イスラム教では原則、結婚していない男女の婚前交渉は許されていない。
実際にドバイでも2017年に結婚をしていない日本人男女が、公共の場で婚前交渉にあたる行為を行ったとして有罪判決を受けた。
日本人の感覚からすると驚きである。しかしそれほどまでにイスラム教では婚前交渉はシリアスなテーマなのである。
しかしそこで疑問が。
じゃあ未婚のイスラム教徒はみな性体験がないのか?という話である。
日本であれば性体験をするのが早いほどよい、といった変な空気がある。早すぎてもよくないが遅すぎても心配されるみたいだが。
「俺は昨日全然寝てないんだぜ!」という、寝ていないやつほどえらいという根拠のないえらさである。
逆に30代近くにもなってまだ性体験がないとちょっとイロモノ扱いを受けたりする。
別に焦ったり後ろめたく感じる必要はどこにもないのだが、どこか性体験がないのはどこか出遅れている感がある、そうした認識を持っている人が多いのではないか。
未婚のイスラム教徒は本当に性体験がないのか?
そんな感覚からすると、婚前交渉が許されないイスラム教徒で未婚の人はみな性体験がないヴァージンなのか。
この説を確かめてたくてうずうずしていたものの、基本イスラム教徒は酒を飲まないので酒の場で聞き出すわけにもいかないし、テーマがテーマだけに「どこ出身なの?」という気軽なレベルで聞ける質問ではない。
つまり、こいつはいける・・・という人をかなり厳選した上で素面で聞く、それしか確かめる方法はないのだ。
あまりにも気になりすぎていたためか、どうやら神が使者をよこしてくれたらしい。
それが個人情報流出マシーンというぐらいなんでもおおっぴらに話すアラブ人、ヒシャームである。
出会って1ヶ月で、聞いてもいないのにすでにやつの給料、毎月のローンの支払い状況、家族構成、ファミリーヒストリー、好きな女のタイプ、気になる彼女の月収、デートの予算など彼にまつわる情報を私は網羅している。
これが彼が個人情報流出マシーンと呼ばれる所以である。
こいつなら聞ける!
そう確信した私は、密かにその時期を伺っていた。
いくら個人情報流出マシーンとはいえ、やはりそのテーマをいきなり振るのは恥ずかしいので、やつがそのテーマを自ら持つ出す機会を伺っていたのである。そしてついに時は来たれり。
好きな女とのデートの話になった時それは突如としてやってきた。
そこですかさず野次馬レポーターのごとく、どさくさに紛れて確信的な質問をする。「ところで個人情報流出マシーンさん!まだ結婚されていないとのことですが、性体験の方はまだお済みじゃないんですよね?」。
「ああ、もちろんだとも俺は未だにヴァージンさ!」
といさぎよく回答。
ひえっ!?
その潔さに逆にこちらがびびってしまった。
逆に恥ずかしいテーマだと思っていたのは私だけなのか?まるで「愛知出身だけど?」という単なる事実を述べているかのようだ。
性体験のあるなしは別に恥ずかしがるテーマでもなく、「昨日何したの?」という感覚ぐらいライトなテーマだったのか?
イスラム教徒にとってモテることは意味がない!?
動揺する私を横目にヒシャームの個人情報流出はまたもやとまらない。
「俺は酒は飲まないが、バーとかクラブにいくとこれが結構モテるんだ。ある日なんかは、強引にイラン人の女の人に家に連れ込まれちゃってさあ」
確かにやつはアラブ人というほど顔が濃いわけでもなく、アラブ人とヨーロッパ人の中間といった具合でそこそこイケメンである。
愛想もいいので女にはモテて当然だろう。しかし当人はモテるからといってそれを濫用してやろうという邪悪さはまったくもってない。
モテ顏に生まれたのにいまいちその良さを最大限活用していない。そして24歳で未だ童貞である。まったくもってモテ顔の持ち腐れである。
話の結論としては、「ベッドに連れ込まれたが、俺は一線を超えなかった」ということなのだが、説明が下手なのか、羞恥心というものに無頓着なのか、女の家に入った瞬間からベッドに連れ込まれた時の様子についてことこまかにこの男は描写するのである。
いちいちベッドの上で体位がどうなったの・・・だなんて説明しなくても。まあ結果的に何事もなかったのでそんなことがのんきに語れるのかもしれない。
同様の質問をこれまた、27歳のイスラーム女子にさりげなく聞いたところ返ってきた答えは同じだった。
こちらもかなりの美貌の持ち主ではあるが・・・
どうやら彼らにとっては性体験がないということとは、日本人とはまったく別の文脈でとらえられているようだ。
日本の文脈には存在する恥ずかしさや遅れている感を感じることは微塵もない。
むしろそういう経験をしたいならば結婚だ!ということで、ヴァージンを捨てる=結婚をするというのが彼らの文化の図式らしい。
しかもアラブ諸国によっては、日本よりも平均初婚年齢がずいぶん低い国もある。
下記はアメリカのPRB(アメリカの人口統計局)が作成したアラブ諸国での結婚事情に関するレポートより作成。国によっては7割以上が24歳以下で結婚をしていることがわかる。
ヴァージンを捨てる年齢はやや遅いのかもしれないが、初婚平均年齢30歳の日本人よりも結婚するのは早いのだ。
それでも年頃の男子だし、時には本能的に誘惑に負けることもあるのでは?と思い追加質問をすると、意外な答えが返ってきた。
特にアラブ人社会は親戚、知人、友人同士が知り合いというケースが多いため、婚前交渉をしてしまったらすぐにそれが周りの人間に知れ渡る。
そうした人間はコミュニティから白い目で見られる。つまりはみだりに性交渉をしている人間というのは、人間として尊厳が低い人間として見られるということらしい。
婚前交渉は程度の低い人間が行う行為、コミュニティからの疎外、そんな価値観が彼らをみだりに異性交遊へ向かわせるのをとどめているのだ。
確かに彼らの言い分も筋が通っている。結婚していない男女が寝ることで時にはさまざまな問題が起こるし、ネット掲示板を見てもこの類の質問は多く、多くの人が悩む点でもあるらしい。
けれども結婚してから・・・というのは非常にシンプルだし、婚前交渉が禁じられていない人間がそれゆえに抱える問題とは無縁なようだ。
一方的な価値観を押し付けずに別の視点で物事をみること、それをこの婚前交渉問題を通じて改めて痛感したように思う。
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普通の日本人がムスリム女性と暮らしてみたらどうなる?「次にくるマンガ大賞」や「このマンガがすごい!」などでも取り上げられた話題のフィクション漫画「サトコとナダ」。