【社会人の語学留学】エジプトで短期アラビア語留学してみた

アラビア語を独学で勉強している。かれこれ2年近くになるだろうか。

社会人になってからアラビア語を学び始めたのだが、忙しいことを理由に、3ヶ月やっては3ヶ月休んで・・・というような語学学習においては、好ましくない道のりをたどっている。

集中的にアラビア語を勉強したい。でも、留学に必要な時間となると1ヶ月以上。さすがに海外の会社でもそこまで長い休みは取れない。

となれば、やはり会社を辞めるしかないか・・・しかし、無職になってまでも趣味のアラビア語を勉強する勇気はネイ!


と思っているうちに、時間や場所の自由がきくフリーランスとして働くことになった。今がチャンスだ!ということで、エジプトで語学留学をすることにした。

なぜエジプトなのか?

アラビア語を勉強するにあたって、いくつか国の候補があった。レバノン、パレスチナ、エルサレム、ドバイ、イギリスなどなど。最終的に選んだのはエジプトのカイロだった。

他の地域では、大学の語学コースか長期コースがほとんどで、費用もそこそこする。社会人だからケチるなよと思うかもしれないが、私が使っているオンライン学校の講座と比べるとべらぼうに高いのである。

そのほかにも、物価やアラビア語をフルで使える環境なのか、ということも考えた。”アラブ圏”といえども、100%アラビア語な環境とは限らない。

アズハルモスク
カイロには世界最古の大学の1つであるアズハル大学がある。写真は大学に隣接するアズハルモスク。この地区では東南アジアから留学生をちらほら見かける。カイロはアラブ文化の中心都市でもある。

千のミナレットの街カイロ
カイロは別名「千のミナレットの街」とも呼ばれる。本当に千もあるのか数えてみようと思ったが、50あたりで力尽きて断念。

エルサレムはヘブライ語を話すイスラエル人もいるし、レバノンはフランス語も公用語になっており、オシャンティぶってフランス語とぶっこんでくる輩も多い。

ドバイ、イギリスは言わずもがな公用語は英語であり、街中でアラビア語を使うことは皆無である。よって、フルでアラビア語を使えそうな環境・・・ということでめでたくエジプトが選ばれた。

通った語学学校

独学で勉強を始めた頃から、エジプトにある語学学校のオンライン講座を取っている。アラビア語の語学学校情報は英語でも日本語でもほとんどない。

あったとしても古いものが多い。アジア人が多く通う学校もあるらしいが、あまり情報がなく断念。

というわけで、途中で情報収集が面倒になり「ここでいいや」ということで、自動的に学校は決まった。

私が通っていたのは、Arab Academyという学校である。ネットでたまたま見つけて以来、はや2年近くここで講座を取っている。

Arab Academyはオンライン、リアルの学校の両方で授業を提供しており、方言や標準アラビア語などアラビア語各種を学ぶことができる。これまでに無料のアプリやサイト、本なども使ってきたが、やはりArab Academyの講座が一番だったと思う。

オンライン講座とはいえ、文法、読解、リスニング、語彙、ライティングをきちんと網羅しているし、週に1回はZoomでエジプト人の先生とスピーキングのレッスンを受けることもできる。これで1ヶ月1万円もしないので、かなりリーズナブルといえよう。

実際に現地の学校で、「どんな生徒が通っているのか?」と聞いたところ、意外にも大使館や国連関係者などが受講しているという。ちなみに日本の大使館関係者も受講していたらしい。

学校は、ガーデン・シティにある。東京でいうところの田園調布みたいな場所だ。カイロの街はひどくカオスだが、この高級エリアには高級車が行き交い、大使館関係者や富裕層が住んでいる。デヴィ夫人でも出てきそうなハイソなエリアである。

ガーデンシティ
ヨーロッパ風な建物が残るガーデンシティ。カイロ中心部に隣接しているが、落ち着いた雰囲気を醸し出している。フォーシズンズホテルなど高級ホテルもある。

留学といっても、フリーランスの仕事もあるし、エジプトで行ってみたいところもたくさんある。ということで、私が選んだのはパートタイムの1ヶ月コースで、自分のペースで進めたいので、プライベートレッスンを選んだ。

フルタイムは1日4時間の授業×5日だが、私の選んだパートタイムは1日3時間×2日。ちなみにパートタイムのコースで学費は4.5万円ほどである。これに加え、以前からやっている学校以外でのオンラインプライベートレッスンを1.5時間×2日。

果たして、これを留学といっていいものか・・・という疑念は残るが、まあそういうことにしておこう。

学校には、2週間後から通いたいと連絡し、快くOKをしてくれた。こうした柔軟な対応も社会人にとってはありがたい。大学だと締め切りやタームが決まっているので、それに合わせなければならない。

生活費と滞在場所

1ヶ月というスーパー短期なので、エアビーの物件を借りることにした。滞在したのは、カイロの中心地から離れたヘリオポリス付近である。学校がある中心地までは渋滞具合にもよるが車で20~40分ほどかかる。

家賃は1ヶ月で8万円弱ほどかかった。カイロの平均からすると高いかもしれない。ただ、家で仕事をするため、強力なWi-Fiと仕事用デスクなどを確保するため、ある程度高めの物件を選択した。

カイロで平穏な暮らしをするなら、中心地から少し離れ場所の方が良いかもしれない。カイロ中心地は、古い建物が多くインフラ状況もあまり良くないらしい。何より渋滞がひどいので、騒音もひどい。よって外国人やエジプトの富裕層は、ナセルシティやニューカイロ、マアディエリアに住むケースが多い模様。

エジプトの家
滞在していたアパートの一室。広々として使い勝手は良かった。

カイロの街並み
滞在していた時は、ちょうどラマダン前で、街はラマダン準備で色めき立っていた。マスクをする人もあまりいない。マスクをしていたせいか、「アジア人!コロナ!」みたいなことを言われることはなかった。

思っていた以上にエジプトの生活は便利だった。デリバリーサービスもあるし、最新機器がそろったジムもあるし、スーパーの食材も豊富。イスラーム教の国ではあるが、ビールやワインなどのお酒も酒屋で売っている。英語も通じるし、移動にはウーバーやカリームが使えて、地下鉄もそこそこ網羅している。治安も悪くない。

本屋もかなり充実している。カイロ・アメリカン大学に併設する本屋やザマレクにあるDiwan Bookstoreには英語の本を多く扱っている・・・がそれほど数は多くない。

一方でアタバ駅周辺に広がる、古本屋街はとにかくなんでも出てくる。自分が探している本を伝えると、店主があちこち探してきてくれる。絶対こんなとこにないだろ・・・と思っていた本も、あら不思議。見つかってしまうのである。ドラえもんのポケットみたいな本屋である。

日本に比べると、エジプトの物価は劇的に安い。ジモティーが通うようなレストランや屋台で食べれば、1食あたり100~500円程度である。ウーバーの移動も40分乗っても、500〜700円程度である。地下鉄だとさらに安く30~100円ぐらいになる。

コシャリカップ麺
エジプトの国民食である「コシャリ」のカップ麺版。ご飯、マカロニ、豆が入っており、お湯を入れて数分で完成。予想に反して、美味しかった。

学費も含めて1ヶ月でかかったお金は、15万円ぐらいだろうか。

アラビア語を勉強する意味を失う

カイロに到着した時は、どこもかしこもアラビア語にあふれていた。そうした文字を見るだけでも、「うわあ」と色めきたったものである。

カイロの街中
店の看板が読めたりするだけでも、なんか楽しい

しかし、待っていたいのは厳しい現実である。目の前にいるアラブ人たちは、アラビア語を話すが、私が勉強しているアラビア語を解さないのである。

そう、アラブ人たちが日常的に使うのは会話用のアラビア語。そして、私が学んでいるのは、文語のアラビア語である。

私がアラビア語を勉強し始めた理由。それは単純にアラブ人と話してみたいと思ったからだ。しかし、何も考えず文語アラビア語を勉強して半年以上たった時のこと。

重大な事実が発覚する。

文語アラビア語では、アラブ人と会話ができないということに。

私はこの半年、何をしていたのだろう。アラブ人と会話できない、アラビア語を勉強して何の意味があるのか。というか、これは詐欺じゃないのか?

アラビア語は国連の公式言語の1つにもなっている〜♪世界3億人と話ができる言語〜♪

あんな謳い文句、嘘じゃないか!

というか、2種類のアラビア語を用意するなんて、トラップだろ!

私はひどく憤慨した。そして怒りのあまり発狂しそうになった。

未来のアラビア語学習者に伝えるべきはこうなである。

以下の文章を読んで、A、Bどちらかを選びなさい。

A.学習するとすぐにアラブ人と会話できるが、地域限定でしか使えないアラビア語(地域に応じていくつかの方言を習得する必要あり)

B.アラブ圏全体でオフィシャルな場で使われ汎用性はあるが、日常会話としては通用しないアラビア語(アラブ人と話したければ、別途で方言を学ぶ必要あり)

究極の選択だ。

しかし、なぜ同じような怒れる学習者の声が聞こえてこないのだろう。アラビア語被害者の会があってもいいはずだ。それは、単に絶対的なアラビア語学習者の少なさもあるかもしれない。

もしくは、他の学習者たちは、すでにこのカラクリを知った上で勉強しているのかもしれない。

ぐぬぬぬ。

しかし、ここで辞めるのももったいない。今さら、方言を勉強しても中途半端だし・・・

こうして「なぜアラビア語を勉強するのか」という意味を失ったまま、私は留学を始め、終わりを迎えた。その一方で、先生たちは街中のエジプト人はお構いなしに、「何でアラビア語勉強しているの?」と聞いてくる。

私は、なぜアラビア語を勉強しているのだろう。

よくわからない。

情報収集やニュース、仕事なら英語だけでいいじゃないか。一方で、アラビア語の原書を読んでみたいというような高尚な目標もない。

英語を勉強していた時は、そんなこと考えてもいなかった。ただ、理解するのが楽しくてひたすら続けていたというだけだ。

他の生徒たちの理由は明確だった。

アラビア語通訳の仕事をしたい。仕事で必要だから。イスラーム教徒に改宗しコーランを理解するため、パートナーがアラブ人だから。両親はアラビア語を話すが、自分は話せないから、などなど。これらは、先生づてで聞いた他の生徒たちの、アラビア語学習のモチベである。

語学はどこまで上達したのか?

1ヶ月という短期間かつ、パートタイムということもあって、全体的な勉強時間は少ない。人によっては中途半端に見えるかもしれない。

語学留学に行けば、語学が上達する。というように、語学留学に行けば、ドラゴンボールの「精神と時の部屋」と同じような効果が得られると思いがちだが、現実はもっと地味なものである。

言うなれば会社の同僚がメガネを変えた時のような、微細な違いである。

というか、語学学習自体そういうものだと思う。ゼロからやれば1ヶ月でかなり習得できるが、初級以後になると、いかに持続してやるかの方が重要になる。

言語はランニングや筋トレと同じく、サボったらそこで終わり。けれども、毎日続けてたら、それなりに成長するらしい。留学後、プライベートレッスンの先生に言われた。「アラビア語、かなり話せるようになっとるで」。小さな進歩すぎて自分では気づかないが、他人から見れば大きな進歩になっているらしい。

留学体験で得られたもの

カイロにいた時は、ひたすら「何で会話で使えないアラビア語なんか勉強してるんだろ」と思っていた。

時には標準アラビア語で会話が成立することもあった。おお!ジモティーのエジプト人と話せてるやん!。相手はウーバーの運ちゃんである。しかし、会話が続くと「家について行ってもいい?」だとか、とんちんかんなことを言い始めるので、ひどくがっかりした。

またエジプト人は、英語ができる人が多く、外国人である私にハナから英語で話しかけてくる人も多かった。「そこはアラビア語で頼むYo!」と心の中では思っても、相手がガチで話してきたらよく分からないので、結局英語に甘んじるしかないのである。

ぐぬぬぬ。悔しい。

しかし、改めて考えてみると、標準アラビア語ができるアラブ人とは会話が成立するのだ。アラブ人でも標準アラビア語を理解する人は、多くない。きちんと教育を受けた人間だけが教えられるのだぞう!と、先生たちはのたまう。

カイロのモスク
語学はさておき、こうしたカイロのイスラーム建築を見て回れたことがよかった

思えば学校はプライベートレッスンだったので、教材を無視しひたすら喋りまくっていた。せっかくカイロにいるのだ。オンラインでもできることは、今やらなくていい。

と言うことで、エジプトの不思議なシステム(廃品回収システムや交通事情など)やおすすめスポットなどについて、質問しまくっていた。

先生だから丁寧かつゆっくり話してくれたのだろうけども、1つでも多くのカイロの街について、知れたことが嬉しかったし、それをアラビア語で理解できたと言う事実も嬉しかった。

夕日に染まるカイロの街
夕日に染まるカイロの街。高層ビルは少なく、かわりにモスクに併設するミナレットが目立つ。

エジプトから帰国した現在も、意味もなくアラビア語の勉強は続けている。けれども、ひょんなことでアラビア語の勉強を続けていたことが、仕事でプラスになったりもした。どこでどう転じるか分からない。そうした面白さもあるのかもしれない。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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