人懐っこいバーレーンの人々に出会えるローカルな市場【バーレーンのマーケットめぐり】

ブダイヤ!ブダイヤ!ジドハフス!シーフ!

マナーマのバスターミナルで、目的のバスを探していた時のこと。けたたましい声が聞こえてきた。声のする方へ近づいてみると、地元のおじいちゃんが熱心に声がけをしている。

乗り合いタクシーだ。

パレスチナやエジプトあたりでは、バスやタクシーよりも、こうした乗り合いタクシーが一般的である。タクシーといっても、温泉旅館にあるようなミニバス(ソマリアやソマリランドでは、日本の旅館やスイミングスクールで実際に使われていた移動用バスが乗り合いタクシーとして使われている)である。

このような乗り合いバスでは行き先が書かれていないので、運転手が声を張り上げて行き先を連呼するのである。

カイロのラムセス駅前で、「イスカンダリヤ(アレクサンドリア)!」と大声で連呼し続けた、通称アレク兄さんを思い出して懐かしくなった。

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久しぶりの乗り合いタクシーと、必死に行き先を連呼し続けるおじいちゃんが愛おしくなり、早々にバスから乗り合いタクシーへと変更した。バス賃は、200フィルス(日本円にして約60円ほど)。公共のバスよりも100フィルス安い。


運転席。焼きたてのパン、アラブ人には欠かせないコーヒーポット&カップ。奥には、イスラム教徒のお祈りアイテム、「タスビ」と呼ばれる数珠がぶらさがっている。

しかし乗り合いバスなので、席が埋まらない限りは出発しない。同じ行き先のバスが3本ほど出るのを横目で見送りながら、ようやく乗り合いバスは出発した。


満員御礼で出発

首都のマナーマから15分ほどの場所にあるジドハフスで下車する。ここには、現地の人がよく利用する「ジドハフス・マーケット」がある。

こじんまりとした場所なのだが、現地の人々との距離はその分ぐっと近い。数よりもクオリティ派な人にはおススメしたい。


新鮮な食材をお得に手に入れるたい客と店主の真剣なバトル


「これが俺の名刺代わりだぜ」と魚屋の店主。魚が上下逆さまだということは、スルーしておこう。

異国の見慣れぬ商品の顔ぶれを見るのは面白い。クーラーボックスにたんまりと入った魚を一つずつ覗き込んでいく。ドバイやクウェートのフィッシュ・マーケットでも見たことがない魚がおかれている。

「これはね、バーレーン特有の魚なんだよ」

近くにいたリチャード・ギア風の紳士が声をかけてきた。青いコットンシャツにジーパンというさわやかないでたち。

聞けば、バーレーン人だという。てっきりバーレーン人の男性はみな、民族衣装の「トーブ」を着ている人ばかりかと思いきや、「ハハハ、みんながあれを着ているわけじゃないよ」とバーレーンのリチャード。

その後もリチャードは熱心に、魚について教えてくれる。一体何をやっている人なんだろうと聞くと、シェフだという。へえ、と思いつつ、「これが、僕の料理だよ」とインスタのアカウントを見せてくれた。

ひえ!?これってガチのシェフじゃね?

そこに並んでいたのは、夫婦やカップルが記念日に利用しそうなレストランで出てくるような、洗練された手の混みすぎている料理であった。

「こないだは、有名歌手がうちのレストランに来てさ〜」

でしょうね〜、とつい同意してしまうほど、高貴なレストランのシェフであることは見てとれた。てっきり名もなきレストランのシェフかと思いきや、バーレーンの泰明軒シェフのような雰囲気をとっさに感じ取った。

さらにリチャードの驚くべき新事実が明らかになっていく。

「料理は趣味レベルでやってるだけだよ。今は引退しているけど、昔はパイロットをやっていたんだ。ガルフエアー、エティハド、キャセ・パシフィック航空なんかで働いたかな」

ひえ!?ハイスペすぎる!

「そういえば、30年前ぐらいに日本大使館が日本文化のプロモーションの一環で、日本語講座みたいなのをやっていたんだ。僕、その講座の第1期生なんだよ」

すみません!リチャードに心の中で土下座したくなった。

私が普段から「けっ!世界で役に立たない言語め」と忌々しく感じている日本語をギアに学ばせてしまったことに申し訳なさを感じた。

せめて中国語なら使い道があるだろうが、日本語て。

正直にいえば、日本にとりわけ熱心ではない人々に、文化交流の一部として「日本語を教える」というのは非常に迷惑な行為だと私は考えている。日本語ができたところで、商売の役にも立たないし、肝心の日本人は列島に引きこもっているし、日本企業のプレゼンスも湾岸では低い。使うことがないのである。

あれだけ他人の迷惑を考えて行動する日本人が、世界で日本語を教えるという「迷惑行為」に走っているのが、いまいち解せない。

少々毒を吐きすぎたので、最後は解毒剤で緩和させよう。


新婚カップルのごとく、何も語らなくても幸せが顔からにじみでている。幸せをおすそわけをありがたくいただく。

定年退職をしたリチャードと、なぜかインスタをフォローし合い別れを告げる。「何か必要なことがあったらなんでも言ってくれよ!」とインスタにメッセージが。リチャードは最後まで紳士だった。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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