ユダヤ教に改宗した日本人と会った!

彼女はユダヤ教名を持つ日本人女性で、エルサレムブックフェスティバルで、偶然会ったのである。こんなエルサレムで日本人に会うというのは非常に珍しいことなので、さっそく電話番号を交換し、数日後彼女の家に呼ばれることになった。

彼女が住むハル・ハマは私が住むタルピヨットからバスで10分のところにある。バスは新興住宅街らしきところに入っていく、さすが新興住宅街ということで建物は皆新しくしかも高級そうである。

家の近くのバス停で降り、彼女の家に向かう。家のドアベルを鳴らして出てきたのは、彼女の旦那さんだ。彼はグアムで生まれたというかなりの日本好きな旦那さんだ。

そして、恥ずかしそうに次々と出てきた4人の女の子達。随分子だくさんで、さすがユダヤ教徒に改宗しただけある。

彼女はかなり規律を守っているらしく、敬虔なユダヤ教徒の女性が結婚後には髪の毛をスカーフで覆うように、彼女も帽子で髪の毛を隠していた。それは緑色の帽子で彼女の髪をすっぽりと覆っていて、よく似合っていた。

1つ付け加えると、ユダヤ人同士の結婚がイスラエル国内では正式に認められることがないので、結婚を機にユダヤ人ではない方が、ユダヤ教に改宗するという話はよくある。しかし改宗後、戒律を守るか守らないかは本人次第なので、改宗しても守らないひとは多いと聞く。しかし彼女は、

「私はちょっと特殊な例で、改宗してから結婚したのよ。もともとはイスラエルで宗教学の勉強を学生の時にしていたんだけど、大学でのユダヤ教の授業は論理ばかりで、私はもっと実践的なことがやりたかったの」

もともと改宗するつもりはなかったという彼女であったが、都内で休みもなく働き続けていた後、本当にこれでいいのだろうかと考えるようになり次第にユダヤ教の考え方にひかれていったという。

「それに安息日だった家族と一緒にゆっくりと過ごして、来週に備えるのよ」

確かに言われてみれば、働きすぎともまで言われる日本人と週が1度ある“労働をしない”安息日を求める理由も分からなくない。

もう1つ、彼女が厳格にユダヤ教を守っていることを示唆するものがあった。それはキッチンだ。肉類と乳製品を一緒に食べてはいけないという食事規定により、台所も肉用と乳製品用と分ける家庭もある。始めは、台所が二つある!と驚いてしまったが、まさに彼女の家は、その一例だ。

「お金持ちの人だったら、冷蔵庫まで分けるんだけど、うちはあいにくそんな余裕がなくて」

ユダヤ教への気持ちの入れようはどうやら本気らしいと彼女のユダヤ教実践度合いを見てそう思った。

「ちなみに改宗して大変だったことってありますか」

という質問には、

「やっぱり食べ物よね。だって旅行とか行けないんだもん」

どういうことかと聞くと、やはり敬虔なユダヤ教徒として厳しい食事規定(コーシェル)を守っている以上口にするものはすべて、その規定に沿って作られた食べ物でなければいけない。そうしたコーシェルフードをイスラエル国外(特にユダヤコミュニティ地区がない場所)では手に入らない。ではどうするのかと聞くと、

「ジッパーとかにいれてね全部食べ物は持っていくのよ。まあそれがなくなったら大変なんだけど」

食も旅行の楽しみの一部と考える私にとっては衝撃の事実だった。

「何―!?異国に行ってその国の食べ物を食べてみることができないなんて!!」

もちろん口にはださない。心の声である。それを聞いただけでユダヤ教改宗への魅力が失せてしまったのは事実だ。しかしよく考えてみればそれは人それぞれにとっての選択なのだ。

私にとっては規定を気にせず豊富な種類の料理を楽しむことの方が重要だが、彼女にとっては戒律を守ることの方が食への享楽より重要なことなのである。

そして久しぶりのちらし寿司と味噌汁という日本食を頂く。娘さんたちは、なんとヘブライ語、英語、日本語の3か国語をペラペラと話すトリリンガルであった。その流暢さにも驚きつつ、日本人の母とアメリカ系ユダヤ人の父を持ち、イスラエルに住んでいるのであるから当たり前なのではあるが、日本語と英語がやっとという私にとってはとてもうらやましかった。

イスラエル在住歴13年という彼女は一体どのような仕事をしているのかと気になって聞いてみると、主に日本団体観光客向けのガイドや時には旦那さんとワイナリーガイドを現地の人にしているということだった。ワイン通ということで、おいしいワインもごちそうになり、帰りまで送っていただくことになった。

ワインの酔いの余韻もありほろ酔いで家に帰宅。あー楽しかったと頭の中で今日のことを振り返りつつ、部屋に戻りふと目にしたのが壁に張っているイスラエル国内の地図だ。なんとなく今日行ったハル・ハマというのはどこだったんだろうと目で探すと、あった。しかしよく見ると、それはイスラエルが違法に所有している土地であるということを示していた。また違法な土地に作られた住居地は入植地と呼ばれている。

「!!!」

一瞬訳がわからなくなった。

この土地に住んでいるということは彼女たちは違法な土地にすむ入植者なのか!?あんなにご飯も頂いたいい人たちなのに、違法な土地に住んでいるのだろうか!?こうしたことが一気に頭をかけめぐり頭が混乱状態になった。

本人たちは知っているのだろうか。あの土地が実はイスラエルが違法に占領している土地だということを。そこに住んでいる人は“入植者”と呼ばれているということを。もちろんこうした事実を知っていても解釈次第ではいくらでも正当化できる。

ただこればかりは、いくら普段図々しくいろんなことを聞いてしまう私であってもさすがに

「違法な土地に住んでいる入植者ですか」

と聞くわけにはいかず、この話題には触れることができなかった。とりあえず日本を出ればいろんな考えを持った日本人がいるということだ。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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