するし、45度以上という未知の世界で人と動物はどうなるのか、というこれはある種の探検なのである。
このことを知人に話したら「バカじゃないの」と言われたが、冒険も探検も普通の人間からすれば、「バカみたい」だとか「無謀」だと言われるのだ。よって、私は褒め言葉として、それを受け取った。
暑すぎて人がいない動物園
アル・アインは、首都アブダビの一部だが、ドバイやアブダビに比べるとローカル感が強い場所である。
ほんの数時間前までは、5Gだのウーバーだのといっていた世界が急に遠く見える。
人気が少ない市街地から車で、20分ほどでついたのが、アル・アイン動物園である。
動物園にやってきたものの、入り口からして、もはや閉鎖寸前のような状態である。
誰も人がいない・・・
閉鎖寸前のテーマパークのような静けさ
到着したのは、昼過ぎ。1日のなかで、最も暑い時間帯である。クーラーのきいた室内から、出るのをあからさまに億劫がっている係員の雑な出迎えすら、気にならないほどの暑さである。
猛暑に対する動物たちのリアクション
果たして、動物たちはどうしているのか。暑さに対する動物たちのリアクションは、主に2パターンに分けられた。
1つは、暑さに白旗宣言をかまして、活動休止している動物である。ライオンやヒョウといった動物園の目玉の動物たちが、これにあてはまる。
彼らは活動休止しているので、檻の中をのぞいてもその姿はない。
では、どこにいるのか。
クーラーが効いている室内である。
UAEは、1年の半分が40度近くの暑さになる国である。
よって、多くの檻には、クーラーが効いている小屋が設置されている。そして、動物たちは、暑い日中の間は、室内にこもっているわけだ。
クーラーが故障して、お亡くなりになった動物もいた、という話を動物園ではたらく職員から聞いた。
予算の都合なのか、見た目的に「クーラーいらんやろ」という判断を下されたのか、クーラーがないゾーンもある。特に鳥や小動物ゾーン。
クーラーという心の支えを失った動物たちは、必死に影の中に体をおさめている。
しかし、よく見ると、息遣いがめちゃくちゃ荒いのである。スタンディングオーベーションの拍手のような感覚で、爆速で心臓が動いているのがわかる。
うわあ・・・
これはもう気の毒としか言いようがない。
おしくもクーラー設置対象から漏れてしまったキリンゾーン
一方で、45度の中でも、平然と活動をする動物。
砂漠地帯に生息するガゼル。がんばれば最高瞬間速度で、97キロ出せる。
オリックス。白い体は、太陽の光を反射させ、体内に熱をこもらせないようにする。こう見えて、結構凶暴。
多くは、アラビア半島や砂漠地帯に住む動物である。デフォルトで砂漠で生活をしているのだから、いちいち「この暑さ、たまんねえぜ」などと、暑さに反応している暇はないのだろう。
彼らは、のそのそとその辺を徘徊したり、木陰で優雅に休んでいた。
猛暑の中でも通常活動していたのは・・・
その中で意外にも活動的だったのが、バブーンである。
日本ではヒヒと呼ばれる動物である。しかし、響きとしてはバブーンの方がカッコいいので、ここではバブーンを呼び名として採用する。
主にアフリカに生息する種類が多いが、動物園にいたのは、ソマリアやイエメン、サウジアラビアに生息するタイプのバブーンであった。
サウジアラビア南部の山に生息する野生のバブーン
このバブーンとやら。まあ、人間らしい。
なんかエサを食べているな、と思ったら、突如としてオスとメスがハグをして、キッスをし合い、そのまま、ことになだれ込もうとする。
一体何を見せられているのか。
目の前にいるのはバブーンだが、なんだかこちらまでドキドキしてきたぞ。
さすがにバブーンも人前だということに、恥じらいを覚えたのか、場所を変え、再びイチャイチャし始めた。
かとおもいきや、ボス猿が割り込んで、「ギャース!」という奇声をあげながら、ケンカをおっぱじめている。
クレヨンしんちゃん新喜劇である。
45度のクソ暑い中何やってんだよ、と思ったが、考えてみればそれは私の方である。
バブーンめ、などと高みから鼻で笑っていたが、笑うべきは、45度の猛暑の中、動物園を徘徊している自分なのではないか、という結論に至った。
絶滅寸前のスナネコに会えたものの
この動物園で珍しい動物といえば、砂漠に住む猫「スナネコ」である。
アラビア半島の国やイスラエル、モロッコ、パキスタンなどに生息していると言われている。準絶滅危惧種に指定されている、貴重な猫である。
スナネコ
貴重な猫をみたのはいいものの、動物園の動物がよくかかる常動行動の症状が出ていた。同じ場所を行ったりきたりして、同じ動作を不自然に繰り返している、あの行動である。
ずいぶんと整備された動物園のように見えるが、それでも砂漠を生きる動物にとっては、狭くストレスを感じるのだろう。
45度の中で人はどうなる
汗が止まらない。
そして日差しが痛い。寒さと同じく、何事も行き過ぎると痛みに変わるようである。
広い園内にクーラーが効いている休憩場所は、ほぼない。おおよその動物たちにはクーラーが与えられているが、人間にはそれがない。過酷な状況である。
唯一の休憩所ともいえる、シェイク・ザイート・砂漠ラーニング・センター
園内は無駄に広く、ほとんどの客はゴルフカートで楽々移動している。緑あふれる園内だが、体感的には、果てしない砂漠を歩いているのと同じである。
視覚的にはそよ風がふいて心地よさそうな空間だが、実態は砂漠
金色のゴルフカート
ポツリポツリと園内にある、ジューススタンドでの水分補給の機会を逃せば、一貫の終わりである。ジューススタンドは単なるジューススタンドではなく、命のオアシスであった。
木陰で休憩していても、鼓動が異常なまでに早い。間違いなく、心臓の鼓動の人生最速記録を叩き出しているに違いない。
クーラーという拠り所を持たない、先ほどの哀れな動物たちと同じ境遇である。
さらに暑さによる異常が見られたのが、電子機器である。
スマホなんか焼け石のごとく熱い。このままいくと爆発しそうなので、何本か冷えたペットボトルの水を買い、水でスマホを冷ます。
さらに一眼レフカメラについていたグリップ部分の皮が、暑さで接着剤が溶け、取れてしまった。10年以上使っているが、こんなことは初めてである。
3時間近く灼熱の園内を歩き続けて、出口近くのクーラーがついているトイレに駆け込むと、そこには、ゆでだこ状態の私がいた。
いろいろ書いたが、あまりにも気温が高い中で行動すると、後に残る疲労が激しく、その時の思考や感情が途切れ途切れになる、というのが個人的な感想。
今となっては、なぜわざわざ動物園に行こうなどと、思い立ったのか。それすらも、よく思い出せずにいる。