賃上げはまだしも、休みをもっとよこせ?
日本で働く人々にとっては、とうてい考えられない要求だろう。
私もそう思う。
日本では、個人的に給料交渉を行う場は少ない。やったとしても、春闘など集団となってやる。
さらに、お金の話をするのは卑しいだとか、「給料あげろ」なんておこがましい、という意識がある。
最近の私もそういう風に考えていた。
給料交渉が当たり前に行われる社会
けれども、私が住んでいるのは、おしとやかで謙虚な日本人が暮らす日本ではない。己の権利を大声で主張する集団の中なのだ。
なぜか私の会社では、2年働けば自動的に給料が10%上がるシステムになっている。
日本の会社に比べると、大きな割合かもしれない。しかし、そうでもしないと、人々は給料をあげるために、さっさと転職してしまうのである。
すでにこの会社で2年近く働いた私の給料は、何もしなくとも、10%あがることになっている。
当初の私は、それだけでいい、と思っていた。交渉するのも、面倒だしな・・・
「もっと給料上げてくれ!」はじめての給料交渉
けれども、周りの連中が個人的に動いて、自分の賃上げ要求をしている、ことを知った後では、考えを変えた。
「これは・・・賃上げ要求をせねば」
会社全体で、すでに人件費の予算というのは決まっている。つまり、私が交渉しないということは、その分だけ賃上げを要求した人に流れる可能性がある、ということである。
なにくそである。
転職の際には、毎回給料の交渉をしてきたが、在籍中の会社での交渉は、はじめてである。ネットで給料交渉の方法を調べて見るも、しっくりこない。
よって、これまでの業績を振り返り、己の貢献度と実績をプレゼンすることになった。
「予算を30%もおさえて、年間目標よりも20%高い結果を達成してまっせ〜」
みたいなことをと言ってみるが、心の中では「こんな自分やりましたぜアピール、まじ恥ずかしい。性にあわん」などと思っている。
けれども、そんな後ろめたさは、態度に出してはならない。
肩書きと実力がかけ離れている一部の人間が、高い給料をもらっていることも承知なので、そうした人々を頭の中で浮かべ、真っ当に働いて成果を出している自分としては、当然なのだ、と自分を強気にさせる。
そして、自分が会社にとって、いかに重要な存在か(会社員というのは誰でも代替可能な人材なのだけれども)をアピールする。
給料交渉の結果は・・・
ちらりと上司を見やると、やや困ったような顔つきをしている。
「いや〜、おれも給料交渉の場に立ち会うとか初めてだから、よくわかんないんだよね」
ええ!?
時すでに遅し。さきほどの、私のプレゼンは茶番と化した。
けれども、話し合いの場を設けたことと、はっきりと10%以上の賃上げを要求したことで、結果的には20%近くの賃上げに成功した。
なにもしなければ10%だったが、とりあえず声をあげることで、すんなりと20%近くになった。やはり、何事もやってみるものである。
ルールにしばられない社会は未熟だけど柔軟
1ヶ月近くある年間の有給がすでになくなりかけているので、もっと休みをくれ、と別の機会に上司に聞いてみた。
こうしてみると、いかにも私が主張の強く、図々しい人間のように聞こえるだろう。
けれども、何事も言ってみるものだ。どうせ無理だろう、と思って我慢するよりはマシだ。
思った以上に、人というのは(人にもよるが)柔軟に対応してくれる、というのがこの国で学んだことの1つである。
「ルールですから、できまへん」というルール好きの日本社会にいると、ルール以外のケースには対応できないんだ、と人々は思い、交渉したり、それを変えようということすら、考えなくなる。
ルールがあるからこそ、社会の規律も守られるのだろうが、逆にルールばかりになっても、社会も人も柔軟性を失い、人々は息苦しくなる。
給料を削ってでも休みが欲しい理由
もっと休みが欲しいというと、怠け者が!と思う人がいるかもしれない。けれども、私はもはや生活のお金のために、ここで働いているわけではない。
あくまで今の自分にとって大事なのは、ドバイを拠点により多くの場所を訪れることである。しかし、多くのリーマンに共通するように、金はあるが時間がない。
それならいっそのこと、会社をやめて、旅人になればいいじゃない、とも考えた。けれども、私は今の仕事が好きだし、働くことで得ることもたくさんある。
場所によっては、とんでもなくお金がかかる場所があるので、そこそこの資金が必要なのだ。
それに、どっちかを選ばなくとも、両立したっていいじゃないか。
そんなわけで、給料を削ってでも、休みという時間が自分には必要なのである。つまりは、時間を金で買うという行為である。
こちらに関しても、私の上司は、仕事さえしっかりやれば、かまわんよというタイプなので、無給で休みをとることに対し、承諾を得ることができた。
よく聞いたら、上司もまた「もう有給がないんだけど、親戚の結婚式で、無給で休みをとらなきゃいけないんだよね」とぼやいていた。
海外で働きたい・働く人へのおすすめ本
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