パキスタン最大のメガトン都市カラチは、国内のビジネス中心地でもあり、他の都市にない活気がある。またカラチ近郊には、見応えのある世界遺産スポットも点在。まだ知られざるカラチの魅力と観光スポットについてご紹介。
カラチとは
パキスタンで最大規模を誇る都市がカラチである。インドパキスタンの独立をきっかけに、インド側から多くのイスラーム教徒が移住したことで、人口が一気に増加。今では1,700万人近くの人々が住んでいる。カラチに住む多くのイスラーム教徒に聞けば、もともとは現在のインドに住んでいたという人もちらほら。パキスタン建国当初は、カラチが首都であったが、気候や民族構成を考えた上で、新興都市イスラマバードへと移転した。
カラチを訪れる理由
ビジネス目的でカラチにやってくる人はいても、観光客はほとんど来ない。観光客に人気の北部から離れている上に、それほどめぼしい観光スポットがないと思われているからである。確かにカラチ市内は、大自然もムガール帝国時代の歴史的な建築もない。
一方で、パキスタン最大のメガトン都市でもある。インドのデリーのような混沌とした風景がそこには広がる。また北部とは環境も大きく異なるため、”ザ・パキスタン”という雰囲気を味わうなら、訪れる意味はある。
またカラチ近郊には、まだ発掘途中の古代都市遺跡や、タッターの文化財もある。こうした近郊スポットを目当てに、カラチを起点とする観光客も多い。
カラチを訪れる時期
カラチを訪れるなら、過ごしやすい気温になる11月から2月がオススメ。4、5月は日中の気温が40度ほどになる日も珍しくない。といっても、朝や夜になると過ごしやすくなるので、観光ができないほど暑いというわけでもない。
カラチの治安
町を歩く際には、過度に怖がる必要はないが、最低限の注意は必要。カラチに限らず人が多い場所では、犯罪も含めいろんなことが起こる。
夜に出歩く際は、必ず現地の人と一緒に行動するべし。カラチでよくある犯罪が強盗。バイクに乗った運転手が銃を突きつけて、現金やスマホ、貴金属を奪うというものである。これは車に乗っていても同じことが言える。車に乗る際には、窓やドアの鍵を閉めておくべし。
また近年ではクリフトンビーチでのぼったくりにも注意。ビーチではラクダや馬に乗れるが、最初の交渉の値段よりも、後で高額な請求をされるという被害をちらほら聞く。
空港から市内へ
空港から市内へは公共の交通機関がないので、サービスタクシーもしくは配車アプリ(カリーム、ウーバー)を利用することになる。
空港を出てまっすぐ進むと、タクシーオフィスがいくつかある。オススメはMetro Radio Cab。行き先を伝えると、車を手配してくれる。料金は10キロまでは定額。その後は1キロあたりで料金が加算される(車にメーターはないので、運ちゃんによる手動計算)市内まではおよそ30~40分程度。料金はおおよそ1,500~1,700ルピー。
配車アプリは呼んでも時間がかかったり、来なかったりするケースもあるので、あまりあてにならない。できれば知人やホテルに送迎を依頼するか、先のサービスタクシーを使うと良いだろう。
ちなみに空港内にはSIMカード売り場はない。市内に数件しかないフランチャイズ店を探して、SIMカードを取得する必要がある。
市内の移動
カラチでは、市民の足であるリキシャーやバスなどがあるが、交渉が必要だったり、バスには行き先が書いていないので、利用するのはハードルが高い。よって、カリームやウーバーでの移動が便利。
またカラチの町は広く、観光スポットは市内に点在している。場所にもよるが、だいたい車で15~30分ぐらいの移動距離である。またカラチはラッシュアワーなど限らず渋滞がひどいので、時間がかかることもある。
安全のため一人で街中を歩くのもなるべく避けた方がよい(とジモティーは格言のように繰り返す)。というわけで、市内移動はもっぱら車がメインとなる。
ちなみに日曜日は休日で、個人商店は軒並み閉まり、人通りも少なくなる。道端でクリケットをする人々もちらほら見かける。
カラチ市内の観光スポット
モハッタ宮殿
ヒンドゥー教徒であり有力ビジネスマンであるモハッタの別荘として作られた。現在は、宮殿を改装した博物館になっており、地元カルチャーを紹介する展示会が定期的に開かれている。宮殿は、インド様式にヨーロッパの様式を加えた、インド・サラセン様式で作られている。宮殿内には、お土産や本を扱うショップがある。最新の情報はインスタでチェックすることができる。
パキスタン国立博物館
インダス文明の遺物、ガンダーラ美術、イスラーム美術作品などが、セクションごとに分かれ展示されている。ラホール博物館に比べると規模は小さいが、豊富な展示物は見応えがある。特にイスラーム教のコーラン写本などが充実している。
パキスタンはイスラーム教が多数派を占める国である。イスラームでは、偶像崇拝を禁じているため神の姿を表現することなど、畏れ多い行為であった。ゆえにイスラーム美術では、彫刻分野はほとんど発展しなかった。そんな国で精巧な仏教彫刻を見れるのは不思議な気もする。それと同時に、パキスタンという土地と歴史の多様性を知るきっかけにもなる。
クリフトン・ビーチ
単なるビーチと思いきや、パキスタンのビーチはクセがすごい。浜辺では、例によってデコ好きのパキスタン人によってデコられたラクダや、馬などが待機しており、乗ることが可能。
クリフトンビーチのデコラクダ。デコバスといいパキスタン人はやたらとデコるのが好きな模様。
休日には多くのカラチ市民がビーチに集結する。ローカルな人々の日常を垣間見れる場所である。ただし、海の水はかなり汚れているので、見るだけにとどめた方が良い。
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サンデーマーケット
パキスタンは日曜日が休日となっている。いつもは町は車だらけなのに、この日だけは車の往来も少ない。多くの個人商店が閉まる代わりに、町のいたるところで開かれるのが日曜市である。日曜市は市内でいくつかあるので、その辺のジモティーに最寄りの市を聞いてみると良い。
市場にはありとあらゆるものが並ぶ。日用品から食料品、布など。中古品も多くあり、服売り場ではユニクロ、カルバン・クライン、ザラなど、日本やヨーロッパなどで廃棄されたと思われる商品が並んでいる。いわば先進国で不要な”ごみ”になったものでも、ここでは”商品”として売られているのである。
エンプレス・マーケット
英領インド時代に建てられた建築物を利用したマーケット。主に食料品が並ぶ。衛生管理面においては少々難があるが、見ておいて損はないだろう。カラチ市内で最もにぎわうサダル地区にあり、お土産品やテキスタイルを扱うザイナッブ・マーケットやボホラ・バザールなどがある。
道端からみたエンプレスマーケット。時計塔が目印。建物の周りの芝生には、平和島の競艇場にいそうなおっさんたちが昼寝をしている。
ザイナッブ・マーケット
カラチでパキスタン土産を買うならオススメの場所。カシカリと呼ばれる伝統の絵付け陶器やタイル、雑貨、スカーフ、ジュエリーなどが売っている。中国製のものが多いのかと思いきや、意外にもメイドインパキスタンのものが多い。
ザイナッブマーケットがある通り。いつも道路は混雑している。
ドルマン・モール
自称”グローバルスタンダードなモール”を名乗るカラチ最大のショッピングモール。ナイキやアディダス、仏系スーパーのカルフール、Mango、Minsoなどが入っており、フードコートも充実。カラチ市内で安全かつ気楽に買い物ができるので、カラチ在住外国人の姿をよく見かける。ただし海外発行のカードが使えるATMがないのが残念な点。
ジンナー廟
パキスタン建国の父ムハンマド・アリー・ジンナーが眠る廟。建物はモダンなスタイルで70年代に完成。廟は小高い丘にあり、周りは緑が豊かな公園で市民の憩いの場にもなっている。
2022年時点では廟の中へ入ることはできず、今後の公開の見通しも立っていない。廟の近くには、小さな博物館がありムハンマド・アリー・ジンナーの当時の生活の様子を知ることができる。入場料は40ルピー。博物館への入場は100ルピー。
イー・トゥーバ・モスク
ジンナー廟と同じ時代に建てられたためか、どこか似たような近代的なデザインのモスク。巨大なドームが特徴。
ヘリテージ・ウォーク
カラチには英領インド時代に作られたコロニアル建築も多く残る。平日であれば喧騒と人の多さにかき消されて、その姿を見るのは難しい。しかし、人通りが少なくなる日曜日になると、その姿をはっきりと見ることができる。そんなコロニアル時代の建築物や場所を巡り歩くなら、ヘリテージ・ウォークツアーがおすすめ。
デコバス市内ツアー
パキスタン名物のデコバスに乗って、カラチ市内の名所を回ったり、ストリートフードを楽しめるツアー。カラチを知るのにはうってつけのツアーである。バスの上に乗ってカラチ市内を見ることもできる。
ツアーの内容は時期によってまちまちで、不定期開催。ただ、ガイドのレベルは非常に高く、友人の結婚式のためカラチを訪れたハリウッドスターのルピタ・ニョンゴが利用したことでも知られる。ツアーを利用する際には、事前にインスタから問い合わせるべし。人数や時期によってカスタマイズツアーを組んでくれる。
カラチ湾
カラチはアラビア湾に面する港湾の町。市内の中心部は、車や人にあふれ混沌としているが、港湾近くにやってくると、町の喧騒から離れ、ほっと一息つくことができる。チャイナ・クリークにあるマングローブを探索したり、近くのマノラ島へのボートが出ており、都会の喧騒とは一味違うカラチを見ることができる。またチャイナ・クリークに架かる橋には、トンビの大群がおり、なま肉の餌付をすることができる。
マノラ島
カラチのケマリ港から船で15分ほど行った場所にある小さな島。港からは、カラチ港湾局が運営する無料のフェリーがある。もしくは個人でプライベートボートを雇うこともできる(片道500ルピー程度)。
島には、イギリス植民地時代に建てられた灯台や19世紀のヒンドゥー教寺院などが残る。こじんまりとした島だが、”綺麗な”ビーチを求めてやってくる本土からの観光客も多い。島の見所は少ないが、島へ行く途中の港湾の景色は見応えがある。
マノラ島からみたチャイナクリーク
バーンズ・ロード・フードストリート(Burns Road Food Street )
多くのレストランや屋台が立ち並び、カラチ市民でにぎわう。インド英国領時代に建てられた建物の中にレストランが入っていて風情がある。ただ、食事中に物乞いが入れ替わりやってくるので、あまり落ち着いては食べられない。またドリンク系は絶対避けるべし。
ボホラ・フードストリート(Bohra Food Street )
パキスタンは様々な宗派や民族が暮らす国でもあり、食事にもそれが現れている。この通りには、ダウディ・ボーラ派と呼ばれる人々が住んでおり、ボホラ・フードは彼ら独自の料理のことを指す。規模はそれほど大きくないが、ローカル感があふれる屋台があって楽しい場所である。バーンズ・ロードから10分ほど歩いた場所にある。
カフェ・ブギー
カラチシティ駅近くにあるレストラン。レストランの入り口は、鉄道車両になっており、車両の中で食事をすることができるユニークなレストラン。
海沿いレストラン、コラチ(Kolachi)
カラチを訪れる外国人観光客に人気なのがこちらのレストラン。トリップアドバイザーでもカラチで人気No.1になっている。人気の秘密は、レストランから見えるシービュー。テラスデッキのすぐ下は海になっている。
もちろん料理の味も良い。思ったほどシーフード料理が充実していなかったので残念といった声も聞くが、マトンカラヒ(羊肉を使ったドライカレーみたいなもの)やケバブは逸品。
周りには似たようなレストランがいくつかあるが、ジモティーの一押しが、こちらのレストランである。厨房では50人近くのシェフが働いており、レストランとしては規格外の大きさ。まるでディズニ・シーのような雰囲気が漂う。
屋台やローカルレストランだとお腹を壊す確率が高いが、ここコラチはそうした心配をせずに料理を楽しめるのもポイント。
カラチ近郊の観光スポット
カラチ近郊にある観光スポットとして、タッターの文化財がある。文化財にはシャー・ジャハーン・モスクとマクリーの丘が含まれる。パキスタンにある建築物の中では、トップクラスの美しさを誇る。タッターはカラチから車で片道2時間。日帰りで行ける場所だ。
パキスタン旅情報に詳しいブログ”Lost with Purpose“では、公共交通機関での行き方も紹介(英語)している。
ただできれば現地の人を連れて行くことをおすすめする。タッターへ行くには警察への許可証が必要なケースもあるからだ。私が訪れた時は、現地人を通していたため、許可証などを求められることはなかった(パキスタンでは、あらゆることがコネで進むので、コネや現地の知り合いがいない場合は少々面倒なことになる)。
こうしたルールも頻繁に変わるので、FacebookグループのBackpackers Pakistanなどで事前に現地人にチェックしておいた方が良い。
カラチ市内から40分ほどの場所には、チャウカンディ古墓群と呼ばれる場所がある。ムガール帝国時代に建てられたものがほとんどで、マクリーの丘に見られるようなシンド州特有の墓建築が特徴。
シャー・ジャハーン・モスク(世界遺産)
南アジアで最もタイル装飾が美しいとされるモスク。パキスタンでいくつものモスクを見てきたが、タイル細工において、シャージャハーンモスクに勝るものはないだろう。
同じムガール建築でありながら、赤砂岩を使い重厚感を醸し出すラホールやデリーの建築物と違い、ペルシャや中央アジアの影響を受けたとみられるブルーを基調としている。まるで、冷静と情熱のような対比だ。カラチから車で2時間ほどの場所にあるタッター市にあり、日帰りで行ける場所。
マクリーの丘(世界遺産)
シャー・ジャハーン・モスクと並ぶタッターの見どころスポット。モスクと並び世界遺産に登録されている。日本語ではマクリーの丘と呼ばれているが、そこに広がるのは延々と続く墓地群。”死者の都”というイメージがしっくりくる。
14世紀にスーフィー聖者が埋葬されたことをきっかけに、その後400年間にわたり、王族や聖者などいわゆる有名人が埋葬された。
注目すべきはその規模と装飾である。ヒンドゥーやイスラームという土着の宗教だけでなく、トルコやペルシャといった様々な地域の影響を受けた装飾がみられ、シンド州の民族や文化の多様性を表現している。
古代都市バンボア
カラチから60キロほどの場所にあるのが古代都市バンボア。紀元前1世紀に興り、海洋貿易の町として栄えた。遺跡からは、紀元前1世紀から13世紀までの遺物が見つかっている。古くはパルティアやスキタイの時代、ヒンドゥー教時代、イスラームの支配を受けた後、町はゴーストタウンと化した。
まだ遺跡は発掘途中で、今後注目が集まりそうな古代遺跡スポットである。現時点での見所は、アッバース朝時代に建てられた南インド初のモスク跡。イラクからの使者が、海を渡ってこの地にイスラームを伝えた。現在、南インドには4億人近くのムスリムがいるので、”4億人のはじまりの場所”でもある。アッバース朝時代のモスクは、世界でも数えるほどしか残っていないので、跡地とはいえ貴重である。
併設する博物館には、古代ペルシャ、中国、インド、イスラームの発掘物が展示されている。遺跡自体はモヘンジョ=ダロや、タキシラのようにパッとしないが、考古学や歴史に興味があるなら訪問しても損はない。