ユダヤ教超正統派がいるとなれば、どんな場所でも駆けつけたい。それが彼らの追っかけとしての使命である。
追っかけになった経緯はこちら
一生働かない!1時間でスピード婚!ユダヤ教超正統派とは?
世界最大のダイヤモンド街へ
というわけでやってきたのが、ベルギー第2の都市アントワープ。
「これが駅!?」と思うぐらいゴージャスすぎるアントワープ中央駅を出ると目の前には、世界最大のダイヤモンド街が広がっている。

駅前にはずらりとダイヤモンドショップが並ぶ

アントワープにはダイヤモンドショップだけではなく、取引所や研磨工房などダイヤモンド流通に関わる関連業者が集まっている。高額商品を扱うエリアのためか警察もおり、やや物々しい雰囲気を感じさせる場所も。
今ではインド系がメインプレイヤーとなっているが、かつてダイヤモンド街を担っていたのは、ユダヤ人たちだった。その名残か今もこの街には約2万人の超正統派たちが住んでいるという。ヨーロッパではイギリスに次いで大きいコミュニティだ。
到着したのは平日の月曜日。そのほかの店は通常運転だが、ダイヤモンド街はゴーストタウンのように店が閉まりひっそりとしていた。まさか・・・と思い調べてみたら、本日はユダヤ教の祝日であった。ここではユダヤ教ルールが発動しているのか・・・?
超正統派は本当にいるのか?
気を取り直し、翌日再びチャレンジ。いつものことだが、超正統派たちのエリアに向かう時には、自分にとってのアイドルに会うので特殊な緊張感に包まれる。このドキドキとワクワク感よ。
それに今回は、それなりの超正統派人口を抱えるイスラエルやニューヨークとは違い、アウェーな場所だ。街の中心部は「ヨーロッパの観光地ですよ」と言う顔をしているし、そこを行き交う人も、イスラエルやニューヨークの超正統派エリアにはいない層である。

観光客が多いエリア。アントワープの聖母大聖堂には、『フランダースの犬』で登場するルーベンスの絵があることでも知られる。
中央駅から高架沿いに南へと歩いていく。一向にそれらしき人は見当たらない。本当にこんなところにいるのか・・・と思った瞬間。
イターーーーー!!!
ぽつりぽつりと見覚えのある姿の超正統派たちが姿を現した。
彼らはいわば宗教界におけるコーラだと私は思っている。どの国に行っても、老若男女が同じ服、同じ髪型をしている。基本的にその土地に合わせた「ローカライズ」や個性を出すための「パーソナライズ」というものはない。
一方でイスラーム教徒は同じ原理に則りながらも、場所によって服装は異なる。湾岸諸国の女性たちは、黒いアバヤなるものを着ているし、パキスタンではシャルワール・カミーズと呼ばれる伝統服を着ていたり。
どこに行っても同じ格好をしている・・・これは服装規定も含め、彼らが厳格な戒律に則って生活をしていることを意味する。このストイックさが、推しポイントの1つである。
チャリダーな超正統派が行き交う街
ただ服装以外では大いなる違いも発見。環境意識が高いヨーロッパのためか、超正統派たちの自転車乗車率もやたらと高い。

市内にあるホロコースト犠牲者の記念碑

移動中の超正統派たちはキッズも大人も大体自転車に乗っていた
中にはLimeの電動キックボードに乗っている人も。

Limeを乗りこなす超正統派。やはり彼らは「カバン」というものを持たず基本ビニール袋で移動
超正統派もLimeに乗るんだ・・・
自分と彼らが同じサービスを使っているのは不思議な気分である。ネットなど世俗のテクノロジーと距離を置く人々だと思っていたので、こうしたシェアリングサービスを使っているということが新鮮。
アントワープには超正統派たちの姿こそあれど、ニューヨークやイスラエルにあるような特有の「濃さ」は見当たらなかった。
通常彼らの地区には、やたらとヘブライ語やイディッシュ語の張り紙がはってあったり、彼らが推している指導者の顔写真などがそこかしこにある。そうしたものは、うっすらと存在する程度。むしろ彼らが歩く通りには、レインボーフラッグが掲げられているところもあり、ギョッとする。

超正統派御用達のスーパー。超正統派向けの店やシナゴーグは、街に溶け込んでいて、近づいてみないとわからないシステム

ベーカリーショップ。こうした店はほとんど超正統派の店員が働いていた

おもちゃ屋。超正統派アイテムをゲットするのに最適な場所
何より驚きだったのは、超正統派と世俗派との境界線の薄さである。
ママチャリに乗った超正統派男子と、通勤中の世俗派たちが自転車で並走していたり。超正統派たちがウロウロしているところに、スキニーパンツとタンクトップ姿の女性が走っていたり・・・

自転車通勤者に混じって、超正統派メンズはキッズを幼稚園に連れていく
な、な、なんということだろう。
私は一人震え上がっていた。
何せ彼らのコミュニティ内では、彼らのルールに寄り添うことが求められる。女性は腕や足が露出した格好で歩くのを好まれない。ニューヨークのウィリアムズバーグでは、超正統派ではない女性が短パンで自転車に乗っている姿を見て「あれはどうなのか」といった物議が飛び出したこともある。
アイドルからの追っかけ認定
携帯ショップに入った時のこと。客である超正統派の男性に話しかけられた。英語が流暢なので、「英語が上手ですね」というと、「そりゃあ、僕はイギリス出身だから」と言われて、私は恥ずかしくなった。
彼はイギリス生まれだが、妻との結婚を機にアントワープへやってきたのだという。彼いわく、ここにいるユダヤ人たちは、今はダイヤモンドよりも不動産業に従事しているとのこと。
私が超正統派たちが使うコーシェル・フォン(ユダヤ教の規定に則った携帯でネット閲覧などが規制されている)について、店主に尋ねていると、
「君はユダヤ教の勉強をしているのか?」
これは以前にも聞かれたことがある。「いえ、文化人類学的な視点で興味があるんです」とは言えない雰囲気なので、いつも「はあ」といった生返事をする。男性はこれを聞いて納得したのかわからないが、こう締め括った。
「つまり君は僕たちが住む場所へと飛び回っているわけだ」
そうなんです!!!
なんという至福の瞬間だろうか。
私に興味を持って話しかけてくれた上に、私がせっせと追っかけをやっていることを認識されたこの瞬間。天にも昇るような嬉しさである。
アントワープの超正統派コミュニティはなんかいいな・・・
元々ダイヤモンド業を通じて外界との接触があったからだろうか。アントワープの超正統派たちは、頑なに外界と断絶するのではなく、むしろ寛容性があるように見えた。繊維のように超正統派と世俗派の人々の生活が折り重なり、行き交う街。それがアントワープらしい。

その後私はベルリンへと舞い戻った。ベルリン中央駅でトラムを待っていた時のこと。
あ、超正統派だ!
反対側のプラットフォームで、駆け込み乗車をする超正統派がいた。ベルリンの街中で超正統派を見たのはこれで2度目だ。けれども様子がおかしい。トレードマークのあの帽子をかぶっていない。代わりにかぶっていたのは、どこにでもある野球帽だった。超正統派だとわかったのは、その右手にあの黒いフェルト帽を持っていたからだ。
ドイツでは身の安全のために、こうした普通の帽子をかぶることもよくあるという。
野球帽をかぶった超正統派を見た瞬間、切なくなった。
それはあのトレードマークの帽子姿ではないという残念さと、格好を変えて生活せねばならぬ環境へのやるせなさだった。
