海外でのヘアカット=失敗する、は本当なのか?

ソマリアにいくよりも、海外で髪を切るということほど勇気がいるものはないだろう。一様に日本人たち(特に女性)の海外で髪へ切ることへの恐れは、並々ならないもののように感じる。なぜならネットでさがすと、「おかっぱ頭になった」「外国人の美容師たちは日本人の髪になれていない」「パーマが効きすぎて失敗した」などなどおそるべき失敗談が連なっているからだ。

そんな失敗談にびびらされたことと、生来からの怠け癖のためか気づけばロングヘアなのにもかかわらず、髪を8ヶ月近くも切っておらず頭が無法地帯になり始めていた。そろそろ本気で髪を切らねばという思いで、重い腰を上げこの「海外でヘアカット」という試練に立ち向かうことになった。

といってもやはり失敗はしたくないので入念に調べて見るものの、ドバイのヘアサロンの情報は日本のホットペッパービューティーのように数多くあるわけではない。しかもカットの相場は、おおよそ7000円〜とこれまたドバイ価格である。一方で、なんとカット代300円という日本の1000円カットもびっくりな猛者サロンも存在したが、さすがにこれを試す勇気はまだない。

ちなみにこれは安さだけでなく、おそらくこうしたサロンを利用しているであろうフィリピーノたちが一様にバブル時代のようなパッツンロングカットヘアーをしているので、仮にこうしたサロンにいくとフィリピーノヘアスタイルになるのでは、という恐れがあったからだ。

フィリピーノスタイルも悪くはないが、ドバイに住んでいるフィリピーノの60%ぐらいがこのヘアスタイルなため、その仲間に加わるのはゴメンだと思ったからである。

一応ドバイにも日本美容師がやっているなでしこサロンというものもあり、こちらを選べばなんてことなく無難に済む話である。が、ちとお値段は高めである。そして無難に失敗なくいっても何のネタにもならないので、今回は見送ることにした。そう、失敗するかしないかこのギリギリの綱渡りをするのが楽しいわけである。

そうこうしているうちに、髪はさらに容赦なく好き放題に生え続けついに「髪を切りたい」という欲望が頂点に達したため、もうどこでもいいから実験台になっていってやれ!という自暴自棄になり、家の近くにあったビューティーサロンに駆け込んだ。

といっても、決して安いところではなくドバイでもそこそこの値段である。まずはそこそこの値段のクオリティを見てから、安いサロンに通うか判断したかったのである。ちなみにドバイはヘアサロン単体というよりかは、ペディキュア、ネイルといったビューティーサービス全般を扱うサロンに、ヘアサロンがメニューとして組み込まれているのが一般的である。

駆け込んだはいいが、「当店自慢のスタイリストですよ」といって紹介されて出てきたのが、ヒジャーブをかぶった女性スタイリストである。

ぎょへ!?

これには面を食らった。いわゆる我々がイメージする外国人ならまだしも、文化的にもっとも遠そうなイスラームの女性が現れたのである。ヘアスタイリストの名刺とも言える、外見やヘアスタイルがヒジャーブに覆われて全くわからない。わからないからこそ、この人のセンスに委ねて大丈夫なのかという不安が増す。

まあ駆け込んでしまったからには、後戻りできないのでとりあえず不安を抱えながらカットに入ることに。何事もとにかく全力で自分の意思を伝えきる、相手が汲み取ってくれることを期待してはならないということをこの数ヶ月で学んだので、全力でこういう風にしてほしいという要望をことこまかに熱烈アピール。

盲点だったのは、このスタイリストがモロッコ出身であまり英語が達者でないため、いくら英語で説明してもイマイチ伝わりきっていないということだった。せっかく「段を入れてください」「長さは変えずにすくだけで」といった英語表現をあらかじめ予習してきたのに、これでは意味がない。

そこで戦法を変えてヘアスタイル雑誌に載っている、スタイルで伝えることはできないかと思い、「ヘアスタイル雑誌はありますか?」ときいてみる。すると、「う〜ん。ヘアスタイル雑誌はないわね。あるのはこれぐらい」といって出してきたのが、パーティーやウェディングなどハレの日のヘアスタイル雑誌だった。

ヘアスタイル雑誌がないとは、ヘアサロンにあるまじき!

というわけで八方ふさがりになったため、仕方がなくカットをじっと眺めておかしいと思った時点でイエローカードを出すという手段に出た。といっても一応「ああ、こんな感じね。了解〜」といってくれたのだが、その了解がこちらの意図するものかどうかは疑わしい。

そんなこんなでカットがいよいよ始まる。のっけからスタイリストの風貌に驚いたが、カット方法もびびるものがあった。

なんだこのカット法は!?

今まで見たことがないような奇想天外なカット方法である。え?こんなカット方法があるの?とど素人でもその違いがわかるほどである。例えるならばシザーマンに髪を切られている感じである。

頼んでもいないのに、「こういうハサミを使っているのよ」といって見せられたハサミも日本の美容院で見てきたものとまったく違う。まるで、100均に売っているようなざん切りカットのためのちゃちいハサミなのである。プロ用のハサミのような重厚感はまったくない。

これをみて、ビビらないものはいないだろう。事実、これらをみて私の不安はますます大きくなった。もうどうにでもなれ!髪ならいくらでも生えてくるわい!と自暴自棄になる私をよそに、スタイリストはマイペースに私の髪を切っていく。

終始ハラハラドキドキのカットであったが、いざ終わってみると・・・

え!?なにこれ!?こんな自分みたことない。

という新しい自分に出会ってしまった。それもいい意味で。うまくいかないだろうということしか予想していなかったので、意外にもおしゃれで洗練された、日本ではないようなスタイルになったため拍子抜けしてしまった。

わいの不安返せやー!と怒るはずもなく、意外すぎるおされな髪型に大満足している自分がいた。期待値が低いほど成功した時の嬉しさは半端ない。まさにそんな瞬間だった。

海外でヘアカットという試練をまた一つ乗り越えることができた。これからはもっと頻繁にヘアサロンに通おうと思う。というわけで、必ずしも海外でのヘアカットは失敗するとは限らないのであしからず。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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