新しいヘアスタイルいいね!そのカバンいいね!と言われて、嬉しくない人はいないだろう。
けれども、ここ中東にはそれが嬉しくないどころか、褒めてくれるな!と考えている人々がいる。
中東には「邪視信仰」というものがある。人々は、「いいなあ〜」という羨望の目が向けられたモノや人に、不幸が訪れると信じている。
実際に、「兄貴の車がカッコイイって褒められたんだけどさ、その後車が事故に遭っちゃって・・・そういう褒め言葉は避けないとね」という、「実体験」ともに語る人もいた。
我々からすれば、相手を褒めることはコミュニケーションの円滑うんぬんかんぬん・・・と教え込まれているので、必要とあれば積極的に相手を持ち上げたいところだろう。しかし、褒められることで、不運を投げかけられていると考える人もいるのだ。
そんなわけで、「キレイな奥さんですね。うらやましい〜」などとは絶対言わないのである。これを言われた人は、「妻の身に何かよくないことが起こるかも」と思うからだ。
その代わり、どうしても褒めたい場合は、「マッシャアッラー(神が望まれた)」を使う。その心得は、褒めつつも不運を投げかけてませんよ!とアピールすることである。
使用例
「まあ、子だくさんで・・・マッシャアッラー!」
「お前のこといいやつ・・・マッシャアッラー!・・だって言っている人がいたぞ」
「結婚されたんですね。まあ、いい奥さんで。マッシャアッラー!」
マッシャアッラーを言うときは、少々嬉しそうに語尾をあげながらいうのがコツである。
さらに褒められることに恐れをなした人々は、邪視避けのグッズまで作ってしまった。それが青いガラス目玉が描かれたナザールボンジュウや手の形をしたハムサである。キーホルダーだけではなく、アクセサリーにもなっている。
ナザールボンジュウ
ナザールボンジュウのアクセサリー
特にイスラエルではハムサをよく見かける。アラブ人だけじゃなく、ユダヤ人も邪視を信じている。
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ファティーマの手とも呼ばれるハムサ
しかし、このマッシャアッラーは気苦労が多い。アラブ人と話すときは、褒めずにマッシャアッラー!で対応すればよいが、非アラブ人の場合は、こうした言葉を適宜差し込むことで、コミュニケーションを少し円滑にできる。
アラブ人と欧米人が半々な会社であると、この使い分けにも配慮しなければいけない。いや、そんなに配慮するほどでもないかもしれないが。