こんなことある?タンザニアで予約したホテルが廃墟だった・・・

誰もが一度はホテル選びで、苦い経験をしたことがあるのではないか。

写真と部屋のイメージが違うだとか、シャワーのお湯が出ないとか、ネットが遅いとか。旅に出ると、こういったことにちょくちょく出くわす。

けれども、こうした不満ですら、今では愛おしく思える。とりわけ、あの廃墟ホテルに行ったあとは・・・

私が泊まるホテルは大体、中級ホテルである。ラグジュアリーなホテルに泊まるほどのお金の余裕もないし、そこまでホテルにお金をかけたくない。

だからといって、安さ重視でとりあえず寝られればOKだとか、ドミトリーというのは敬遠している。安全の確保という理由もあるし、ある程度の孤独と清潔感がないと、精神的に異常をきたすからである。

私は冬ならば4日ぐらいは風呂に入らなくても平気(人に会わない場合のみ)だし、トイレの後にこまめに手を洗うような人間ではない。

公共のトイレでは、他人の目を気にして洗うことにしているが、基本は洗わない。なんて不潔ヤローだ、という声が聞こえてきそうだが、それは真っ当な感想である。

タンザニアの南部に位置するキルワ・マソコに滞在した時の話だ。キルワ・マソコは、大都市ダルエスサラームからバスで6時間ほどの場所にある。こじんまりとした町というか、集落である。

海に面しているということで、ちょっとしたビーチリゾートのような場所になっている。ここを訪れる観光客の目的は、世界遺産となっているキルワ・キシワニとソンゴ・ムナラの遺跡群だろう。私の狙いもそれである。

予約したホテルは、町から車で15分ほど離れた場所にあった。なんちゃってリゾートということもあってか、ここキルワ・マソコではホテルの選択肢は少なく、ホテルの価格帯も高めだ。

そんな中見つけたのが、1泊20ドルで泊まれるホテルである。評価の低さが若干気になったが、レビュー数も少ないし、とりあえず行ってみよう、ということになったのである。

ホテルのロケーションは悪くなかった。いや、むしろ最高だ。目の前には、美しいビーチと海が広がる、リゾート感あふれる場所。しかし、宿泊施設であるロッジを見た瞬間、ちょっと嫌な感じがした。

明らかに、ボロいのである。いい感じに歳を重ねたというよりは、単なる劣化である。

けれども、その時の私は自分の選択が正しかったと信じたかったので、その嫌な感じを押し殺した。しかし、泊まるロッジを案内された瞬間、それは決定的なものとなる。

こじんまりとしたコンクリートのロッジの扉を開けた瞬間。

くっさあ・・・

ファーストインパクトは、部屋に漂う尿の香りである。猫なのか、人間なのか分からないが、あきらかにアンモニア臭がする。床を見ると、にほいの発生源と思われる謎の黄色っぽいシミがある。

それでも私は信じたかった。

ここは、今日自分が泊まる、まともなホテルなのだと。

部屋の電球はむき出しになって壊れており、昼間だというのに中はうす暗い。それでも広めのメインスペースには、大きめのソファ、キッチンが備え付けられていた。

しかし、トイレで手を洗わない不潔人間にとっても、それらの家具に触れるのがためらわれた。

キッチンをよく見ると虫の死骸が異常なほど散らばっていた。キッチン横の窓枠には蜘蛛の巣が張っており、餌食となった虫たちが宙ぶらりんになっていた。

アダムス・ファミリーの家か。

メインスペースは、アンモニア臭と虫の死骸でデコレーションされていたが唯一、聖域と呼べそうなのが、メインスペースとは別にあるベッドルームだった。幸いにもアンモニア臭はない。エアコンもある。これならなんとかいける・・・と思った矢先。

カーテンがかかった部屋の窓へ近づいて見ると、そこもまた蜘蛛の巣と虫の死骸でデコられていたのである。そこを小さなイモリが、しゃーっと通過する。

虫が苦手なわけではない。イモリだって全然平気なほうだ。けれども、明らかに雰囲気が、廃墟というか、ゴミがないゴミ屋敷のような尋常ではない汚部屋なのである。

ベッドルームにはクローゼットがあったが、もはや開けるのが恐ろしく、開けなかった。開けるのがためらわれるホテルのクローゼットなど、殺人映画ぐらいにしか出てこないだろう。

ホテルの部屋に入ったつもりが、まさかの汚い廃墟。

そんなことってあるのだろうか。

通常はそんなこと有り得ない。だから、私は思った。

拒絶反応を示している自分の方がおかしいのだと。こうした状況から逃げるようでは、甘ちゃんなのだ。

いや、でも日本では不潔人間と言われる私から見ても、ヤバい・・・ということは、やっぱりヤバい部屋なんじゃないだろうか。

部屋を掃除してみるか、いやでもそれ以前の問題。

うんぬんかんぬん・・・

とりあえず廃墟から出て、作り笑顔で「ありがとさん」とホテルのスタッフを追いやる。スタッフの後ろ姿を見送った後、入り口の石段に座り込み、頭を抱えた。

どうしよ・・・

これなら、草っ原で寝た方が断然マシじゃん。

「これ、体洗うのに使ってくだせえ」

ホテルのスタッフが、水が入った大きなバケツを持ってきた。最近、水の調子が悪くて、部屋の手洗い場やシャワーの水が出ないという。

しかし、あの廃墟のような風呂場にて、この濁った水で体を洗うということがイメージできなかった。濁った水は別にいい。けれども、あの廃墟がムリじゃ。

逃げよう。

お金のために我慢すべき、という考えも一瞬頭をよぎった。けれども、2日間もこの廃墟で生活したくない。というか、廃墟は興味半分で見るものであって、滞在する場所ではない。

お金がかかってもいい。とりあえず心地よく、楽しく時間を過ごすことの方が重要なのだ。ラグジュアリーなんか求めてない。廃墟じゃなければ、この際何でもいいのだ。

そんなわけで、泣く泣く宿泊費全額を払い(オーナーに部屋が汚すぎる!と直談判したが、嫌なら金払ってキャンセルしな、とのたまうだけ。嫌なヤローである)、別のホテルへ移った。

そこは、文字通りホテルだった。

ホテルが廃墟という体験をした後では、ささいなことすべてに感動してしまう。

部屋に虫の死骸が大量にない!部屋が無臭だ!廃墟感がない!スタッフが優しい!

人間というのは、すべてを失うと、すべてに感謝できるようになるから不思議である。

ちなみに、廃墟ホテルの写真はない。いつもなら記録として、いろんなものを写真に撮っておくのだが、この時ばかりは、撮らなかった。

いや、撮れなかったというべきだろうか。

あまりにも受け入れがたい現実を目の当たりにし、ショック状態にあったのである。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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