イスラエルは世界で唯一、ユダヤ人が多数派を占める国である。イスラエルで主に公用語として話されているのは「ヘブライ語」である。イスラエル語ではない。
普段の生活は英語のみでOK
英語もよく使われている。特にテルアビブといった都市部であればみな英語を流暢に話す。旅行の際にはヘブライ語ができなくてもまったく問題はないといえよう。空港の職員たちもきれいな英語を話すし、コミュニケーションもすべて英語だ。
イスラエル人の英語はくせもなく、フィリピン英語のように日本人にとっては聞きやすい英語の部類に入るだろう。
なにせイスラエルは移民の国。今も世界中から離散したユダヤ人が、この地にやってきている。出身国も言葉も違う移民たち同士が、コミュニケーションをとるには英語が便利なのだ。
イスラエルで英語を話さない人々
一方で英語が話せない人もいる。特に宗教色が強い人々になるとその度合いが強い。その最たる人々が、ユダヤ教の超正統派と呼ばれる人々だ。男子は真っ黒なシルクハットとスーツを着込み、おしゃれリーマンのような出で立ちをしている。
彼らはストイックな隠遁生活を送っているので、そもそも教育システム自体が他のイスラエル人と違うのだ。彼らにとって勉強といえば、ユダヤ教の聖典「トーラー」などをひたすら読みこむことである。
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彼らに英語で話しかけてもあまりいい返事は期待しないほうがいいだろう。そもそも英語を話さない、もしくは異性の場合は無視されるのがオチである。ほとんどはヘブライ語を話すが、「アシュケナジ」と呼ばれるヨーロッパ系の正統派の中には、イディッシュ語を話すものもいる。イディッシュ語はその話者の少なさから、消滅の危機にある言語になっている。
中にはニューヨークからやってきました!という筋金入りの正統派たちは、当たり前だが流暢に英語を話す人々もいる。
アラビア語も公用語?
アラビア語もイスラエルの公用語とされていた。というのも2017年にイスラエルのネタニャフ首相が、「アラビア語を公用語から外す!」などとぬかしたため、今では微妙な立ち位置になっている。ネタニャフ首相はありとあらゆる面で、イスラエルはユダヤ人のもの!アピールをしたいおっさんなのである。
AFP通信:イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定
イスラエル内でアラビア語を話すのは、アラブ系イスラエル人である。パレスチナ人が多く住む東エルサレムやイスラエル第3の都市、ハイファではアラビア語を話す人々がいる。
彼らはもともとはパレスチナ人だったわけだが、1948年にイスラエルが建国され、ヘブライ語が国を席巻するようになって以降は、「アラブ系イスラエル人」として仕事や生活のためにヘブライ語を話さざるを得なくなったのである。
その他にもイスラエルではロシア系の移民も多い。町では、ロシア系のスーパーもよく見かける。かつては旧ソ連には多くのユダヤ人が住んでいたが、「ポグロム」に代表されるような反ユダヤ主義運動により、その多くがこの地へと逃れてきたのである。
ヘブライ語は意外とカンタン!?
ヘブライ語はリバイバルした言語である。もともと古代のヘブライ人が使っていた「古典ヘブライ語」を19世紀になってベン・イェフダーという人物が、「現代ヘブライ語」としてリニューアルしたのだ。以来彼は「ヘブライ語の父」と呼ばれ、エルサレムの街の中心には、彼の名前に由来する「ベン・イェフダー」通りがある。
現代ヘブライ語は、新しい言語ゆえに複雑ではない。アラビア語と同じセム系の言語なので、似ている言葉が沢山ある。ヘブライ語のスラングにもなったアラビア語もあるほどだ。同じ意味の時もあれば、アラビア語と少々別の意味合いで使われているのが面白い。
たとえば、「ワッラ(וואלה / والله)」。イスラエル人は、「え?本当?」、「うそやん?」みたいな意味合いで使うが、アラブ人たちは、「神に誓ってマジだから!」という意で使う。
その他にも外来語は日本語のようにそのまま持ち込んでいる。「テクノロジー」は「テクノロギア(טֶכנוֹלוֹגִיָה)」、「ラジオ」は「ラディオ(רָדִיוֹ)」といった具合である。
ヘブライ語はマイナーな言語なため、イスラエルやアメリカの一部以外ではなかなか学習機会がない。しかし、イスラエル国内ではごまんとある。なにせイスラエルは移民の国だ。ユダヤ系移民に立派なイスラエル人になってもらうには、とにかくヘブライ語を覚えてもらいたい。そんなわけで、「ウルパン」と呼ばれるヘブライ語教室がいたるところにある。