最強すぎたロンドンのホームレス

短い滞在ではあったが、ロンドンでは印象に残るものが多くあった。中でも印象深かったのが、ホームレスの人々である。

ロンドンの街には、いたるところにホームレスの人が点在していた。

ロンドンの中心部にいたっては、1駅に1ホームレスというぐらいの頻度で、ホームレスの人々に出くわした。

それもそのはずで、人口890万人のロンドンで、ホームレス人口は9,000人近くと言われている。一方で東京23区では、1,100人ほどだ。もっともこの数には、ネットカフェ難民といった数は含まれていないが。

人口の割合で見れば、ロンドンは東京よりもホームレスが多い都市なのである。

地面に座り込むホームレスの男性がいたかと思うと、2メートル先のパブでは、仕事帰りと思われる紳士たちが、優雅に酒を飲んでいる光景が目に飛び込んできた。

ホームレス男性の横には、段ボールで作ったメッセージボードが置かれていた。そこには、こう書かれていた。

「あったかい食事をめぐんでくださいまし」

外は小雨が降り、気温15度の寒さだった。

なんだこの世界観は。

イエメンの離島やソマリアといったほぼ破綻国家とみなされる国にすらない、衝撃的な光景がそこにはあった。

道端でひっそりとこうべを垂れる者もいれば、駅利用者と目が合うベストポジションを陣取り、「あたしゃホームレスだよ。お恵み求む!」といったメッセージボードをかかげる戦略的なホームレスもいた。

スーパーやカフェの前にも、ホームレスたちはよくいた。

買い物を終えた客から、食べ物をもらいやすいという発想なのだろうか。

もしくは、スーパーの前にホームレスがいるということを認知させた上で、スーパー利用客に「ホームレスの人にも買っていこう」と、買い物中の行動変化をもたらすためなのか。

ホームレスたちの生存戦略もさまざまである。

日本でホームレスというと、高齢男性のイメージがある。ここロンドンでも確かに高齢男性は多かったが、中年女性や若旦那ホームレスもいた。

人が少ない電車にのっていた時である。車両間のドアが勢いよく閉まったかと思うと、次の瞬間。

「みんなあ〜ちゅうも〜く。いいか!俺はな、見ての通り金もねえし、食べ物もねい!というわけで、お恵みヨロシクう☆」

「俺は海賊王になる!」というトーンと態度で、俺は金持ってねえ!宣言をする若い男が現れたのだ。

ひえっ!?

一瞬、声の主を見たが、いかにもやばそうな風貌であった。ラリってるにちがいない!小心者の私は思った。

しかし、車内は静まり返ったままだった。パソコンをカタカタやっているリーマンも、本を読んでいる若い姉さんもおばさんも、微動だにしない。一べつすらしないのである。

ロンドンの人、強すぎダロ!

ラリ気味な兄ちゃんよりも、人々の反応の方が最強すぎて、おののいた。

目的の駅で降りたら、再びあのラリ気味の兄ちゃんがいた。小銭をジャラジャラと数えていたので、あの海賊王方式でいくらか稼げたのだろう。

というか、あの風貌にビビることなく、意外と多くの人が小銭をあげていたんだな、ということに再びおののいた。

ロンドンのホームレス、そしてそれをとりまく人々、恐るべしである。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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