アラビアの幸せがつまった国。イエメンのアツアツ石焼鍋料理「ファハサ」

幸福のアラビア。かつて古代ギリシャ人たちは、この地域をそう呼んだ。

正確には、この「アラビア」というのは現在のイエメンやオマーンが位置するあたりを指している。

幸福のアラビアをひも解けば・・・

イメメンにはコーヒーの積み下ろし港として栄えたモカ港があり、モカコーヒーの由来ともなった。「救世主」とも呼ばれ、古代では重宝された没薬(もつやく)もこの辺りで取れたといわれている。

没薬は英語名ではミルラ。ミイラを作る際の防腐剤として使用され、ミイラの語源にもなった。

さらには、オマーンの第2の都市サラーラは、神の香りとも呼ばれる「乳香」の産地。紀元前に行われていた乳香の交易地も見つかっている。ちなみに乳香と没薬はイエス・キリストが生まれた時に、東方の博士たちが生誕ギフトとして送ったことでも有名である。

このように幸せのアラビアをひも解いていくと、いかにロマンあふれる場所かがわかる。古代人がこぞって手に入れたかったものが、このアラビアにはあった。だから「幸福のアラビア」と呼ばれたのである。

そんな幸福のアラビアだが、今では「不幸のアラビア」感が否めない。なにせ大国の代理戦争が繰り広げられ、長年に渡る戦争で甚大な被害が出ているのにその事実は、ほとんど報じられていない。

観光客はおろか、ジャーナリストでも入国がほぼ困難な状態である。

幸福のアラビアはもう見ることができないのか。

幸福のアラビアをこの目で見ることができない今、できることといえば、イエメン料理を食べることぐらいである。そんなわけでイエメン料理屋と足を向けた。

イエメン愛にあふれるレストラン

イエメンでは、食卓を使わず地べたで食べるという習慣があるらしい。その習慣にならってかイエメン料理レストランでは、このような個室がいくつもある。


イエメン料理屋はプライベート空間が充実。食べたらすぐ寝られるという利便性を備えている


イエメンの愛にあふれた個室ブース

アツアツの石焼鍋料理が登場

メニューには、イエメン料理名物のマンディ類が並ぶ。しかしマンディははすでに食したことがある。ここは、いっちょ新しいものに挑戦したい。ということで、選択したのが「ファハサ」。

イエメンの定番外食メニューには、「サルタ」というものがある。ファハサもサルタも同じく一人用の石焼鍋料理だが、サルタが主に野菜が入っているのに対し、特に肉が多めに入ったものをファハサと呼ぶらしい。


まずは、羊肉のだし汁を使ったスープが出される。優しい味。

「ファハサ」は登場シーンからして、他の湾岸料理とは一線を画していた。

ジュージューというBGMに湯気をもうもうと立てながら、やつは運ばれてきた。まるでデニーズでチーズハンバーグを頼んだような時のような登場シーンである。


細切れの牛肉が入ったファハサ

予想外の登場に期待が高まる。これは、かなりイケてる感じの料理なのでは・・・?

何この優しい感じの味。細切れになった牛肉がトロトロとして柔らかい。ビーフシチューのビーフだけを食べているような贅沢感。


大型のザルにのって登場した円盤型のパン。黒ゴマがちょうどよいアクセント

「ムラウワ」と呼ばれる超巨大なパンをちぎって、一緒に食べる。しかし、このパンの大きさ。もはやギネス記録ものじゃないか、というぐらいでかい。直径50センチぐらいはありそうだ。

しかしファハサというダークホースに感動してしまったのは、そもそもイエメン料理に対する期待の低さとのギャップによる。なにせ湾岸諸国の料理といえば、炊いた米に肉をまるごとぼんっと置いたダイナミックな料理が多い。

美味しいといえば美味しいのだが、なんとなく繊細さに欠けるのだ。一方で、このファハサはわざわざ石鍋なんぞに入れて、ぐつぐつ煮込む。ビジュアルも美味しそうだし、ちょっと手が込んだ感があるのだ。

あの優しい味付けも、どことなくソマリアに通じるものがあるような気がする。地理的に近いということもあって、お互いに影響している部分があるのかもしれない。


肉っ気が多いので、生野菜を食べて休憩を入れる。生野菜は「サハワ」と呼ばれるトマトと玉ねぎをあわえたピリ辛ダレにつけていただく


最後はチャイでととのえる

いまだ行けぬイエメン。けれども、イエメン愛あふれるレストランでイエメン料理を食べながら、まだ見ぬ国に思いを馳せるのであった。