寒いなあ・・・ドイツに来てからそんなことばかりぼやいている。家にはシャワーしかないし、とにかく体が冷えてしょうがない。そんな時に発見したのが、近所にあるサウナスパ「ババリ」である。
このことを友人に話すと、「あそこはマジで最高だぜ!前行った時には12時間も滞在したからなっ。サウナも特別で心地よいヒーリングミュージックとともに・・・」うんぬんかんぬん。
サウナに12時間も滞在・・・?
サウナでヒーリングミュージック・・・?
謎は深まるばかりである。
というわけで、何やら普通のサウナではないことだけはわかったので、友人と連れ立って行くことにした。しかし、問題は、ドイツにおけるサウナルールである。そう、ドイツではサウナでは裸で入らなければならない、しかも男女混合ルールなのである。
友達は異性である。うーん、裸の友達とサウナ・・?リラックスするためにサウナに行くはずなのに、なぜかこうしたドイツ式ルールに、躊躇している自分がいた。何せ日本の公衆浴場でさえ、ちょっと苦手な人間である。楽しめるのだろうか・・・しかし、ベルリンに来た理由が、トップレスに慣れることなので、ここはやるしかないのである。
ちなみにドイツの普通のサウナだと、年配の男性が多いとのことだが、このババリに関しては、男女比率が1:1なので初心者でも行きやすいとのこと。また、ドイツ人女性が全く裸を気にしないわけでもなく、気にする人ももちろんおり、気にしない人は普通のサウナにも行くとのことであった。
平日でも大行列なサウナスパ
そんなこんなで当日を迎えた。我々が行ったのは、金曜日の午前中。平日だから予約など要らぬだろうという算段だったが、現実は違った。
長蛇の列・・・!
「おいおい、金曜の午前中だぜっ。信じられないよ」
我々だって金曜の午前中から来てるじゃないか・・・
そう。ババリはベルリンでもトップクラス?に有名なサウナスパらしい。我々は10分程度で済んだが、後で施設内であったおばさま等に聞くと、2時間待って入ったという。ディズニーランド並みなのである。しかし、それだけ待っても入りたいという気持ちは、のちになってよくわかる。
平日の午前ということで、年配の人が多いのかと思いきや、ほとんどが20~40代と見られた。さらに、待っている人々の格好も違和感がある。サウナに行くのに、なぜかほとんどの人が、高尾山に登山に行くのか、熱海に日帰り旅行でも行くのか、というぐらい、大きな荷物を抱えている。この理由も後ほど判明する。
これはスパの行列なのだろうか・・・?
裸体の衝撃
施設の中へ入ると、そこはまるでバリにある高級ホテルのフロントと見紛うほどオシャーな空間が広がっていた。簡単な説明を受け、リストバンドをもらい中へ。施設内の会計はこのリストバンドを通じて行われる。あれ、こういうのって前払いじゃないの・・・?この理由もまたのちに判明する。
我々がまず向かったのは脱衣所。といっても、近未来的な黒光りのロッカーが並ぶ、オシャーな脱衣所である。そしてここから男女混合ルールが発動。おっさんのけつを目の当たりにしながら、下着姿の私。なんだこれ・・・
ババリは、サウナだけでなく、温水プール、レストラン、休憩所などがそろっている。施設内には10の大小様々なサウナがあり、ドイツ発祥の”アウフグース”が時間に応じて行われる。アウフグースというのは、簡単にいえば熱波パフォーマンスみたいなもので、人間が手動で巨大な団扇を振り回し、熱波を客に当てるもの。これによってより熱さを感じることができる。
館内には空港のフライトボードのようなタイムテーブルがあり、どこのサウナで何時にアウフグースが行われるのかをチェックすることができる。よって、単にサウナに入り楽しむのではなく、アウフグースの時間を狙ってサウナに行くのが、ここでの楽しみ方らしい。中には、紙とペンでメモまで取っている人もいた。
アウフグースが行われるサウナに行ってみると、
ぎゃっ
小さなサウナに20人ほどの裸人間がぎっしり詰まっているのである。あの衝撃と言ったら・・・というわけで、1回目は満員御礼で入れず。仕方がなく我々は”フツー”の別のサウナに入り込むのであった。
アウフグースはスピリチュアルなサウナ体験
そして別のサウナでいざ、アウフグースを初体験。サウナ初心者だというのに、一番上に座ったのが間違いだったらしい(サウナは上段の方が暑い)。平常時でも暑いのに、アウフグースが追加されると、もう耐え難いぐらい暑いし、痛い。エルニーニョ現象を1万倍ぐらいしたような熱さで、心臓発作になるのではと思ったぐらいである。しかしこれも回数を重ねると、楽しみ方がわかってくるようになる。
アウフグースは単純に熱波を仰ぐものではない。とても儀式的なものだった。熱波師が入ると、まずは名前を名乗り、どのようなアウフグースになるかを簡単にドイツ語で説明する。英語の説明が必要ですか?と聞かれるが、誰も手をあげない・・・
所作も茶道のように、1つ1つの動作が儀礼的である。まるでパフォーマンスを見ているかのようである。そしてそれを見守る裸の”観客”たち。儀式が終われば、観客たちは熱波師に拍手を送る。サウナというより、ミュージカルを見ているような気分である。
凝ったアウフグースになると、アロマつきの熱波や、バリの伝統ミュージックを流しながらといったものなど、もはやサウナというより瞑想の世界である。バリミュージックがかかっているサウナでは、いびきをかいて寝ている人もいた。それぐらい心地よいのである。ちなみに、サウナでは人が少なければ、寝っ転がるのもOK。とても暑いというアウフグースでは、施設内にある氷を雪玉のように固めてサウナに持ち込み、冷ましながらその熱さを体感する。
そんな異世界サウナを体験していると、だんだん頭がぼーっとしてくる。裸の大衆が熱波を浴び、「はー」だの「うー」だの熱さを堪えるため息を出す。そこには、宗教儀式のような一体感が生まれる。
そこで人々は何に向き合うのだろうか。裸体の我々を覆うものはない。よって、徹底的に内なる自分と向き合うことになる。これが日本のサウナであれば、どこそこをタオルで隠したり、乾燥を気にしてみたり、余計なことを考えてしまうかもしれない。しかし、裸の人間たちが集うという原始的な空間では、意識が海底に届きそうなくらい深く沈む。それを可能にするのは、裸であるというルールや、サウナ内では基本的に静かにする、キャンドルで照らされた仄暗い空間である。
サウナは単にリラックスするもんだと思っていたが、そこを超えて何やらスピリチュアルめいたものがあるのではないかと思った。
男女混合ルールは意外とすぐに慣れる
人間というものは恐ろしい。異常だと思っていても、大人数がそれをやっていると異常だと感じなくなる。というわけで、あれだけ懸念していた男女混合サウナも、10分ほど経てば、普通に受け止めている自分がいた。あらゆる裸体が目に飛び込んでくることで、脳も何も感じなくなるらしい。逆に服を着ているスタッフを見ると、違和感を覚えるレベルである。というか、交感神経が活発になることで、裸のことなんかどーでも良くなる。
というわけで、初めは異性とサウナか・・・と思っていたが、やってみるとなんのことはない。カラオケに友達と行くようなもんである。
誰にでも体のコンプレックスはあるだろう。しかし、ドイツのサウナでは全くそれを感じることがなかった。なぜならあらゆる裸体がそこにあり、自分のコンプレックスがある体も、その多様な裸体の1つだと感じることができたからだ。サウナで目の前にふくよかな女性が座った。直視はしないが、それは縄文時代の土偶を連想させるものであった。そう、裸は原始的なもので、そこに社会的なルールやアダルトビデオといった人工的な視線が、裸=エロい、という刷り込みを生み出しているのではないかと思う。そして現代のSNSが追い打ちをかけるように、完全なボディとそうでない自分の体の差異を明確にし、体のコンプレックスを生み出している。
施設内の温水プール。幻想的な空間である。プール内でカップルがいちゃついていたが、ドイツの友人曰く「ハッピーならそれでいいじゃないか!」とのこと。私も裸で泳いでみたが、なんだか不思議な感じだった。写真はババリの公式サイトより。
ベルリンの街中ではいろんな人がいるが、スパに来ている客層はいわゆる日本人がイメージするドイツ人が多かった。ムスリムは宗教的に男女が裸になるサウナはNGなので来ないにしても、アジア系も数人いたぐらいだし、アフリカ系もほとんどいない。そして、ティーンやキッズもいない。それゆえに、スパは伝統的なドイツの雰囲気をまとった大人のための極上空間となっていた。
心地よすぎてやめられない!スパの恐怖
そしてこのスパの恐怖が始まる。単にサウナに入って終わりではなく、レストランや休憩所が併設している。日本のスーパー銭湯みたいなもんでしょ?と思われるかもしれないが、違うのだ。休憩所は、バリとヨーロッパテイストで、1つ100万円はしそうなソファがいくつも置かれた談話室や、暖炉を囲んだおしゃれな空間が広がっている。そこでバスローブに身を包んだ人々が、本を読んだり、寝ていたり、ぼーっとしていたり静かに過ごしている。まるで映画の世界に入り込んだような感じである。
映画のセットですか・・・?写真はババリの公式サイトより。
ここで行列の人々の大荷物の理由が判明する。皆、本や飲み物、自分のバスローブやタオルを持ち込んでいるので、あんな大荷物になるのである(バスローブやタオルはレンタルできるが高い)。優雅なスパ空間というのに、大きな荷物を持ちながら移動するドイツ人は、やはり堅実な人々なんだなあと思わされる(飛行機に乗る際、ビジネスやファーストに乗る客ほど荷物が少なく小さい)。基本的にサウナやプール以外ではバスローブの着用が必須で、スマホの持ち込みも禁止。これがとんでもない罠なのである。
あまりにも居心地が良すぎる空間のせいで、動けない・・・のである。そう、時間指定のチケットを前払いで買えば時間を気にしてもう行かなくちゃ・・・になるのだが、スマホも時間制限もないので、心地よさに身を委ねて、ソファに沈んでしまうのである。そして結局、長々と滞在してしまうのである。それを狙ってか施設内にはあまり時計が置かれていない。とんだ策士である。
レストランも最高としか言いようがない空間で、普通のテーブル席もあるのだが、足掛けがついた一人用のソファで、美味しい料理を食べる至福といったら・・・大人でもこんな風に食べていいんだ!という開放感により、さらなる心地よさを生み出す。映画『ホームアローン2』でケビンが、スイートルームでくつろいでるようなアレである。レストランの食事もすべて後で会計するので、気が緩んで色々食べてしまおう、という気分になる。結局我々は、ランチだけでなく、軽食でスイーツまで食べてしまった。またレストランでは、ワインやビールも飲める。
天国か・・・!
私は引きこもり型なので、あまり外にいるのが好きではない。人がいるとリラックスできないからだ。しかしこのスパは人が大勢いても、まるで自分の家にいるようなリラックス感を味わえてしまう。レストランで、向かい合わせのソファに女性が1人で座っていた。白ワインに何やら美味しそうなケーキ。手には新聞を携えて、優雅に時間を過ごしている。「そのケーキ、美味しそうだね」といって、我々も同じものを注文する。こうした客同士での小さな会話もここではよく生まれる。民度が低い場所はよくあるが、ここは民度が高すぎるぞ・・・!
あまりにも心地よすぎる非現実空間で、サウナに来ていることなどすっかり忘れてしまう。サウナに入りすぎて交感神経がマックスになり、現実なのかすらわからなくなってしまうほどである。できたらここに数日間住みたいぐらいである。
や、やべえ・・・
このままでは深夜まで居着いてしまう。早く現実に戻らなければ・・・!わずかな理性がそう呼びかける。というわけで、友人をなんとか説得し、「もう現実に戻ろうよ」といったが、友人は「あともうちょっと!」とまだまだ粘る気である。というわけで、もはやサウナに入った回数など覚えていない。滞在時間はなんと8時間。お会計はなんと100ユーロ!ととんでもない請求になってしまったのである。
しかしあれだけの体験を考えれば、悪くもないとすら思ってしまう。このスパは真に現実を忘れさせてくれる。それは皆が裸だからではない。あそこは大人のためのアミューズメントパークなのである。世界には子供が楽しめる場所はごまんとあるが、大人が楽しめる場所といえば・・・?大人になってこんな楽しい施設は初めてだと思ってしまうぐらいである。
しかも、8時間もスマホに触っていない。何気にスマホデトックスにもなる。現代社会を生きていれば、日中こんなに長時間スマホに触れない機会は、まずないだろう。施設内の人々は、本を読むなど、一昔前の余暇の過ごし方をしていることも、心地よさの要因かもしれない。
そして、暗い冬だというのに、スパにいる間は、それをすべて忘れさせてくれるのである。憂鬱な冬が長いゆえに、ドイツ人は室内での快適空間を作るのが上手いなあ、と感じたのであった。
ババリ(vabali)について
バリや東南アジアをテーマとした巨大スパ施設。ベルリン、デュッセルドルフ、ハンブルグにある。10のサウナ、3つの温水プール、レストランなどが併設。マッサージも別料金で受けられる。テーマごとに様々なサウナを楽しめるのが特徴。1日いても飽きることはない。
予約
平日でも予約は必須。予約なしでも入れるが、時間帯によっては待ち時間が長くなることも。予約をすれば、寒い中待たずに済むのでベター。予約は公式サイトから。
料金
2時間:27.50ユーロ
4時間:36.50ユーロ
6時間:43.50ユーロ
デイパス:48.50ユーロ
*2.5時間という場合には、最初の30分だけは4ユーロの追加ですむが、その後は4時間のフル料金となる。
*クリスマスなどの祝日には数ユーロ高くなる。
*バスローブやタオルのレンタル代は別
レストラン
食事はだいたい1食9ユーロ〜とそれほど高くない。アジア、ヨーロッパなどインターナショナルな料理がメイン。朝食、軽食、ディナーなどフルで提供。クオリティも良い。好きな席に座っているとオーダーを取りにきてくれる。
持ち物
・サンダル:施設内を歩き回るのに必須。いらないと思ったけど、絶対いる
・バスローブ:レンタルできるが、レンタル品だと他の人と混じってしまう可能性がある
・サウナ用と体をふく用の2枚のタオル:サウナ用は大きめのものが良い
・飲み水:施設内でも無料の水飲み場はあるが、数が少ない。1リットル以上は持ってきた方が良い
・本など:休憩所で時間を過ごすためのもの。スマホは持ち込めないので紙の本かキンドル
・大きめのエコバッグ:上記を入れるためのもの。館内に荷物を置く場所がある(鍵付きではない)
サウナマナー
・基本的にサウナ内では裸で。ミニタオルなどで体を隠している人はいない
・サウナ内ではタオルをひいて座る:臀部だけでなく足まで敷き、体が直接つかないようにする
・温水プールでも裸で(テキスタイルフリーというポリシーのため?)
・サウナに入ったらシャワーを必ず浴びる
・アウフグースが始まったらサウナに入ることはできない(暑すぎる場合、出るのはOK)
・髪が長い場合はまとめておく
その他
・スマホの持ち込みは禁止
・サウナに入る前のシャワールームがある
・メガネは持ち込み可能。置き場所もある
・ドライヤーも設定している
・室内にはブランケットなども置いてある
・アウフグースは15分程度
・ババリだと英語が話せるスタッフが多い
・温泉みたいな場所もあるが、日本の温泉と比べるとかなりぬるい
・ルールではないが、男女ともに下の毛を処理している人が多い