ドバイで罰金を科せられた・・・

ドバイ居住者を脅かす身近な恐怖・・・それが「罰金」である。「罰金」を払うようになれば、もはやドバイ居住者としては一人前と言えるかもしれない。それほどまでに、罰金の恐怖は生活についてまわるのだ。

車内で居眠りも罰金の対象

とくに車にまつわる罰金話は多く、駐車違反で罰金、スピード違反で罰金といった話は日常茶飯事だ。ドバイの生活においては便利な車ともいえども、罰金を取られるのではないかという恐怖で、私はいまだ車を持てずにいる。

ドバイがどれだけ罰金好きか・・・メトロやトラムに関する罰金制度の一部をご紹介しよう。

<ドバイの罰金 お品書き>

約3,000円コース
電車の席に足を乗せる(特に向かい合った席で)
電車内での飲食(チューイングガムも対象になる)

約6,000円コース
車内にアルコール類を持ち込む
車内での営利行為、喫煙
女性車両に男性が入り込んだ場合(よく紛れ込んでいる人はいるが、ご法度になったケースは見たことがない)
信号のない道路を横断

約9,000円コース
車内での居眠り

約6万円コース
緊急時やセキュリティのための備品(非常時停止ボタンなど)を無断で使用した場合

日本ならばスルーされることも、ここドバイでは許されない。なにせ世界中の人間が住み着き、観光にやってくるわけだ。町の秩序を保つためには、それなりのルールが必要らしい。つい40年ほど前までは砂漠で、「無」であった都市の所業とは信じがたい。

うっかりミスで高額罰金を科せられる

普通に生活していれば問題ないかと思いきや・・・ついに罰金の魔の手は私を捕らえたのである。トラムに乗るにはパスモのような電子カード、「ノルカード」をピッとやる必要がある。それを乗車、下車した駅で行い、それぞれを「チェックイン」、「チェックアウト」と呼ぶ。

電車のような改札があるわけではないので、無銭乗車をすることも可能だ。しかし、車内にそうした無銭で乗っている乗客がいないか逐一チェックする職員が乗っていることもある。

たまたま、「チェックイン」を忘れていたらしい。そんな日に限って、いつもは見回りなんぞしない時間帯に職員が一人一人のカードをチェックしていく。

「あれ、お客さんチェックインしました?」
「したはずだと思いますけど」

私は職員の目が光ったのを今でもはっきりと覚えている。その瞬間、大晦日に流れるガキの使い「絶対に笑ってはいけない」という番組の、「デデーーン、松本アウト!」の声が私の頭上に響いたような気がした。

「毎日ちゃんとチェックインしてるんですよ!お金だってカードにたんまりとチャージしてあるでしょ。本当にたまたま忘れちゃっただけなんです!」という言い訳も虚しく、違反切符なる紙切れを渡される。

罪状は「チェックインをしていなかった」であり、宣告された罰金額は約6,000円。

「もし文句があるんなら、会社に申し立てをメールで送ってくださいね。免除になるかは分かりませんけど。とりあえずあなたの権利をお伝えしたまでです」

即刻で、紙切れを破りたい気分になったが堪えた。ここで逆らえば、さらなる悲劇が待ち構えている。ドバイの犬と化した私はすでにそのことをよく知っていた。

「おめでとう!おまえもこれで立派なドバイ市民じゃないか」

紙切れをひらひらさせながら、こうべを垂れる私を見て嬉々とする友人。くっ。

以前一度だけ罰金を科せられたが、あの時は「日本パスポート」という印籠のおかげか罰金を逃れることができた。それ以外、一度も罰金を徴収されることなく記録を更新していたというのに、ここまでか・・・それに、うっかりの過ちに対して、約6,000円も払うという事実が悔しくてたまらなかった。

罰金を取り消すことはできるのか?

こうなったら、あの「申し立て」とやらにかけてみるしかない。「俺の友人はこれで罰金を免れた!」という都市伝説のような手法を用いて、作成したのが以下の文面。

拝啓

私は先日、罰金の通告を受けた者です。罪状は、トラム利用時にチェックインを忘れたことです。

しかしながら、私は御社の交通機関を過去3年間に渡り利用してきました。その間、片時たりともチェックイン、チェックアウトを怠ることなく、真面目な乗客であり続けたのです!今回の反省を心に、同じような過ちは2度と繰り返しません。

それに私はドバイという都市に住めて、自分がどれだけ幸せ者かというのを常々実感します。ムハンマド市長(ドバイ市長)も、ドバイを世界で一番幸せな都市にすると宣言されていますものね。

そんな「世界一の幸福都市」において、今回の罰金宣告が正しいものなのか。その判断を今一度していただきたく存じます。

敬具

もちろん本文は英語であるが、内容にすると上記のような感じである。ポイントは、「ムハンマド市長」、「幸福な都市」という点である。若干ドバイの弱みに付け込んでいるようにも読めなくないが、まあやれるだけのことはやった。

会社に申し立てメールを送ると、早速電話がかかってくる。

「おたくの申し立てメールを読ませてもらいましたが、この内容で会社に不服を申し立てるということでよろしいでしょうか。この電話の後に、申請番号を送るので確認してください」

なんか面倒くさそうなことになったな・・・その後もマルチ商法の勧誘セールスのごとくひっきりなしに電話がかかってくる。6,000円を取り戻すためにこんな思いをするんだったら・・・・

「もう分かりましたよ!払います!申し立てなんかどうでもいいです!」

あっさり白旗を上げて罰金を払うことにした。これも会社の作戦なのかもしれない。面倒だと思わせておいて、支払いに追い込むという高度な心理作戦。

しかし、罰金は特定の駅の窓口(東急東横線でいえば渋谷と武蔵小杉)でしか受け付けていないらしく、自由が丘駅と新丸子駅だけを行き来する私にとってはかすりもしないため、「明日払いに行こう」と思いながら時が流れていった。

ある朝目覚めると、その会社からメールが来ていた。ちっ。催促メールか。明日払おうとちょうど思ってたんですよ・・・しかしよく見てみると、

「あなたの申し立てに基づき、調査した結果、罰金を科したことは誤りだと判明したため、システムから罰金の記録を消去させていただきます」

勝利。

もはや明らかな勝因は分からないが、とにかくこれにて再び罰金を逃れることができたのである。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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