15年に及ぶレバノン内戦や、自爆テロなど危険なイメージがあるレバノン。一方で、かつては中東のパリと言われた都市、ベイルートが存在する国でもある。
中東料理といえばレバノン料理といわれるぐらいレバノン料理の評価も高い。
そんなことをいわれて、旅行欲をかき立てられないわけがない。そこで、旅行前に知っておきたいレバノンの治安について考えてみよう。
デモの影響は?
2019年の10月から、若者たちによるデモが起こっている。無料のメッセージアプリWhatsapp(日本人にとってのLINEのようなもの)が、いきなり課金制になるという政府の発表を発端に、デモが始まった。
アプリは単なるきっかけにしか過ぎず、高い失業率や汚職、不景気など国が抱える問題に対して、若者たちはデモを今も続けている。
後述するように、首都ベイルートの危険度はレベル1のままだが、人が集まりやすい週末の夜や、デモが行われているベイルートの中心地、ダウンタウン・ベイルートなどは避けた方がよいだろう。
デモの騒ぎに乗じて、政府側でもなく、デモ隊側でもない人間が、攻撃を繰り出すこともありうるからだ。
デモ隊が空港までの道を封鎖している可能性もあるので、事前にフライトの予定をチェックし、人が多い時間帯を避けて早めに空港へ着くようにしたい。
レバノンの治安は良い?
渡航前はレバノンやばいんじゃね?というぐらいびびっていた。私がはじめてレバノンを訪れた2015年。首都ベイルートで200人以上が死傷する大規模なテロが起こったからだ。
しかし、きちんと調べるとテロの脅威に常にさらされているわけではないということがわかる。
外務省の安全情報をみると、首都のベイルートを含め、広範囲で危険レベルは1になっている。詳細は公式サイトのページでチェック。
実際にベイルート市内は、観光客でも普通に歩けるレベル。私が滞在していたときも、危険らしい危険を感じることはなかった。
外務省のレバノン危険情報
中東のパリに恥じない、美しい街並み
不安だらけの中行ったレバノンだが、行く価値は大ありだ。
行く前はテロというイメージしかなかった。よもやまさか、そこにヨーロッパのような街並みがあるとは、思いもよらない。
しかし、実際に行ってみると「中東のパリ」は、本当に存在したのだということを感じる。15年に渡る内戦を経て、いまだ残る美しい町並みが、旅行者を迎えてくれる。
何気ない街角もオシャンティなのがベイルート
街中は内戦の傷跡を残した廃墟がポツポツとある一方で、高層ビルも目立つ
表参道のショッピング通りみたいな高級ブランド店が立ち並ぶ通りや、まるでパリにいるかのような美しい広場と時計台なんかもある。
横浜の赤レンガ倉庫に似た、海を眺めながらのオープンテラスレストランが立ち並ぶおされスポットもあった。
中東の定番フード「シュワルマ」で有名な市内のレストラン
そして何より人がおされなのである。同じ中東と言っては失礼だが、なんとなく垢抜けないアラブの感じはなく、むしろ洗練された人々が町をゆく。
レバノン人口の36%がクリスチャンであるということも関係があるのだろう。なんとなくオープンな空気が漂う。
アラブ諸国にいると、決してその時は気づかないが、なんだか抑圧されているような気持になる。しかしレバノンにはそれがない。
別に女性がスカーフをかぶって、アバヤを着ていることが抑圧されているとは思わないが、なんとなく日本と同じ感覚で、女性が町を歩けないということが、抑圧されている感覚を生み出すのだろう。
一方のベイルートでは、女性の美しさをこれでもかと出し惜しみすることなく出して、町を歩いている人もいた。
ベイルートのもう一つの顔
多くの観光客が訪れるであろう、首都ベイルート。ベイルートは、ナイトライフが充実している街としても知られている。
ベイルートはキリスト教徒も多く住んでおり、その辺のスーパーでお酒が買え、お酒が飲めるバーやクラブなども充実している。
夜になると人気の飲み屋は、人々でごったがえす。人が多すぎて、道にまであふれるほどだ。その光景は、夜の渋谷や六本木とさほど変わりがない。
深夜近くでも街に人がおり、そこそこ活気がある。
ベイルートのおしゃれバー。時間が早いこともあり、まだ人は少ない
深夜近くに、ベイルートに到着した時は、その光の多さにほっとしたものだ。しかし、夜でも歩けるからと言って、油断は禁物。人気がない場所で、強盗やひったくりの被害にあったという話も聞く。
今では活気にあふれるベイルートのナイトライフだが、個人的にはこうした場所に近寄らないようにしている。
パリピとは一定の距離を保っておきたいというのが理由の1つ。そして、そうした人が多い場所はテロの標的になりやすい、というのが常識でもあるからだ。
ラマダン中に訪れる場合
ラマダンというのは、イスラーム教徒たちにとって神聖な1ヶ月である。ラマダンの間は、日中に飲み食いをしない。
よって飲食店は日中の間クローズし、街もゴーストタウンのように活気を失う。
【徹底解説】ラマダンの疑問を解決!2020年はいつ?断食月は太る?
イスラーム教徒が人口の大半を占めるレバノンだが、首都のベイルートに限ってはあまりラマダン色は強くない。
キリスト教とも多く住んでいるため、日中でも普通に営業しているレストランや店が多い。本当にラマダン中なのか?と思うほどだ。
ラマダン中、ライトアップされたアル・アミンモスク
しかし、市内のアル・アミンモスクやダウンタウンにある時計塔の広場へ行くと、ささやかながらだが、ラマダンイルミネーションを見ることができる。
気を付けるべき場所
首都ベイルート、ビブロス、シドンといった場所は、比較的安全に旅行することができる。一方で、レバノンでは、近づかない方がよい場所もある。
同じ国でも地域によって、危険度がぐんと変わるので、気を付けたい。
シリア国境付近、イスラエルとの国境が近い南部などは、危険度が非常に高い。レバノン第2の都市、トリポリも危険度が高くなっている。実際に2019年6月にはイスラム国メンバーが銃を発砲し、警察、兵士が死亡する事件が起こっている。
南部は、武装組織ヒズボッラの活動地域でもある。イランが武器援助を行っているとして、アメリカやイスラエルからは、目の敵にされている。
さらに、ベイルートでも治安がよろしくない場所がある。たとえば、市内に点在するパレスチナ難民キャンプ。
市街地のおしゃれで寛容な空気は、そこにはない。
人々は、よそ者を歓迎しないし、写真を撮ろうものなら、「おめえ、どこのもんじゃい」とガチで絡んでくる人もいる。
気を付けるべきこともあるが、テロを恐れすぎてレバノンを訪れないのは、個人的にはもったいないと思う。
旅行前後で、印象はずいぶんと変わったし、何より中東にもこんなにオシャレで洗練された町があるのか、という驚きがある。
もっとレバノンを知るなら
今やレバノンと言えばカルロス・ゴーンで有名になったが、他にも日本で生活するレバノン人はいる。そのうちの1人が、能楽師の妻となったレバノン人女性だ。この女性の姉も、日本人男性と結婚して、日本で生活しているというのだから驚きである。そんな能楽師という伝統的な業界、そして日本での生活についてレバノン人目線で語る。