トルコに行くなら1度は行ってみたいなあ、と思う場所があった。それがパムッカレである。白い石灰の棚田と青色のコントラストが美しい場所である。
そんなに美しい場所なら、連泊して早朝と日没に2回行って写真を撮ろう、などと無駄に意気込んでいた。
しかし、パムッカレに向かうバスで、検索していたら気がかりな噂を発見した。どうやらパムッカレには、水がないらしい。
水がない・・・だと?
パムッカレに到着した日は、雨だった。コロナで観光客がいないためか、パムッカレ村は静まり返り、ゴーストタウンのような雰囲気が漂っている。近くには大型ホテルがあるが、明かりがまったく灯っていない。まるで映画「シャイニング」のような不気味な雰囲気を醸し出している。
パムッカレは特にアジア人観光客に人気のようで、町のレストランには、中国語、韓国語、日本語のメニューがランダムに並んでいた。しかし、アジア人観光客は皆無なので、どの店も閉店ガラガラ状態である。
あの噂について、ホテルのオーナーに聞いてみる。
「そうなんだよ〜水がないんだよね〜。棚田にある水って、単なる水じゃなくてお湯なんだよ。だからさ、ずっとお湯をためておいたりすると、白い棚田の色が変色しちゃうわけ。だから、日にちによって、部分的に水を放水してるんだよ〜」という。
はあ・・・
やっぱり水はないのか・・・しかし、ホテルの部屋から見える棚田を前に、行かないわけには行かない。
ということで、どれだけ水がないのかを確かめるべく足を運んだ。そして、これが現実である。
うわあ・・・
本当に水がねい!
ただ、まったく水がないわけではなく、部分的には申し訳ない程度に水はある。シーズンオフの1月とはいえ、観光サイトに上がっている写真とはもはや別人であった。
しかし、ちらほらいる観光客は、それでも”美しい”石灰棚で奇跡のショットを撮ろうと、必死こいている。悲しい人間の性である。
これが限界
ギリ人間がつかれるぐらいの温度のお湯が流れている。上の方では冬なのに水着を着てセルフィーを撮る人の姿も。
棚田保護のために観光客は靴を脱いで裸足で歩かねばならない
シーズンオフに来たからだろうか?と思いきや、そうでもないらしい。
過去数年にさかのぼってパムッカレを訪れた各国の旅行者のブログを見ると、どうやら数年前からすでに水がないらしい。中には、「パムッカレには何も期待するな!」と警告している人もいた。
そう、美しいパムッカレの写真は、完全に過去のものだったのである。我々が「美しいパムッカレだぞお☆」といって見せられているのは、30年前の大女優の写真である。
若かりし頃。この姿はもう見れない。しかしいまだに観光業界などでは使い回しされている
しかし、現実は昔の面影を少し残したおばあちゃんである。
さぞかし、他の観光客もがっかりしてるのでは?と思いグーグルマップのレビューも確認。しかし、そこには満足の声ばかりであった。
ひえっ!?
どうやら彼らは、遺跡やただそこに白い棚田が広がっている珍風景に、感動している人だった。水がなくてがっかりだった!とコメントは見当たらない。
パムッカレというと、白い石灰棚ばかりが注目されるが、近くにはローマ時代に温泉スポットとして栄えたヒエラポリス遺跡もある。実際に当時の遺跡を沈めたローマプールもある。
ちなみにパムッカレに来たのは、別の目的もあった。それがデニズリ県にある、世にも美しいモスクを見るためである。ホテルのオーナーもこのモスクの存在は知らなかったようで、写真を見せるとその美しさにビビっていた。
トルコといえば、オスマン帝国やセルジューク朝時代のモスクがピックアップされがちだが、西洋化の影響を受けて草木や花でデコりまくった”デコモスク”が、山間部の小さな村にはまだ残っている。偶像崇拝を避けるため、具体的な絵画ではなく、幾何学模様が発展したイスラーム模様の歴史を考えると、異例とも言える。
個人的には、こうしたモスクをまわれたので、パムッカレ滞在は満足の行くものであった。
さらにパムッカレから車で1時間ほどの場所に行くと、同様の石灰棚が観れるカクルック洞窟(Kaklık Mağarası ve Yüzme Havuzu)がある。こちらは、ガイドのおすすめだよお〜と行って連れてこられたのだが、規模は小さいものの驚きは大きかった。
洞窟の近くはお湯が勢いよく流れており、硫黄の匂いがする。隠れ家的スポット。
もう1つのパムッカレとも言える場所。パムッカレ村からは車で30分ほどの場所にある。入場料は4リラ。
まさかこんな場所にも、石灰棚があるとは!?
そう結局、期待値の問題なのだ。満足した人は、初めからパムッカレに何も期待をしていなかった。もしも、過去の大女優の姿を見たいと思う人は、パムッカレに来る必要はないのかもしれない。ただ、何も期待しなければ、十分に楽しめる場所である。