イスラエルのベングリオン空港名物、SMクラブへようこそ

イスラエルや中東諸国への旅行者の悩みのタネとなるのが、アラブ諸国の入国スタンプがある場合のイスラエル入国と出国。

どのブログを見てもわざわざ空港でのやり取りを載せているのは、イスラエルぐらいだろう。見知らぬ入国管理官があれこれとこれまでの渡航履歴やイスラエルの旅の目的を聞く様子は、一見するとちょっと嫌だなあと思うが、よく考えてみるとSMプレーさながらのように思えてくる。

もちろんSMクラブなど行ったことないが、何度も空港でのやり取りをするうちに、Sっぽく嫌味な質問をしてくるイスラエル人に対して、なぜか自分がMのように振舞っていることに気づいたのだ。なので、まさしくイスラエルの入国はSMクラブの一種のプレイとも言えよう。

私自身もソマリアやイランのスタンプがついているため、今回の渡航はいったいどうなることやらとヒヤヒヤしていた。そこで自ら人体実験と称して、ソマリア、イラン、レバノン等のスタンプがついたパスポートでイスラエルに潜入することにした。

イスラエルの入国スタンプは廃止

あまりにも「ノースタンプ」という旅行者が多いためか、イスラエル入国時にはすでにスタンプを押さずに、入国カードのようなものでゲートを通過するというシステムになっていた。

というわけでこれからは「ノースタンプ」という必要はなさそうだ。しかし、イランのスタンプが気に食わなかったらしく、なんでイランに行ったのかという質問に始まり、ドバイで何をしているのか、名刺を出せ(持ち合わせていなかったので出さなかったが)などと言われる。

終いには、SMプレーではお決まり?のお仕置きボックスみたいな待合室で待たされるものの、別の職員と10分程度おしゃべりをして解放された。というわけで、アラブ諸国スタンプがあっても特に入国は問題無し。しかも5年前に来た時に比べ、やはりチェックが甘くなっているなあという気がする。

イスラエル出国時はやっぱり3時間前到着が必須

これは地球の歩き方にも書いてあり半ば常識化しているが、私が住んでいた5年前と比べてセキュリティが若干弱まっていることと、ドバイボケ(大体フライトの1時間半前ぐらいでOK)のせいで、不覚にもあの悪名高きベングリオン空港に1時間半前に着くということをやらかしてしまった。

もちろん、アラブ諸国のスタンプがないといったクリーンなパスポートを持っている場合には問題ないと思うが、ここに来て私のパスポートが問題の根源となってしまう。

といってもベングリオン空港では過去に何度か嫌な体験をしてきたので、まるで仮面夫婦の生活のように、向こうが仕掛けてきたら冷静にそれに乗ってあげるのである。

出国時に聞かれるお決まり文句は、「イスラエルで何したの?」「友達いるの?」「荷物は自分で詰めたの?」といったものだが、私のバージョンは以下の通り。

「なんでイスラームの国ばかり行くんだ?(スーダン、ソマリア、レバノンのスタンプを指して)」

「スーダンになんでいったんだ?」

「スーダンに一体何があるんだ?」

と意地悪く矢継ぎ早に突っ込まれる。これぞSの極みである。特に熱心にイスラームの国を選んでいたわけではないが、指摘されて初めてああ、確かになあと気づく。

スーダンにいった理由は特にないのだが、明らかにスーダンなんて行くところじゃない、という態度だったので、適当に「南スーダンが最近できたでしょ。だから政治的に興味があったんです」という全くもって意味がわからない理由を述べていた。

しかし考えてみると、「スーダンに一体何をしに行くんだ」って、スーダンに何もないといっているようなもので、スーダン人に失礼じゃないかと思う。

こうした必死の弁解も虚しく、質問するイスラエル人からは「こいつは協力しないからお仕置き部屋だ!」みたいなことを言われる。

いや、実際にそう言ったわけではないが、もっと詳しく検査が必要だということをいったので、さらなる検査=お仕置き、と私はとらえたのである。

これが1回目なら一体何をされるのか?とビビるところだが、複数回ともなると実はこれが早道なのだということを私は学んだ。もちろん、検査は重々にされるのだが、検査官がスタッフしか通れない道を通り、つきっきりで案内(連行)してくれるので、私はこれを密かにプライベート出国と呼んでいる。SPがついてちょっとしたセレブ気分だろうか?逆に言えば、連行されている容疑者のようにも見えるのだが。

爆弾に取り憑かれたイスラエル人

別の検査場に連れて行かれ、荷物を細かく解体される。ジャケットも検査のためだ!といって身ぐるみをはがされ、なんとヒートテック1枚になってしまった。

さすがの私もこれには恥じらいを感じる。別の言い方をすれば、空港をババシャツ1枚でうろついているのだから。これは年頃の女子にはきついものがある。そして寒い。これもSMプレーの1種なのだなと思うことに。

ヒートテック1枚の上、靴を脱がされ足元を触られる。同じ柄のペア靴下を履いてきてよかったと思う。違う柄だったり、臭かったら恥ずかしいじゃないか。

その次に、アメリカの空港にもあるような全身探知機のような機械に入り、両腕をくの字に曲げる。変なポーズのウルトラマンになったような気分である。この辱めもプレーなのだと思ってやり過ごす。

しかしよく考えてみると、彼らの爆弾への執念は異常とも思えてくる。スタートアップ国家と言われるように、イスラエル人というのは賢く、セキュリティ産業も発達している、と思っていたが、スーツケースの中身をすべてひっくり返して、未開封の商品も開けないと爆弾が探知できないとは。ハイテク国家とは程遠い姿である。

さらに驚くべきことは、私のノースフェイスのデイパックを持ち「このバッグが怪しいが、検査をする時間がない。検査したあとで別便で送る」というのである。

バッグと引き裂かれるショックよりも、何も入っていないボロボロのデイパックに対して、爆発物が仕掛けられている、と本気で疑うイスラエル人は大丈夫なのか?と心配してしまった。どんだけ爆弾に取り憑かれているんだろうか・・・

「バッグがなくなったのでどうしたらいいんでしょう?」と優しく(あくまでM女をまだ演じている)尋ねると、「このバッグを使いな!」といって無料進呈されたのが、ベングリオン空港特製バッグである。タダでこんなカバンをもらえるなんてラッキーと思いつつ、検査上をあとにする。

無論、免税店をみる暇もなく係員に付き添われ(連行され)、搭乗口ゲートへ。最終搭乗のコールで初めて名前を呼ばれるという光栄にあずかったが、すでに着席している乗客の視線がちょっと痛かった。そして息をつく間も無く、ベングリオン空港を飛び立っていった。

そう、どんなに無茶振りな状況だとしても、このようにイスラエルでは必ず飛行機に乗せてくれるので、どうぞ安心してください。アラブ諸国スタンプがある場合には、徹底的にどMになり、SMクラブのプレーを楽しむべし。これぞベングリオン空港名物のアトラクションなのだから。