か弱い人を守ろう。それが一般的な社会通念である。電車には、優先席があるし、困った人々のための社会福祉もある。その理論でいえば、路上での弱者は歩行者である。よって歩行者優先であるべきだと思うのだが、ドイツに住んでいると、歩行者の安全が脅かされているような気がしてならない。
そう、歩行者を脅かすもの。それがチャリダーたちの存在である。
ドイツでは自転車専用のレーンがそこかしこにあり、基本的に歩行者と自転車は棲み分けをされている。
自転車に乗る人からすれば、ドイツは天国みたいな場所だろう。おまけに、自転車を電車内に持ち込むことも可能で、車内には自転車専用のスペースもある。チャリダーたちは特権階級なのだ。フランスからやってきた知人に聞くと、「フランスは道路が狭過ぎて車ですら通れない道があるんだから・・・ドイツは恵まれてるよ」などといっていた。
歩行者と自転車レーンが分かれていれば問題ないじゃないか、と思うだろう。確かに自転車レーンが、規則的かつ車道の隅っこにあれば、問題はない。我々は平和に暮らしていける。しかし、どういうわけだが、時々歩道の半分を占領していることもあるのだ。
やたらと自転車レーンが広くないか?
これがなかなか見分けにくい。だから、歩道を歩いているつもりでも、自転車レーンを歩いていて、後ろから全速力の自転車がやってくるとヒヤッとする。
これだけならまだいい。
雨の日に歩道を歩いていると、何やら騒がしい声が聞こえた。見やると、チャリダーが猛烈な勢いで車に罵倒している。どうやら車と自転車がぶつかったらしい。さらに恐ろしいことに、単なる罵倒では気が済まないのか、チャリダーは車を拳でぶん殴っていた。しかもチャリダーは女性であった。
ひえっ
怖すぎる
チャリダーを怒らせたらとんでもないことが起きる・・・ということを学ぶには、十分すぎる教材映像であった。
またある日、ベルリン中央駅でバスを待っていると、ベビーカーを連れた家族連れが道を横切ろうとした。そこへ猛烈なスピードでやってくる自転車。あっ!と思った瞬間、チャリダーはものすごい剣幕で家族連れに怒鳴り散らした。その剣幕に驚き、縮こまる家族たち。なんと哀れな光景だろう。心が痛むぞ。同時に、悟った。奴らは憎き敵だと。
専用レーンという特権を手にしているせいか、一部のチャリダーたちはどうもつけ上がっているような気がする。日本の自転車であれば、歩道では基本的にゆるゆる走行だが、ドイツのチャリダーは競輪中か!と思うぐらいのスピードで走っている。それが人混みの多い通りであっても、である。
というわけで、歩道を歩くにしても、自転車レーンの領域を犯さないように、慎重に歩く必要がある。歩行者は車と自転車の両方に気をつけなければならない。そのようにして生活していたわけだが、時にはうっかりもあるわけで。
信号を渡ろうとしていたら、左手にチャリダーが迫っていた。私は気づかずに渡ろうとしていたが、チャリダーが大声で「あぶねえ!」というので、反射神経で退いた。間一髪で退いた私にチャリダーは、「ありがとさん」といって猛スピードで去っていった。
しかしよく考えたらあの時、車でさえ一時停止してくれたのに、あのチャリダーはなんなのだ、という怒りが湧いてきた。この話を先の知人にすると、「チャリダーはドライバーのことをマナーがなってないっていうし、歩行者はチャリダーのマナーがなってないっていうのよねえ」。そう、路上では三者三様の思いで、お互いに憎しみ合っているのである。