ネットに存在しない伝説の航空会社!?ゲシュム島行きの幻チケットをゲット

オマーンに行くため、ドバイ空港のターミナル2でチェックインをしていた時のことである。

ふと、横を見やると「ゲシュム航空:バンダーレ・アッバス行き」と表示されているカウンターが目に入った。

あの伝説の!?

イランのアラブ、ゲシュム島

もはや興奮を抑えきれずに、これから行くオマーンなどどうでもよくなり、気づけばカウンター近くの職員に話しかけていた。

イラン近くのペルシャ(アラビア)湾には、いくつかの島が存在する。ホルムズ海峡あたりといった方が身近だろうか。その中でも、1年前ほどからある島に目をつけていた。それがゲシュム島である。

ちなみにバンダーレ・アッバスはイラン南部にある港町である。

英語の発音からすればケシェム島もしくはケシム島と表記すべきなのだが、なぜか日本語では「ゲシュム島」と言われている。ここでは、あえてゲシュム島と表記しておく。

イランはペルシャ語を話すペルシャ人が大半を占める国である。そして、イランはシーア派を国教とするイスラーム教の国である。

しかし、そのゲシュム島は、スンニ派が多数派を占めるという。地理的に近いということもあってか、湾岸のアラブっぽさがあり、住民は湾岸アラブの伝統的な装いをしているとイランのテレビ番組で紹介されていた。

イランのアラブか。

ネットに存在しない幻のフライト

さっそく行き方を調べてみると、どうやらドバイからゲシュム島までの直行便がでているらしい。しかし、いざ調べてみるとフライトがないのだ。

後で気づいたが、そもそもイランの国内線は、アメリカの経済制裁によりエクスペディアだのスカイスキャナーなどあらゆる航空券サイトに存在していない。

ゲシュム航空のサイトも見つけたが、いざ英語サイトで予約をしようとすると機能しなくなるというシステムだった(おそらくイラン国外のクレジットカードが使えないためと推測される)。

ドバイに航空会社のオフィスがあるのでは?と思い調べるも、グーグルマップには記載されていなかった。実際に街を歩いて、いくつかのオフィスを訪ねるものの、いずれもゲシュム航空は扱っていなかった。

行くとすればイラン国内から、国内線で向かうしかないか・・・ドバイから行けばすぐ近くなのに、イラン国内からだと遠回りになる。それに、直行便があるというのに、ないというのはどういうことか。

意外な場所で売っていたチケット

フライト探しは難航し、ドバイからゲシュム島への直行便は私の中では、半ば伝説と化していた。そんなわけで、「まあ、時間があるときにイラン国内から行くか・・・」と諦めていた矢先に起きたのが、冒頭の空港での出来事である。

ないと思ってたものが、堂々と存在していたのである。

食いつかないわけにはいかないだろう。

「ちょちょちょ、これ本当にバンダーレ・アッバスに行くんですか?というかチケットどこで売ってるんですか?」

興奮で矢継ぎ早に質問を入れる私とは対照的に、「ノープロブレム〜」とインド人職員のおっちゃんは答えた。

救世主の降臨である。

「チケットならあそこにオフィスがあるさかい。フライトスケジュール?ドバイからゲシュムまでは毎日夕方の5時。ゲシュムからドバイまではお昼の2時に出てまっせ」

ネットにもない貴重な情報をゲットである。「オフィス」と言われる方向を見ても、それらしきものはない。

「ほら〜、あそこにあるやん。見えへんの?」

え〜?と思いつつ、よく見ると「航空会社オフィス」と小さく書かれた扉が、空港の隅にあった。側からみれば非常出口である。


右の消化ホースにより、いっそう「オフィス感」をなくした扉の向こうにオフィスがある

分かるかいな。

これは分からない。なぜグーグルマップにも存在しなかったのか、納得がいった。すぐにでも訪ねてチケットを購入したかったが、これからオマーンへ行くのだということを思い出した。

ゲシュム島はひとまず置いておき、オマーンへ旅立つこととなった。

幻のゲシュム島行きチケットをゲット

オマーンから戻った週末。さっそく私は、ドバイ空港ターミナル2へ向かっていた。

フライトのためではなく、チケットをゲットするために。ゲシュム空港のオフィスは、以前確認したので今回はスムーズに行くはずだった。

前回と同じオフィスにやってくると、営業時間にもかかわらずオフィスの扉は閉まったままだった。担当者が出かけているのだろうか・・・わざわざ空港まで来たんだから、チケットを買わずに帰れるものか!何時間でも待つぞ!と思ったのだが、10分たっても人の気配すらない。

すると遠くの方からペルシャ語が聞こえる。「サラーム!チャトリ?」。イラン人の気配を察知した私は、声のする方向へ向かった。するとそこにあったのは「ゲシュム航空」とかかれたオフィスだ。

あれ?さっきのオフィスは一体・・・

そこでようやく自分の思い違いに気づいたのである。先ほど私がいたオフィスは、キッシュ航空のオフィスだったのだ。ゲシュム島の近くには、「キッシュ島」と呼ばれる小さな島がある。現在はイランが領有しており、ドバイからキッシュ島へも直行便が出ている。

航空券をゲットするためだけに3時間・・・

オフィスにいたのは、イラン版の渡辺直美だった。ぽっちゃりとした体型から化粧が濃くて、目鼻がはっきりしているところまでよく似ている。唯一の違いといえば、ペルシャ語をしゃべっている点ぐらいだろう。

イランの渡辺直美は、スマホで何かを話しているようだったが、チケットを買いたいというと、「今日の便はもう出ちゃってるわよ?」という。当日購入が前提なのか・・・?

「そこをなんとか、来週の分を購入できませんかね〜」というと、直美はしょうがないわね〜という感じで、パソコンをカタカタやり始めた。どうやら来週分を前もって購入できるらしい。


この紙切れでもって予約は完了

10分ほどで購入手続きは完了。イランの航空会社ということでクレジットカードは使えず、現金払い。

これほど達成感のあるフライトチケット購入があるだろうか。

たった1つの航空券を買うためにかかった時間は約3時間。ネットでポチりすれば10分もかからない時代を考えれば、驚異的である。

しかし、それでもドバイから直行便でゲシュム島へ行けるのだ。1年越しの思いがかなうとあって、紙切れの予約確認票をしたためながら帰路についた。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

管理人をフォローする
イラン
シェアする
進め!中東探検隊