ドバイの紀伊国屋書店といえば、日本の本やフィギュア、文房具など日本のものが容易に手に入るとしてドバイ在住の日本人には重宝されている。
実際に日本の本屋では中東に関する本やアラビア語教本の品揃えが非常に豊富で、アマゾンよりもその豊富さでは上回るものではないかと思う。
そう、日本の本に関して言えばさほど違和感を感じないが、それが英語の本となると話は別である。
品揃えが悪すぎるドバイ関連書籍
アマゾン英国版で人気の本を紀伊国屋書店で探そうとすると、なけなしに「その本はないですね」と言われる。うそだろ!?ドバイの本屋で、アマゾンではメジャーの本が売っていないなんていうことはありえるのだろうか。専門書や研究所ではない、普通の書籍だ。
一方でドバイに関する本が置かれているというセクションを見ると、たった数冊ぐらいしかなく際立って目立つのは自炊殿下ことドバイ市長のマニュフェスト本だ。
大型書店のくせになんだこの品揃えは!?と憤慨すると同時にある考えが頭をよぎる。もしや、検閲で出版禁止になっているのではないかということだ。
偽りの売り上げ書籍ランキング
次に違和感を感じたのが、紀伊国屋書店にある売り上げランキングだ。人文科学セクションをみると、ドバイ市長のマニュフェスト本が1位である。
紀伊国屋書店の売り上げランキング
しかしドバイにやってきて半年以上たつが、この本以外の本が1位になっているのを見たことがない。しかも、他の書店でも同様だ。このような本が1位であることも若干疑わしい。意図的なものがあるようにしか思えない。
マンガセクションに関しては、「ワンパンマン」が1位を獲得している。
マンガセクションの売り上げランキング
ナルトやワンピースはなんとか10位以内にいるものの、4~6位とあまり振るっていない様子。「ワンパンマン」の一体何が、ドバイ市民の心を掴んでいるのかが謎である。
都合が悪いことは潰してしまえ精神
ジャーナリストの国際団体「国境なき記者団」が発表した報道の自由度ランキングによると、2015年アラブ首長国連邦は、180カ国中120位にランクインしている。ドバイでは酒もOK、売春も法律では禁じられているもののそこそこ堂々と行われているという観光客への甘い顔をしておきながら、実は裏の顔を持っていることがわかる。
調べてみると、UAEでは皇族や国への批判表現は禁じられているとのこと。過去にもテレビ番組はもちろん、ドバイのことをぶっちゃけすぎているとして「Secret Dubai Dairy」というブログなどもアクセス禁止になっている。
また2013年には拘置所にいる父親やその他の政治犯への虐待についてツイートした男性が、国を侮辱しているとしてサイバー犯罪法のもと3年の実刑判決を受けると同時に、1500万円の罰金の支払いを命じられたという事件も起きている。
きっとこの記事も国を侮辱している内容とみられる可能性はあるだろう。それにしても、悪いと思うことを悪いというだけで、この有様だ。
対面的にはいい顔をしているくせに、いざ住民となると不条理な「外国人」への扱いと国家やエミラティに逆らってはいけないという暗黙のルールをが痛いほどわかるようになる。そういう意味ではかなり息苦しさを感じるのがドバイ。
しかし必ずしも国を侮辱するような内容でもない本でさえも、流通禁止になっているところをみると「余計なことは知らんでよし」という政府の傲慢な態度と「知る権利」をひどく制限しているように思う。
と同時に批判をされてはかなわないという自らの脆弱性を晒しているようなもんである。フルボッコに批判されたって堂々とやっていけるような体制であってほしいものだ。
村上春樹がいったさりげないあの一言の意味がようやくわかるようになった。「個人と組織が喧嘩をしたら,まず間違いなく組織の方が勝つ」。
前職の会社からのありえない仕打ち、ドバイの空港で受けた不条理な嫌がらせ、ドバイのカオスな法制度など、たった半年という期間でいかに個人が弱いかということを学んだ。
上手く生きるには、悔しいけど戦わず大人しくしていなければならない。
目に見えない国家や階級制度という敵がこの世にいるのだという事実を、喧嘩もなく問題も起こしてこなかった人間に強烈につきつけるのだ。
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