Googleが存在しない世界に行ってみたら

中国へ行く上で最大の懸念が、Googleなど日頃世話になっているサービスを使えないことだった。生活の大半をGAFAサービスに依存しているのだから、むしろ重要なインフラといってもいいだろう。それにGoogle関連のツールは、仕事では必須。はて、Googleなくしてどうやって仕事を進めたらいいのか。

中国でGoogleは本当に使えないのか?

ということで、私はGoogleなしでの仕事の遂行をシミュレーションすることにした。コミュニケーションアプリである、SlackやTeams、Windows系は使えるから、何とか行けそうだ。しかし、あのファイルやレポートにアクセするには、どうしてもGoogle Chromeを使えないと困る。ああ、プライベートでもGmailが見れなくなると困るな・・・こうしてみると、日々の生活にどれだけGoogleが入り込んでいるかが分かる。

もちろんVPNを使えば使える、というのは知っていたが、それが本当に使えるのかは行ってみないと分からない。というわけで、使えなかったらもはやそれまでということで、とりあえず上海に行くことにした。仕事ができなくても死ぬことはない。

それでも使えればな、という淡い期待を抱きながら行ってみたのだが、冷徹なほど使えなかった。VPN付きのSIMカード空港でゲットしたのだが、これがまあ使えない。というかネットすらほとんど繋がらない状態である。300元もしたのに。とんだ無駄金であった。

SIMカードを入れると、シスコのVPNアプリをカウンターのスタッフがダウンロードしてくれる。このアプリからVPNを繋げるのだが、このVPNが数時間おきぐらいに途切れる。その度に、もう一度VPNを設定して・・・の繰り返しである。ちなみに事前に入れておいたVPNも使ってみたのだが、これも全く使えない。ネットでは中国でも使えます!と書いてあるのに。とんだパチモンである。

Googleが存在しないもう1つの世界

ほぼ4日間、ノーグーグルで過ごしていたわけだが、そこでいかに私の生活がGoogleに依存していたかということと、そしてGoogleが独占する世界への疑問も同時に湧いてきた。

空港に迎えにきた友人の車に乗り、彼女の実家へ行くことになった。彼女はスマホをカーナビ代わりにしていたわけだが、もちろん使っているのはGoogleマップアプリではない。彼女曰く、Googleマップをオマージュした中国の地図アプリだという。

へー、と思ってアプリをのぞいてみると、次の信号が赤に変わるまで何秒だとか、こっちの車線を行けだとか、Googleマップよりもはるかに詳細な情報と丁寧な案内が示されているではないか。というか、なぜ信号の色が変わる秒数がいちいち分かるのだ?

す、すごすぎるぞ・・・なんだこのサービスは

そう。世界にはGoogleよりも便利で優れたサービスが存在していたのだ。ただ、私はGoogleしか知らない。だからGoogle様が世界一偉いのだと思っていた。知ってはならない事実を知ってしまったような気がした。そう、まるで田舎で一番の美女だと思っていた女人が、東京に出てくればそれほど美しいわけではなかったと思い知った時のように。

私はGoogleを過大評価していた自分と初対面してびっくりした。中国に来るまで、当たり前すぎてそんなこと思いもしなかった。私が住む世界の大半の人間がGoogleを使っている。みんなが使っているものは、優れているもの。仮に優れていなくても、選択肢がそれしかなければそれを使い続けるしかない。Googleを選んでいたのは自分ではなくて、Googleしか選べない自分だったのではないか。目の前の優秀なツールは、そんな疑問を投げかけてくる。

Googleは本当に素晴らしいのか

Googleが使えない世界は私にとっては不便だったが、友人にとってはむしろGoogle世界よりも便利な世界で生きているように思えた。どこへ行くにも、彼女は常にスマホを見ていた。飲食店に入る時も、まずはメニューを見るのではなく、スマホをチェック。オンラインメニューを見ているのかと思いきや、クーポンがあるからそれを探しているのだという。クーポンがある店なんて限られた数なんじゃないか、というのが私の感覚だったが、彼女のそぶりから凄まじい数の飲食店がクーポンやらお得な特典を提供していることがうかがえた。

また、中国では個人情報がダダ漏れで、当局が常に監視しているのでは?というのが、中国初心者の私の考えだった。しかし、それを彼女に話すと、私がまるでいまだにサンタを信じているのか?と言わんばかりに鼻で笑った。彼女の友達に会った時、「この子、中国では個人の言動がつぶさに監視されていると思ってるんやて」と言ったところ、その友達も「何、そんな迷信いまだに信じてるの〜?」と同じようなリアクションをした。

しかし、中国のお偉いさんが監視しているかはともかく、確かに個人情報はダダ漏れしていた。その証拠に彼女は、

「知ってる?中国では同じことを検索しても、人によって違う検索結果が出るんよ」

「それはGoogleの検索でも同じだよ」

「ちゃうねん。例えばな、あー最近お金ないねん。でも旅行行きたいなーとか友達と電話で話すとするやろ。そしたらな、航空券を探す時に安いチケットが出てくんねん」

「じゃあ、何も言わなかった場合にはどうなるの?」

「正規の高いチケットしか表示されんねん」

そんなことあるかい。

とまあ個人的なやり取りで裏どりはとっていないので、真相のほどは謎である。しかし、チャットや電話、メールなどのやり取りから、情報がカスタマイズされることは、中国でもありうることだろう。もちろんGoogle社会でも、そうしたことは起きている。たとえば、とある商品を検索したら、同じ商品の広告や類似商品の広告が、他のサイトを見ていても追いかけてくる、といったことである。ただ中国に至っては、それがGoogle社会よりも、如実にそして最適化された形で行われているのだと思う。

Googleがない世界がうらやましい

しかしGoogle社会では、”先進的な”プライバシーの保護のために、こうした機能の発展に歯止めがかかりつつある。EU地域では特にそれが顕著で、プライバシーや人権にやたらとうるさい。そうした大義名分のために、煩雑な制度が増え、それゆえにサービスの利便性が落ちたり、むしろ使いづらくなるといった現象に見舞われている。EU地域ではサイトを閲覧するにも、毎回企業の情報利用の同意について答えなくてはならないし、Yahooニュースにアクセスできなかったりするのも、その一例だ。

中国はその反対で、あらゆるデータを搾取する。それがGoogle社会の住人からすると「下品ねえ」だとか「危険だわ」と揶揄される。しかし、あらゆるデータを搾取し、便利で先進的なサービスを受けられるなら、そっちの世界も悪くはないな、いやむしろそうした世界の住人が羨ましく見えてきたりする。Google界にはない便利なサービスを享受する友人を見ていて思った率直な感想だ。Google界でもそんなサービスがあったらな・・・

そしてGoogle界へ戻った私は、再びGoogle漬けになっている。Googleよ、あなたは美しい女人だけれども、しょせんは田舎の美人なのね、と思いながら。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。

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