ラマダンがクライマックスを迎えるのが、ラマダン最後の10日間である。
奇数日である、23、25、27、29日のいずれかが、預言者ムハンマドが天使ガブリエルからコーランをさずかった日だとされているからだ。その日は「ライラ・アル・カドル」と呼ばる。
日本人からすれば、だからどうした?という何でもない日だが、ムスリムにとっては、とにかくご利益がある日なのだ。ゆえに、その日は多くの人がモスクで祈ったり、中にはオールナイトで祈る人もいる。
オブラートに包まれた大事な日
通常の説明はこんな感じである。しかし、考えてみればツッコみどころはたくさんある。
まず、そんなに大事な日なのになぜ日にちがはっきりしない?ということである。27日とする説が強いが、それも定かではない。
とにかく、奇数日のどれかでしょう!としか説明されない。こちとら、そんなミステリー感よりも、明確にどの日かを知りたいのである。
しかし、周りのムスリムたちはそんなことにお構いなしで、せっせとモスクに足を運んでは、祈りを捧げる。
それと、天使からコーランをさずかるというのは一体どのような状況なのか。
私にとって、一番身近な天使といえば、「フランダースの犬」の最後のシーンで、ネロとパトラッシュを取り囲み、どこかへ連れていくあの天使ぐらいである。
普通に考えれば、どんな状況だ?と思うようなことも、宗教界においては「天使」や「啓示」といったファンシーな言葉でオブラートに包んでいることが多い。宗教というのは、ある意味では、おとぎ話である。
こうしたことを、「なんで?」と周りのムスリムたちに聞くと、「え?」というような顔をされる。
特に産まれながらムスリムをやっている人々にとっては、当たり前の慣習や考えとなっているので、疑問を呈することがないらしい。
どの社会においても深くツッコまず、そっとしておいた方がよいことはある。
オールナイトで祈りまくるストイックな人々
話を戻そう。この最後の10日間は、ムスリムたちがラマダンのラスト・スパートをかける時でもある。ラスト・スパートとはなにか。ひたすら祈るのである。
ラマダン中には、通常の5回の礼拝に加え、「タラーウィーフ」と呼ばれる休憩しながらやる長めの祈りがあることは、以前にも紹介した。これは通常1時間弱ほどで、就寝前の礼拝後から始まる。
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しかしラスト・スパートは、オールナイトで祈るである。19時ぐらい(UAEの場合)に断食が明け、そして食事。その後、断続的に30分から1時間ぐらいの間隔をおいて、祈りタイムが始まるのである。それが午前3時ぐらいまで続く。
お祈りスケジュール
いつ寝るの?
いや寝ている暇などないのである。
モスクを訪れると、ふとんや枕、食べ物やスーツケースを持参して、泊まり込みで祈る人もいる。普段は整然としたモスク内も、この時ばかりはちょっとしたキャンプ空間になるのだ。
深夜近くだというのに、モスク内は静かな熱気にあふれていた。時間も時間なので、パジャマ姿で祈りにやってくる人々もいる。
モスク内にいると、「ネスカフェいる?」と女性がコーヒーを差し出してくれた。コーヒーで、オールナイト礼拝に備えよ、ということのだろう。
もらったコーヒー
いざ祈りが始まると、何やら様子がおかしい。いつもは整然と型通りに祈るのだが、この日ばかりは、コーランを手にしたまま祈る人がいたり、イマームの様子も変だ。
イマームというのは、モスクで祈りを先導する人。集団礼拝の際に「みんなあ、祈るよ!集まれい!」と声がけしたり、コーランの一節を読んだりする人のことである。
マイクに向かっているのがイマーム。ある意味でマイクパフォーマンスに優れた人。
いつもなら整然と美しく、コーランの一節を読み上げるのだが、なんとイマームの声が震えているではないか。
この時、「ラマダン中、祈る人々の中には感極まって、泣く人もいるんだよ」という話を思い出した。
イマームが感極まって泣いてる?ちょっと吹き出しそうになった。
「普通だったら笑わないところで、いつも笑うよね」と言われる。
人々が真面目になる時に限って笑う、という反社会的なクセを持ってしまったのが私である。特に学生時代に先生が真面目に叱っている時。ああいう時に限って、なぜか吹き出してしまい、教師をイラっとさせた。
このクライマックス期間に突入すると、いつもは朝時間通りにやってくるムスリムの同僚たちも、やや遅めに職場にやってくる。フルで祈りをこなそうと思えば、当然寝不足になる。
マラソンのごとく、ラマダンのラスト・スパートも結構しんどい。けれども、みなが1つの目的に向かって祈ることで、そこでしか体感し得ない、一種の連帯感を感じるのも事実なのである。
マンガでゆるく読めるイスラーム
普通の日本人がムスリム女性と暮らしてみたらどうなる?「次にくるマンガ大賞」や「このマンガがすごい!」などでも取り上げられた話題のフィクション漫画「サトコとナダ」。