ベルリンプライドパレード、そしてテロ事件

夏といえば音楽フェス。ということでクラブではなくタダで楽しめる路上テクノを求めてやってきたのがベルリンのプライドパレード。ちなみにベルリンではプライドパレードではなく、CSD(クリストファー・ストリート・デイ)と呼ばれている。

パレードの最終目的地であるベルリンの中心地、ブランデンブルク門にやってきたわけだが、想像以上の盛り上がりを見せていた。プライドパレードなのでレインボーフラッグがはためき、一部の人々はほぼ裸みたいな衣装で歩いていた。

これだけ多くの人のほぼ裸みたいな姿を見ていると気づくことがある。

私のSNSは「完璧な体」に溢れている。筋トレをしているせいで、そうした人々をフォローしすぎた結果かもしれない。けれども、何百人、何千人と行き交う中でそうした「完璧な体」はどこにも見当たらなかった。お腹が出ていたり、胸が小さくても、出すものは出す。そして誰も気にしない。人間らしい体。

当たり前のことかもしれないが、スマホで見ている自分の世界がいかに偏狭で矮小かを思い知らされる。同時に自分は自分で良いのだ、という謎の安心感すら覚える。

さらに言えば、写真をとっている人の少なさよ。こうしたイベントだと動画やセルフィーなどバシバシやるもんだと思っていたが、ヨーロッパ特有のプライバシー事情もあってか、スマホを掲げている人が少ないのも特徴。よって、こちらが写真を撮るのも気が引けてしまう。


ブランデンブルク門に向かって練り歩く群衆


肝心の音楽はテクノより、クイーンやレディ・ガガ、アリアナ・グランデなど洋楽ポップスが中心だった。何気なく聞いていた音楽が別の誰かにとっては応援ソングだったということを知る


わずかなテクノを求めて流れ着いたのがフランスの「1664」ビール売り場。売り場でDJが音楽を流しており、音楽目当てで吸い寄せられた群衆が、ついビールを買ってしまう流れ。とにかくベルリンではDJがいるところに人が集まる


パレードを練り歩いていると、聞いたことも見たこともないような音楽に遭遇する。そして年齢関係なく踊る。こうした出会いがベルリンの良いところ。


踊る群衆の頭上で、我らがキティちゃんがゆらめいている。重低音のテクノとふわふわキティのギャップよ。


レインボーフラッグやグッズを売る店もちらほら。レインボーフラッグには様々な種類があるが、ベルリンでよく見かけるのは左上のプログレスバージョン。

プライドパレードと聞くと、いわゆるLGBTQ+の人々のためのパレードというイメージが強い。日本では「性的マイノリティ」と言われたりするが、ベルリンにいるとあまりその「マイノリティ性」を感じにくい。

というのも、「LGBTQフレンドリー」を謳う店やイベントが多くあり、刑務所や市庁舎などの公的施設も含め街の至る所でレインボーフラッグが掲げられている。ベルリンでレインボーフラッグを見ない日はないと言っても過言ではないだろう。

むしろ、デモとカウンターカルチャーの都市ベルリンでは、「マジョリティ」寄りと言えるかもしれない。いや、そもそも少数派だの多数派だのと括ること自体、ナンセンスなのだろう。

今年のプライドパレードのテーマは「Haltung ist hot」。ざっくり訳すと、自分の信念を持って生きている奴はセクシーだ。つまり見た目や性的嗜好に関係なく、自分に自信を持っている奴がかっけえ、という意味だと理解している。

かつて出会った生粋のベルリナーに聞いたことがある。「ベルリンで入るのが難しいクラブに入るのはどうしたらいいか?」と。彼女の答えは「Haltung」だった。見た目がイケてるとかではなく、その人の世界観が醸し出すたたずまいがすべてだと。というわけで、私はこのスローガンがいたく気に入っている。

パレードを離脱して1時間後、群衆に車が突っ込む事件が起きた。1人の女性が亡くなり、10人以上が負傷した。Googleマップには事件現場付近に「事件が発生した」と表示されていた。犯人は事件の翌日に射殺されたが、それまでは犯人がこの街のどこかにいるという事実が、不穏な気持ちにさせた。

再びパレードが開催されていた場所に行くと、当日の楽しい雰囲気はどこにもなかった。あったのは鎮魂である。


花やぬいぐるみ、メッセージが置かれたブランデンブルク門前

周りを取り囲む人は、年齢や人種、性的嗜好に関係なく、ただじっと地を見つめていた。不思議なもので、感情は伝染するらしい。ニュースで「悲しい事件だな」とぼんやり思っていたが、現場でそうした人々に囲まれると途端に胸が痛くなるほどいたたまれなくなった。

私は勘違いをしていた。こうした献花は、事件の被害者のためのものだと思っていた。けれども献花の内容を見るからに、あの襲撃は一部の人間でなく、クィア界全体への攻撃だったのだと気付かされた。


車が衝突した木の根元にも多くの花が置かれていた

事件現場となったティアガルテンは、ベルリンの中心部にあるとは思えないほど大きな緑地公園。いつもは静かな場所だが、パレードやデモなど大規模なイベントの会場にもなることが多い。

公園と呼ばれているが、森といった方がしっくりとくる。森の中では、いくつもの木の下に花やろうそくが手向けられていた。その横を自転車や犬と散歩する人々が横切っていく。穏やかな日常の光景の中にある鎮魂の風景。

プライドパレードの喧騒からテロという狂気、そして悲しみの鎮魂。人間たちが翻弄される中、森の木々はいつものように、ただじっとたたずんでいた。