引越し後にやってきた初めての訪問客が意外すぎた

引越し後の初めての来客といえば、家族か友人が相場だろう。しかし、ここはそうした相場が通用しないマレーシア。

事の発端は、家の大家から来た突然のメッセージである。

「やほー。あんたが借りてるその物件、今売りに出してるんだけど、明日家を見たいっていう投資家が来るからよろしくね。」

は?

家が売られるとは・・・?

投資家が来る・・・?

家が買収されたら、住めなくなるのでは?という危機を感じた私は、大家に再度確認。

「あのー、賃貸契約はどうなるんでしょうか?」

「家が買収されても、今の契約はそのままだから、大丈夫だよん」

大丈夫だよん、と言われても。引っ越したばかりの人間としては、ハラハラものである。何より3年間の流浪生活を経ての、ようやくつかんだ定住生活なのだ。

さて、ここで私には2つの道があった。1つは、なるべく家を汚くすることで、「この家あんま良くないなあ」というネガティブキャンペーンを行うことである。これにより、投資家は買収を諦めるだろうという目論見である。もう1つは、人が来るなら家をきれいにせねば、という責務である。

賢い人なら前者を選択するだろうが、どうにも他人の目を気にして半生を送ってきた人間にとって汚い部屋を見せるということは、耐え難いことであった。それに、家だけでなく私自身の評価も下がるでないか。よって、悪手だと知りながら、後者を選択してしまったのである。

家をピカピカに磨き上げ、投資家の到着を待った。

ピンポーン

玄関を開けると、この家の内見時に世話になったエージェントと美女が立っていた。

あれ、投資家・・・

投資家というとてっきり、おっさんをイメージしていたのだが、目の前に立っているのは、自分と同年代の美女である。どうも、と挨拶したが、美女はツンとしている。

ここで初めて、私は気づいた。部屋をきれいにするのに夢中になるあまり、己の姿はボロボロだったのである。マレーシアだからTシャツ、短パン、ノーメイクという寝起きみたいな姿でもいいっしょ♪と甘く見ていた。

しかし相手はあくまでも投資家。マレーシアの街中ではあまり見かけないフル装備のオシャレをしていらっしゃる。2人を中へ案内し、内見が始まる。内心では買収しないでくれ、と思っている一方で、この家は良いでしょう、とヘラヘラ案内している自分もいる。

美女投資家は、ニコリともせずに家の各所を見て回る。その姿は、北朝鮮美女である。韓国ドラマ「愛の不時着」に出てきたソ・ダンにクリソツだ。

ソ・ダンはあまりこの家に興味がなさそうだったようで、1枚だけ家の写真を撮って、家を後にした。外面は、いらしてありがとう?などと言っていたが、買収しないでくださいと願うばかりだった。その後ハラハラしながら生活しているが、数ヶ月後の今に至るまで、大家から買収されたという連絡は来ていない。

それにしても。引越し後の初の来客が、投資家だなんて。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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