外食をする時は、なるべく自分が食べたことのないものを食べるようにしている。
せっかくお金を出すのだ。普段自分が食べているようなものや、その延長線上のものを食べても、もったいないじゃん?というケチの発想である。
だからといって、いわゆるゲテものや、うわあ・・・というものを自ら食べに行くというスタンスでもない。
しかし、今回それらしきものが、向こうらやってきたのである。
それが、「羊の睾丸」。
ヨルダンの首都アンマンにいった時である。本来の目的は、ヨルダンの伝統料理「マンサフ」を食べることだった。
しかし、メニューを睾丸やら肝臓といった肉が並んでいる。ゲテモノコーナーがあるわけでもなく、「一般人ですよ」と言わんばかりに至って普通のメニューとして記載されている。
はて。睾丸というのは、一体どんな味がするものなんだろう。食べたこともないので、想像しがたい。
注文を取りに来たのは、アラブマンである。英語が少々不安げだ。わかりやすいように指をさしたが、メニュー名がひしめきあっている。
せっかく注文したのに、違うものがでてきてたら悲しい。よって、私は、メニュー名を執拗に何度も読み上げた。
団体観光客がメインの店に、東洋の女が1人でやってきて、羊の睾丸!羊の睾丸!と繰り返しているのだから、店員は恐怖を感じていたにちがいない。
「この客、やばあ・・・」
しかし、こちらからすれば、やばいのは羊の睾丸である。
出されたのは、ごく普通の鶏肉と野菜炒めのようなもの。匂いも食欲をそそる。素知らぬ顔で食卓に出せば、ちびっ子も喜びそうなルックスである。
野菜と羊の睾丸ソテー
肝心なのは味なのだが、味は淡白だ。むしろ、味がない?ともいえる。クサみもない。ゆえに、なんだかフワフワとした雲を食べているような感じである。
しかし!
睾丸の恐怖はここからなのだ。なんだろう。普段肉を食べているときは、リアルな動物を想像することはまずないのだが、羊の睾丸は別だった。
自分は睾丸を食べているのだ、という非日常的な設定ゆえか、目の前にいろんなタマタマが浮かぶのである。
道端や草むらで見かけた羊のタマタマ。そして、友人が飼っていた去勢していない犬のタマタマ。小学生の頃飼っていた犬の去勢前のタマタマ。
種類と時空を超えて、いろんなタマタマが去来する。
そう、いま自分はあのタマタマを味わっているのだと。
視覚的そして、食感的にタマタマを味わっているのである。もはやタマタマショーである。
不思議な気分だ。
これは睾丸がみせる幻覚作用なのだろうか。あの幻覚が恐ろし過ぎたので、もはや食べることは2度とないだろう。あなおそろしや。