女性が一人旅をする概念が存在しない?クウェート・シティを歩く

どうもおかしい・・・その違和感に気付いたのはクウェートに降り立って数時間後のことである。

クウェートの週末は非常にのんびりとした時間が漂っていた。

クウェート・シティにある、海に面したフィッシュ・マーケット近辺では、釣りをする男達やビーチでピクニックするアラブ人家族などを見かけた。

しかし街を行けども、ある光景にまだ出くわしていないことに気づく。

それは、一人で街をうろうろする女性の姿である。

そこではじめて自分がイスラームの国にいるということに気づく。イスラーム圏の女性が一人旅をすることは稀だ。

作家の曾根綾子が1970年代にアラブ諸国を旅した時のことをつづった、「アラブのこころ」にも同様の記述を見いだすことができる。

町を歩いていて、女の姿が極度に少ないという光景は、日本人には想像しにくいであろう。

リビアのホテルでも、サウジアラビアのホテルでも気がついてみると、女だけの旅行者というのは、<<木霊>>と私のほかのほんの一組か二組見かけただけである。家族連れはいる。しかし、女二人だけの旅というのは、確かに珍しいのである。
曾根綾子「アラブのこころ」より

イスラム教の聖典、コーランには「男性はアッラーが与えた恵みによって、女性達の保護者である(Q4:34)」とある。ゆえにイスラーム社会においては、女性は概して守られるべきものだという考えがある。

であるから、夫や父親、つまりは野郎の付き添いなくして女性一人で旅行するなんて・・・という世界なのである。

しかし、だからといって女性差別だ!というのは早合点である。

女性は男性に比べると体力が劣る。それに女性は妊娠も出産もする。男と女は身体的機能が違うのだから、果たすべき社会的役割も違って当たり前。

みんな違ってみんないい・・・谷川俊太郎の詩のような多様性を認めている。そんな男女の違いを前提とした上で、「女性は男性に守られるべき」という背景がある。

またイスラム教においては、女性側が自分を扶養させる義務がない。逆に言えば、男が女を養わなければいけないという考え方だ。ムスリム男子と話していると、「結婚したからには男が稼がにゃいかんでしょ」と女を養う気マンマンである。主婦希望の女性にとっては朗報だろう。

話がややそれたが、つまりはイスラーム社会において女の一人旅はほぼ存在しない概念と言ってもいいだろう。

クウェートに旅行をした、とアラブ人に話すと、「へえ!クウェートに?そりゃおめえ、イブン・バトゥータじゃねえか」という。

イブン・バトゥータというのは、モロッコ出身で14世紀に世界を旅した旅行家である。アラブ諸国で知らない人はいないほど、有名な旅行家である。その功績をたたえて、ドバイにも「イブン・バトゥータ」の名を冠するモールがある。

ちょっとその辺の旅行に行っただけで、アラブ人はなぜか大旅行家にたとえてくるのである。彼らにとってはレジャー感覚の「旅行」がかなり稀である、と言えるのではいか。

日本であれば、女性が一人旅もしくは旅行をする人間なんて全然珍しくないのだ。旅行をしたからといって、「沢木耕太郎じゃん!」と人々は決して驚嘆しないのである。

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曾野 綾子
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20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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