どうやらここは、地元民しかしらない場所らしい。グーグル・マップ上にもトリップ・アドバイザーにも存在しない。
ドバイから1時間半ほどの場所にあるラス・アル・ハイマ市内を移動中のことである。「なんか面白いところない?」とタクシーの運ちゃんに聞いたところ、「とっておきの場所があるぞ」と連れてこられた場所である。
「あそこには”ジン”が住み着いているっていう噂だ」
「ジン」というのは、イスラーム世界でいうところの精霊である。「アラジン」に出てくるジーニーも名前の通りその一種だ。
どうやらこちらの人、とくにアラブ人たちには、我々がいう「幽霊」という概念はなく、「ジン」という概念の方が一般的である。
幽霊と同じくジンにも、悪いジンと良いジンがいる。人間に幸福をもたらすこともあれば、人に危害を加えることもあると信じられている。
ハディース(預言者ムハンマドの言行録)などには、ジンは蛇、犬、猫、サソリなどの動物に姿を変えることができ、人間と恋愛、結婚することもできると書かれている。とんだ変幻自在野郎である。
さらにジンの出没スポットとしては、本来の住処であるカーフ山の他に、人間世界の風呂や便所、墓地などにも出没する。といった具合である。
運ちゃんにとっては、ジンがいる場所=恐怖という図式があるのだろうが、いかんせんジン=アラジンのジーニー、とイメージしてしまう私にとっては、いまいちその怖さがピンとこない。
連れてこられたのは、アル・カシミ地区にある巨大な屋敷の前だった。ふうん。ここがねえ。昼間ゆえか幽霊屋敷といえども、単なる廃墟にしか見えない。
噂の幽霊屋敷。テーマパーク感がある。
25年前に500万ディラハム(約1億5千万円)ほどで建てられたという。しかし、周りには普通に人が住んでいる超豪邸が立ち並び、この場所だけが取り残されているといった感じだ。
車で5分ほどの距離には、ラス・アル・ハイマ首長の大豪邸もある。かなり立地の良い場所だ。アメリカのビバリーヒルズに、ホーンテッド・ハウスがあるような感じである。ちなみに周りの豪邸たちは、もはや邸宅ではなくドラクエに出てくるような「城」に近い形態をしている。「何これ、ゲームの世界じゃん」と一人つっこみながら、鑑賞するだけでも楽しい。
屋敷の門にまでたどり着いたが、すべて鍵がかかっていたため中には入ることはできなかった。我々以外にも現地のUAE人やドバイからの観光客も訪れていた。やはりここは「幽霊屋敷」と認知されているらしい。
鍵穴から覗いた屋敷。
噂によれば、この家に入居すると1日目からその異変に気付くという。家を離れるとその現象はなくなるらしいのだが・・・
なぜこのような巨大な豪邸がそのまま残っているのか。取り壊せない事情があるのか、大金叩いて豪邸を作った家主はどうなっているのか・・・
誰もその事実は知らず、ただ噂だけが今でも人々の間に流れている。