日本の存在感は低下している?幻想のジャパン・クオリティ【その1】

極東の島国育ちの私は、熱心な「クールジャパン」信者だった。

テレビ番組で放映される、外国人たちが日本の文化や技術に驚嘆するさまを見て、「日本は欧米人もびっくりするほどクールですごい国なのだ」と、まんまとメディアの策略にはまっていた。


ジャパン・クオリティでモノが売れるという幻想

自国礼賛は何も日本に限ったことではないが、島国ではとにかく「日本礼賛」の声が大きい。「日本の商品はクオリティがすごいのだ。これぞザ・ジャパンクオリティ。そして海外の連中はそれをありがたって買うのだ」と吹き込まれ、ジャパン・クオリティ信者としてそれを純粋に信じていた。

しかし一抹の疑いはあった。2016年に大手電機メーカーのシャープが台湾の鴻海グループに買収されるという衝撃。2012年にはテレビ販売の不振もありシャープは過去最大の赤字を出した。その際の会見で、当時の社長はテレビの売り上げについて聞かれ、「日本は高い品質の商品を作るのはうまいが、世界で展開して売るのが下手だ」と答えていたのを覚えている。

あれから6年たった今、私はドバイに住んでいる。今私が見ている世界は、あの時私が抱いた疑いがまさしく現実となったものである。

そう、日本の存在感が薄れている。

誰もジャパン・クオリティをありがたがっていないし、「日本の商品は品質が優れているからねえ。ぜひ買いたいよ」なんてもはや幻聴レベルである。

ドバイの中心地にある世界最大規模のモール、「ドバイモール」には、日本の紀伊国屋やヨックモック、ソニーの店舗が入っている。そこだけをフューチャーすれば、「まだまだ日本もがんばっているじゃないか」と思うかもしれない。

しかし、「ジャパン・クオリティ」が席巻するはずの舞台、家電量販店では日本商品は息を潜めているのが実態だ。テレビやスマホはサムスンやLGといった韓国企業の存在感が大きく、日本メーカーの商品はひっそりと陳列されている。


ドバイのモールにある家電量販店にて。日本メーカーのテレビは展示されているテレビの3割ほどだった

もはや日本はドバイでモノを売る気がないのかもしれない。

そのことにひどく気付かされたのは、たまたま見かけた中国、韓国、日本企業による動画広告。まずはじっと日中韓企業のCMを見ていただきたい。実際にドバイでYouTube広告として流れていたCMである。

パナソニック(日本)

小林製薬(日本):「アンメルツヨコヨコ」の発音にご注目

サムスン(韓国)

ファーウェイ(中国)

補足するとすべて2017年に見たCMである。さて、お気づきであろうか。

日本のCMがどちらも「ジャパン」の商品ですと明言しているのだ。パナソニックのCMに至っては、CM終わりの映像には「ジャパンクオリティ」と言ったマークをこれ見よがしに見せている。まるで水戸黄門の印籠のように。

これほどこっぱずかしいものはない。この瞬間だけ、私は日本人というアイデンティティを根こそぎはぎとりたい衝動にかられた。

日本の商品というだけで売れると思う慢心。それに甘んじて消費者のニーズをうまく掴み取れず、結果としてサムスンやファーウェイよりも断然ダサいCMに仕上がってしまっている。と個人的には見ている。

仮にも広告代理店で仕事をしてきた身ではあるが、CMの方向性には疑問を抱かずにはいられない。

上記で見た2つの日本企業CMは、商品の機能の良さを前面に押し出しているが、これはあくまで教養の高い、賢い消費者にしか届かない。日本の洗剤CMでは、抗菌だの臭いが発生する原因だのといったことまで述べるぐらいだから、日本には商品機能まで考えて購入する消費者が多いのだろう。

しかし、ドバイの多くの消費者はまだそのレベルには達していない。何より世界中から人間が集まる都市だ。誰もが分かるメッセージや見せ方をしなくてはならない。だから、ドバイで放映されるCMのメッセージはいつもシンプルだ。

時代は変わった。中国、韓国が先を行く時代

とりわけサムスンは、この現地のニーズを掴み取ろうという意思が非常に強い。それをまざまざと思い知らされたのが以下の屋外広告である。


こちらもサムスンの広告。一枚の写真に収まりきらないほど広告が巨大なため2枚掲載

何がすごいって、これほどドバイの多様性を的確に捉えた広告がかつてあっただろうか。大概の広告は欧米人かアラブ人がモデルだ。

しかし、サムスンはフィリピン人やインド人といったドバイの人口を多く占めるが、決してドバイの従来の広告では登場しなかった人々までフィーチャーしているのである。

もはやドバイの全消費者を取り込もうというのがサムスンの意図なのかもしれない。その野心と実行力にただただ私は感服した。

広告が掲載されている場所はドバイの主要幹線道路、シェイク・ザイード・ロードである。そしてその中でも特に広告面がでかい(つまりは広告費がかかる)場所を常に抑えているのである。

私が2015年にドバイにやってきてから、この場所にサムスン以外の広告を見たことがない(しかし2017年の年末からその記録は途絶えた)。

この事実からも、サムスンは途方もない広告費をこのドバイという市場にかけているのが分かる。

その上、サムスンは頻繁にVRなどのイベントを各地で開催している。アジアの新技術を引っ張っていくのはサムスンだと言わんばかりだ。


ドバイモールで開かれていたサムスンの新テクノロジーを体感するイベント

決してサムスンをひいきにしているわけではなく、たまたま行くところによく出没するのがサムスンなのだ。

ドバイモールの一角でも新たな動きが見られた。2017年上半期あたりまでは、フィンランドのノキア社が占拠していたが、今ではファーウェイの店舗に置き換わっている。


ドバイモールのファーウェイ。ビザ規制緩和により増加する中国人観光客を捉えるのが目的か

これだけ韓国や中国企業の存在感が濃くなっているのだ。人の流れも違う。日本企業のドバイ支社といえば、話しで聞く限りせいぜい2~3人(多くて10人程度)の日本人と、現地の従業員としてインド人ないしはアラブ人というのが、典型的な例だ。

外資企業のドバイ支社ってそんなものなのかな・・・と思いきやそうでもないらしい。私が働いている会社のビルには韓国企業のLG社のオフィスが入っている。そして近くのビルには中国のファーウェイ社もオフィスを構えている。それゆえに道端やビルで見かける中国人や韓国人の量が半端ないのである。

はじめは同じ人を何度も見かけているだけなのか?と思いきや、そうではない。とにかく大勢の中国、韓国人が働いているのが事実なのだ。それに、日本企業の駐在といえば、30~40代の男性が中心なイメージがあるが、LG社に限ってはもうまるごと韓国のオフィスがあるというレベルなのだ。

つまり、汐留あたりのオフィスにいそうな爽やかな20代の女性社員から韓流スター並にイケメンな男性社員、そして日本にもよくいる40~50代のおじさんととにかく多様な韓国人が働いている。あまりにも多くの韓国人を見かけるので、ドバイで働いているというより、韓国で働いている気分になる。

はじめの頃は、エレベータ内で韓国人に囲まれ飛び交う韓国語に、「うお、韓流ドラマで見た韓国語をしゃべってる!本物だ!」というどうでもよい感動を覚えていた。

しかし、そんなことに感動している暇はないのだ。本当に向き合わなければいけないのは、こういうことである。

駐在員が悪いのではない。むしろそうしたシステムに依存し、海外でビジネスを長期展開できるのかという点に疑問を持つべきだ。

我々は、現実を受け入れなければならない。

時代は変わったのだ。

日本の技術や、日本のモノづくりが輝いていた時代が、かつてはあったのかもしれない。けれども、今私が日本の外で見ている現実は、小さい頃から吹き込まれてきた言葉とは違った。

ジャパン・クオリティは絶対的ではない。そしてその幻想はすでに崩壊している。

もう一度謙虚にならなければならない。ジャパン・クオリティに甘んじて生じた遅れをどう取り戻すか。そうしたことが今日本人に問われているのではないか。