ビーチで海水浴、パーティー、クラブ・・・ここは本当に今のシリアなのか?

シリアは遠い国だ。物理的にも精神的にも。シリアでの内戦が長年に渡ってメディアが報じたり、Googleがシリア難民についてもっと検索しようという特設サイトを作ったとしても、普通の人間がシリアについて考える時間は年間で15分たりともないんじゃないか。内戦、遠い国での出来事、という時点でもはや思考はシャットアウトし、それ以上シリアの外で暮らす人々の日常に入り込む余地はない。

昨日までは遠い国シリア。そんな国がある日より身近な隣国になった。隣国というのは物理的ではなく、精神的にという意味でだけれども。シリアを身近にしたのが、隣で働くシリア出身の部下、ヒシャームである。


シリア出身とはいえ、シリア人ではない。本人のルーツはパレスチナにあるので、あくまでシリア生まれのパレスチナ難民である。難民というカテゴリではあるが、難民感ゼロで最近は女にうつつを抜かすどこにでもいる青年である。

このおしゃべり大好き青年のおかげで、聞いてもいないのになぜかラジオのごとく勝手にシリアやイスラームに関する情報が耳に入ってくるのである。シリアのパスポートは、シリアの歴史的名所が描かれており意外と粋なパスポートであることや、内戦のため男たちがみな戦場にいってしまい男が不足しているという話は日本の戦時中を彷彿させる。


シリアパスポートに描かれている歴史的建造物

またある日には、シリアに住んでいる叔母が作ってくれたというシリア直送のお菓子をいただき、Whatsapp(LINEのようなメッセンジャーアプリ)にて、シリアにいるおばさんにアラビア語、日本語でお礼のボイスメッセージを送るなど何気にシリアとの交流をはかれた気になっている。

ちなみに日本語がわからないシリアおばさんになぜ日本語でメッセージを送ったかというと、日本人が自分のクッキーを食べたと知ったらおばさんは喜ぶぞ!というヒシャームの計らいゆえである。


通称シリアおばさんのクッキー。おいしくいただきました

シリア内戦の激化とISの台頭によりシリア国内からドバイへやってきたというヒシャームだが、彼が以前住んでいたのは、ラタキヤと呼ばれる地中海に面するシリアの西部の町だ。ダマスカス、アレッポ、ホムスに続くシリアの第4の都市である。

そんなラタキヤに関して、アメリカのCNNが驚くべき光景を紹介していた。

なんと、ここはシリアなのか?しかも内戦前ではなく現代の?にわかには信じられずに、何度も確認したのだが、記事が公開された2017年8月時点でのシリアのラタキヤの光景である。まるでドバイの観光ビーチの光景と見間違えるほど、ビーチには人が溢れており開放的だ。

外見はパリピだが、「シリアでの生活は楽じゃないぜ。だからこそこうした息抜きが大事なんだ」と真面目に語る地元の客。

CNNが伝えるところによると、地元のシリア人以外にレバノンから国境を超えてやってきたレバノン観光客、休暇を楽しむためヨーロッパに住むレバノン人たちがその安さゆえにシリアのラタキヤビーチを訪れているという。

そして極めつけは、クラブである。ラタキヤ出身で以前ドバイに住んでいたというオーナーが新しくオープンさせたのが、この「360°クラブ」。道理でクラブが若干ドバイっぽい感じがするわけである。

ちなみにドバイで360°といえば高級ホテル「ジュメイラビーチホテル」内にある「360°」というバーが有名だ。どことなく雰囲気が似ていると思うのは私だけだろうか?


ドバイの高級バー「360°」。公式サイトより

2日前には対ISのシリアの前線で取材をしていたというCNNの記者フレッドも、「こ、この光景は信じられませんねえ。不思議な気分です」と狐につままれたような面持ちでコメントをしている。


困惑しながらもレポートするCNN記者、フレッド。直接的には言わないが、これは不謹慎ではないか・・・とでも言いたげである。

そんな驚くフレッドを横目にクラブの客たちはウォッカを飲み、シーシャを吸い踊りにあけくれる。


ラタキヤはシリアのパリピの聖地なのか・・・?

国連が発表したところによると、シリア内戦により40万人以上が命を落とし、2016年12月までに500万人が国外へ脱出。そして630万人が国内避難を余儀なくされたという。

シリア全体でのこの数値と、ラタキヤのビーチ、クラブの様子。CNN記者、フレッドが困惑する気持ちもよくわかる。けれども国がそんな状況の中、新しいビジネスを立ち上げ、ビーチで一時期の休息をとる、そんな懸命に生きていこうという人々の一面でもあるのかもしれない。

現在、「シリア」と英語で検索するとほとんどの画像が内戦状態の町の様子である。「シリア内戦」と言わなくても、すでに人々が「シリア」といって意図することは、内戦とイコールなのだろう。

上記の画像とCNNで紹介されたラタキヤの画像。一体どちらが本当のシリアなのか?我々はこうであるもの、そうであるべきという一方的なイメージを押し付けがちだけれども、両方ともシリアなのだ。人間が多面的であるように、国も多面的である。そうしたことを裏付けるのがラタキヤのビーチでありクラブなのだ。

最後にGoogleとUNHCRが共同で作成したシリアについてのサイトも一見の価値あり。内戦以前のシリアの様子やシリア内戦の被害などがわかりやすく映像とともにまとめられている。