まるで戦場。過激&危険度MAXなベルリンの年越し花火

日本の年越しといえば、厳かで穏やかなものだろう。家でテレビを見たり、神社に出かけて初詣といった平穏な年越しである。しかし、ベルリンでの年越しを終えた今、私の心境はまるで日本兵が戦場から命からがら帰還できた、というとてつもない安堵と興奮が入り混じったものであった。

そう、ベルリンの年越しは戦場である。

ドイツでは年末になると、スーパーやコンビニで花火が売られ、個人で花火を打ち上げても良いというルールが発動する。日本で花火といえば、線香花火など全くもって害のないものだが、ドイツで売られている花火はスケールが違う。

プレ年越しということで、30日に友達と花火をあげようぜ!ということになった(本当は31日以外はNG)のだが、その花火の衝撃と言ったら・・・

え、何これダイナマイト・・・?

どこからどう見てもダイナマイトなのである。問題はそれをどこで打ち上げるかなのだが、友達はこの辺でいいっしょと言って、昼間は人で多く賑わう駅近くの土手に花火を設置。こんな町のど真ん中でいいのか・・・?と困惑しながらも、導火線に着火するという役割を命ぜられ、恐る恐る着火。そして、着火直後に猛ダッシュで花火から離れる。

昭和のバラエティで見るような映像やないか・・・

その直後、花火が打ち上がる。ロケット花火程度かと思いきや、多摩川の花火大会で見るような、まあまあ本格的な花火なのである。

え、何この本格打ち上げ花火・・・

日本であれば自治体の許可を取って、花火師しかあげられないような花火を、自分が上げているのである。近くのアパートに住む住民たちがその花火を見て、歓声を上げていた。

自分が打ち上げた花火で喜んでいる人がいる・・・

とてつもない快感が込み上げてきた。ゴミになった花火を回収しようとすると、「あ、まだ花火は暑いし、そこに放置しておいていいからw」ということで、我々は花火のカスを土手に放置したまま、引き上げた。なんだか犯罪者になった気分である。


着火した花火と同様のタイプ。皆、花火をしてはやり捨てていくので、年末のベルリンは花火のカスとビール瓶で一層ゴミだらけになる。


スーパーの花火売り場。人気すぎてほとんど品切れ状態。

このように年末になると、あらゆる人間がダイナマイト級の花火を手にし、そこかしこで花火を打ち上げるようになる。しかし中には花火を持たせてはいけない人間ももちろんいるわけで。良心がある人間ならば、安全に配慮し、人気のない公園などを選ぶだろうが、中には家のベランダから花火を発射する輩もいるし、通行人を狙って花火を投げてくるキチガイもいるので、町はとんだカオスになる。よって年末までの数日間は、町のあらゆるところから爆発音がドオン、ドオンと絶え間なく聞こえてくる。それはまるで紛争地にいるような気分にさせる。

そう。専門家が扱う花火なら問題ない。しかしベルリンの大晦日を危険にするのは、なんの資格もないパンピーたちが、危険物を扱うことにある。もちろんドイツでも個人で買えるものと、専門家が扱うものとで、花火の種類は棲み分けられているが、それでも日本に比べると、個人が扱える花火のスケールがかなり大きいのである。

花火活動がピークを迎える大晦日の夜。私は治安の悪いことで知られるノイケルンから、町の中心地の1つである、アレクサンダー広場への向かうことにした。案の定、ここぞとばかりに爆発と花火が連続しており、あらゆる街角に警察と救急車両が待機している。


道端で花火をぶっ放している

警察が道路規制をしているノイケルン。法治国家の光景ではない

大晦日の人々は特にタガが外れていた。普段は、ユニセックスや登山スタイルで決め込んでいる地味な集団たちも、この日ばかりは派手な格好をしてみたり、ミニスカをはいてフェミを出してみたりする。カバンの中に大量の花火を入れ込んで、移動する輩もいた。その様子はまるで狩人である。


電車で中心地を目指す人々

ノイケルンからまた治安の悪い路線で知られる地下鉄のU8線に乗り、中心地へと向かっていたわけだが、事件が発生する。カウントダウンを狙う大勢の乗客で、駅に人が溢れかえり満員電車状態。満員電車のエキスパートである日本人からすればなんてことない混雑状況だが、満員電車の乗り方を知らないアマチュアたちは、きゃっきゃ言いながら押し合いへしあいしている。

中心地に近づくにつれ、人が入りきれない状態になり、ドアも閉まらない。普段は「白線の内側までお下がりください」という無機質な自動音声も、ドアが閉まらないので「は、は、はく、は、はくせ、は」のようにバグったラジオ状態でラップをかましているような状態になっている。

そして事件は起きた。駅の構内にいた男性が私が乗る車両に近づき、ドア付近にいた目の前の男に、「お前が降りろや」などと絡んできた。そのやりとりを眺めていた数秒後、殴り合いの乱闘が始まった。男の仲間も参戦し、松葉杖で卑怯な攻撃を加え始めた。

これがストリートファイトの合間か・・・

などと感心している場合ではない。いや、沸点が低いということはこういうことか。まるで花火のように一瞬で点火し、火花を散らし始める。

カオスはさらに加速する。ドアが一向に閉まらないことで車掌がブチ切れた。

てめえら全員外でろや。この電車はもう動かねえかんな!

ひえっ

車掌が逆ギレしたことにより、電車は本当に動かなくなった。呆気に取られた大勢の乗客が仕方がなく駅のプラットフォームにどっと流れ込む。そして突然の爆発音。地下の駅なので、音がものすごく響く。誰かが持参した花火に着火したらしい。

車掌から降車命令を受け電車から追い出される魑魅魍魎たち


電車を諦め、徒歩で中心地に向かう人々。カウントダウンまで30分を切っている

もう訳がわからないまま、ただ歩いて中心地を目指した。カウントダウンが迫る町中は悲しいことに本当に気狂いであふれていた。道を歩きながら、ノールックで花火を着火させ、そのまま放置するやつ。まるでタバコのポイ捨てするみたいに、着火した花火を捨てるのである。そして後ろを歩く善良な市民は、「ぎゃっ」と、その花火に驚かされるという算段。歩き花火だけはまじやめてくれ・・・!そう、いつどこから花火がぶっ飛んでくるかわからないので、肝が冷えまくりである。

善良な歩行者だけでない、車も被害者である。車道にも花火が転がっているので、いつ爆発するかわからない。それゆえに、まるで雪道を走るかのように、ドライバーも慎重深く運転する。いつ襲われるかわからない、シューティングゲームの世界が広がっている。

ようやく中心地に着くと、そこはカオスを極めていた。至近距離でどんどこ花火を打ち上げまくっている。音も相当なものだが、火の粉も降り注ぐので、観客たちは「おおう」とどよめきながら火の粉を避けている。

何が楽しいんだ・・・



あまりのカオスぶりに耐えられなくなり、「もう帰ろう」とアレクサンダー広場駅に向かったわけだが、警察が人の壁を作り、駅から人が出ないように入場規制をかけている。駅に辿り着けない!!絶望的だ。しかし諦めるわけにはいかない。私は鮭のように人の流れに逆らい、警察の壁伝いに駅を目指す。ある警察には誘導され、別の警察には押しやられながら・・・

私の家の付近だったらもう大丈夫だろう・・・と思った私は甘かった。駅から家に行く道すがら、大きな橋がある。なんとそこでも普段では考えられない大勢の人が集まり、どかどかやっているではないか。橋の両側で花火を打ちまくっているところを通り抜けなければ家に帰還できない。

細心の注意を払いながら橋を渡ろうとする。

あ!

と思った瞬間、なんと私の足を目掛けて、花火が発射しているではないか。そう、花火=上に上がるものと思い込んでいたが、なんとこちらはホリゾンタイプだったのだ。よく見たら、私が立っているとこだけ、不自然に人がいない。

橋の上で私一人が、花火の攻撃を喰らい慌てている。そして周りの観衆はというと・・・

みな、ワイングラス片手にその花火を優雅に楽しんでらっしゃる。

何これ、いじめ・・・?

というか、なんでワイングラス持ってきてんの?

もうだめだ。カオスすぎる。ビール瓶に花火をブッ刺してるし、花火をくらっている人を肴に、ワイングラスに片手にケタケタ笑っている聴衆。

狂ってる・・・

恥ずかしさと恐ろしさのあまり早足になる。家まであと100メートル・・・もうちょっとだ。踏ん張れ。と思っていたら、誰もいないところから、突如として、狙撃花火に奇襲される。花火を着火している輩には、花火がどこに飛ぶのか予測もつかないし、それがどこに飛ぶのかも関係ないのだろう。ただただ、花火を着火して、暴発する様子を楽しむ善良な顔をした悪魔のような人々。

彼らは普段、騒音にはうるさい人々である。ドイツでは、決められた時間には騒音を出してはいけないというルールがある。その時間帯に、掃除機や洗濯機をかけるのはNGなのである。祝日や日曜はそのルールが全日適用される。そんな日本人よりも騒音に厳しい人々が、暴発するのがこの大晦日なのである。

その結果・・・

ドイツでは花火関連による倉庫火災が発生し4人が死亡、そしてベルリンでは禁止区域で花火をやったとして、300人以上が逮捕されたという。花火で負傷した警官もいるという。もはや暴動レベルである。もちろん、環境によくないから花火をやめるべきだという意見は国内でもある。禁止区域を作ったり、規制している様子はあるが、それでもこの狂乱は止まらない。それはどこかドイツの国内事情を反映しているようにも思えた。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。

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