ラマダンの断食前の恐怖と憂鬱。イスラム教徒はつらいよ

ラマダンまであと数日だ。

周りのムスリムたちが、「もうちょっとでラマダンだなあ」などと色めき立つ一方で、私はといえば一人よどんでいた。とにかく憂鬱なのである。

飲み食いできないだけがラマダンじゃない!

私がこうもラマダンに対して憂鬱になっているのは、日中に飲み食いができないということではない。むしろ生活スタイルを大幅に変える必要がある、という点である。

日中は飲み食いができないから、日の出前には起きなければいけない。今年のドバイであれば日の出が5時半頃なので、4時ぐらいには起きておきたいところだろう。日の出前に起床できなければ、その日は日没まで飲み食いできるチャンスを失うということになる。

この恐怖といったら・・・恐怖におののくあまりに私は3か月ほど前からラマダンに関する悪夢を定期的に見るようになった始末である。

しかもこれを平日だろうが休日だろうが30日間連続で続けるのである。夏休みにラジオ体操に通う小学生ですら、こんな規則的な生活はできないだろう。

ムスリムのパイセンにこの話をすると、「別にそんな早起きをしなくてもええんちゃう」という。中には、日の出後に起きてそのまま飲まず食わずで日没を迎えることもあるのだという。そんなことが人間可能なのだろうか?

日没後はさっさと飯を食って、翌日にそなえて寝られるのかと思いきや、ここでも諸々こなすことがある。ラマダン中は、通常5回の礼拝に加えラマダンスペシャルということで、「タラウィーフ」と呼ばれる特別な礼拝が追加される。

これは「イシャー」と呼ばれる5回目の礼拝の後に行われるので、今年のドバイのケースであれば午後9時ぐらい(時期と場所によって時間帯が異なる)に行われるはずだ。

早起きして、断食しつつ、通常の礼拝もこなして、夜も祈りまくる。ある意味でアメリカ海兵隊のブート・キャンプみたいな感じである。

ラマダンはチャンスの月

話を聞いただけでそんなブート・キャンプには、ついていけそうにもない。断食はする。けれども礼拝はそんなに熱心にしないという人もいる。しかしそれでも過酷そうである。

ボーン・ムスリム(骨『Bone』のムスリムではなく、生まれながら『Born』のという意味)であるパイセンを前にそんな弱音を吐くと、一様に皆ラマダンの良さを熱心に説いてくる。

「いいか。ラマダンはチャンスなんだ。特にラマダン中にお願いをすると神様が聞いてくれるんだぞ」だとか、「ラマダン前は特にお祈りをしなかったけど、ラマダン後は礼拝をするようになった」といったものまで様々である。

とにかく断食を通じて、心も体もリセット。善行をつもうという信仰心も高まるから、ちょっとだけ自分が良い人間に生まれ変わるチャンスでもあるのだとか。

ちなみに先ほどのパイセンに「ラマダン中に一体何をお願いするんだ?」と聞くと、「未来の妻だよ★」との答え。フェラーリや豪邸といった無理強いはアッラーにしてはならない。あくまでささやかな願い限定だという。

パートタイム断食から始めるラマダン

それでも私が「断食怖いよう」とごねていると、パイセンが救済策を提案してくれた。子どもがはじめてラマダンを迎える時は、たいていフルタイム断食ではなくパートタイムで始めるのだという。

実際にイランでとある女子に聞いたところ、12歳から断食をはじめて、フルタイムで断食できるようになったのは18歳頃からだったという。

はじめは日の出から正午まで断食、それから少し頑張って日の出から午後3時あたりまで断食といった具合である。マラソンの長距離練習のごとく、少しずつ断食する時間を伸ばしていくという手法。

確かにそれなら、できそうだ。いきなり日の出前から日没まで30日間連続で断食するのは、ど素人がフルマラソンに挑むようなものである。けれども、子どもが使う手法だと思うと、大の大人がそれを使っていいもんかね・・・とためらいはある。

ラマダンは楽しい・・・は本当か?

ボーン・ムスリムたちに言わせれば、ラマダンはお正月のように楽しい期間だという。ラマダン中は日没後は家族や親戚と食事を楽しみ、ラマダン明けのお祝い、イードには、子どもたちは日本でいうお年玉をもらう。

イスラームについて書かれている本では、たいていこのようにラマダンについて説明している。

確かに話だけを聞けば悪くはない。というか楽しそうである。しかし、家族も親戚もおらず、一人でもくもくと断食をこなさなければいけない身としては、もはや一人ブート・キャンプ以外の何物でもない。

ドバイに出稼ぎにきている労働者の大半もおそらくそうだろう。みな、家族を自国においてドバイにやってきている。ラマダン明けのイードを祝うために、自国に帰ります、なんてことはなかなか叶わない。

「ラマダンは楽しい・・・」と描写していない記述は、今のところ確認する限りはまだ1つしかない。それが、以前にも紹介したイラン出身の吉本芸人、エマミ・シュン・サラミである。彼の著、「イラン人は面白すぎる!」では、ラマダンについてこのように記述している。

断食は、年に一度の過酷な儀式。というか、ガマン大会である。「過酷っていうケド、朝と夜は食べられるじゃん!」と思うことなかれ、これが結構キツイのよ。

昼過ぎになるとお腹が真夏のセミのようににぎやかに騒ぎ出し、夕方になると今まで食べてきたおいしい物が走馬灯のように脳裏をよぎる始末。

僕になついている野良猫でも、ラマダンは目があっただけで狂気を感じて逃げ出してしまったほどだ。

エマミ・シュン・サラミ著「イラン人は面白すぎる!」より引用

ラマダン中はケンカや交通事故が多くなるというが、空腹ゆえに全身から狂気を発する状態になってしまうのか・・・もはやその境地に至った自分の姿が想像すらできない。狂気にまみれた新たな自分のご対面してしまうのだろうか。

とにかく恐怖と不安でいっぱいである。昨年までは他人事であったが、いざ自分ごととなるとこうも違うのかということを思い知る。そんな間にもラマダンのカウントダウンは始まっている。とにかくやるっきゃないのだ。

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サイゾー

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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