「ゲシュム島に行くんだ〜」とホクホク顔で告げると、周りの同僚たちはみな不思議そうな顔をした。
あんなところに行ってどうするの?とでも言いたげである。
「ああ、ゲシュム島ね。俺が小さい頃よく行ったなあ〜。何で行ったかって?そりゃビザ更新のためだよ」とドバイで生まれ育ったサムはいう。
移民が多いUAEでは、UAEで生まれ育った人間でも、UAEの永住権や市民権を取ることが難しいのだ。よって、ドバイ生まれでも親の国籍のパスポートを所持する移民2世が多く存在する。
「ビザの更新で行くとこね。私も何回か行ったけど、大してやることも見ることもない場所よ」というのは、母国に残してきた子どもと10年以上離れて暮らすアレクサンドラ。
このようにドバイに住む大半の人にとってゲシュム島は、ビザ更新のため事務的に行く場所と捉えられていた。イランにありながらも、この島だけは誰もがビザなしで、アクセスできるということも一因だろう。
1日1回の定期便に乗って、ドバイからゲシュム島についたのは、日没間近の時だった。
終始、お焼香の匂いがする不思議な機体ではあったが、短時間のわりに軽食のサービスも充実していた。あまりにもフライト時間が短いためか、離陸前に水を配るという用意周到さを見せた。
そのフライト時間、わずか30分である。
たった30分で、摩天楼のビルがひしめく都会ドバイから、わびしさだけが漂う何もない原っぱにやってきたのである。イランの旗がはためき、ホメイニ&ハメネイのWおっさんの顔写真が出迎える。
イランに来たんだなあとしみじみ感じる瞬間である。
いくらイランに行く心づもりをしていたとはいえ、30分でこうも景色が変わったらやはり不思議な気持ちがする。しかし、ドバイでもいろんなおっさんの顔写真が街中にひしめいているので、その点ではドバイもイランも変わらないだろう。
ビザフリーとはいえ、入国手続きに30分(外国人もイラン人も同じ列に並ばされる)もかかったため、結局空港に出れたのはドバイ空港を出発して1時間後のことであった。
イラン旅行のおともに
イラン出身の吉本芸人が書いた本。イランについてこれほど面白く、軽やかにかいた本を他に知らない。イラン人が面白すぎるというより、この本が面白すぎる。