ハードルたけえ・・・海外での退職日の過ごし方

ついにやってきた。長らく待ち望んだようであっという間だった退職日までの時間。退職間際になって仲良くなる同僚も出てきたので、やっぱりこのままいた方がよいかと思う時もあったけども、すぐさま日常の業務に忙殺されてその考えを取り消した。

本来であればルンルンなはずの退職日であるが、内向的リーマンにとってはハードルの高い儀式が退職日には待っているのである。


モノよりハグ

これまで何人もの同僚たちの退職日を観察していたが、日本のそれとは違うことで、いざ自分がそれをやるとなるとやや緊張していた。日本で見られる退職日の風景というと、退職者が菓子折りなんぞをもって各席を周り挨拶するのがお決まりとなっている。しかし、こちらはそんな甘いものでは済まされない。

お菓子というモノを使えば、「今日が最終日なんです」といって話が切りだしやすい。けれども、モノに頼らず、働いている同僚の懐さっとに入り、スモールトークを始める。そして最後はハグでしめる。相手が男であれ女であれ。ハグは別れにもつきものなのだ。人数は任意だが、人によってはオフィスで働いている全員にするケースもある。

しかし通常のトークでさえ苦手なのに、自らスモールトークを切りだし3分程度話し込み、ハグでフィニッシュ×すべての同僚(80人程度)なんぞ内向的リーマンにとってはできれば避けたい儀式である。

そんなわけだから、親しく働いた5人という結果に終わった。80人と連続でハグをするなど、フリーハグ並みに心をオープンにし、他者を迎え入れればならない。いまだ、ハグという他者との触れ合いがどこか照れくさく恥ずかしいリーマンにとってはこれが精一杯なのである。

ちなみにハグをお断りすると、彼らはがっかりする。彼らにとっては、言葉では伝えきれない感情を伝える役割をしているようで、彼らの文化にとっては当たり前のマナーとしてとらえられている部分がある。「いえ、私はハグはしない主義なんで」と言おうものなら、白い目で見られること間違いなしなので、仕方がなしに顔を赤らめながら、心の中で「ぎえー」と言いながらハグするのである。

しかし日本にハグがあれば、異性の手が触れるだけでドキン!とかボディタッチごときで「俺のこと好き?」なんて思う人間がいなくなるのではないかと思う。それほどまでに、我々日本人にとって、他人(特に異性)と体が接触する行為はファンシーな意味を持っているのである。

一方でハグが日本にあった場合、こうした退職日におっさんリーマンともハグをしなければならないから、それはそれで日本にハグ文化などなくてよかったと思う次第である。

リーマンを悩ませる退職あいさつメール

日本でも退職メールというものはあるが、日本のリーマンは英語での退職メールに頭を悩ませていた。伝える内容は同じなんだけれども、どうも日本のそれが決まり文句の定型文から構成されているのに対し、英語のメールは個人によってさまざまなのである。中には文章ではなく、YouTubeの動画を組み合わせてメッセージを伝えてくるツワモノもいた。

そして最後には必ず、FacebookやLinkedin、自分の個人メールなどを添えて、今後も機会があればつながっていきましょう、としめくくるのである。つまりはユニークネスとパッションが問われるのが退職メールなのである。

あれこれと考えた結果、過去の退職者のメールをそのまま使おうともしたが、手頃な退職メールがなかったため未遂に終わる。仕方がなく、いかに今まで働いてきたことが学びになったのか、同僚たちよ多大なるサポートをありがとう!という独裁国家の指導者ばりに装飾した言葉で国民という名の同僚たちを過大にねぎらうことに終始した。それぐらいがちょうどいいのである。

中国出身のハルビンくんは、同じ一重のアジア人が去ってしまうことがよほど悲しいのか、「もう、あんたがいなくなっちゃうなんて、あたい悲しいわ」などと言い、最後にコーヒーでも飲んでいきましょといって近くのカフェに誘い出してくる。

ハルビンくんの不可思議な行動に最後までつっこむことはできなかった。ぽっちゃりとしているけども、なぜか肩幅が逆三角形でちょいマッチョ。筋肉と脂肪による不思議なコントラストで形成されているのがハルビンくんである。

「痩せるためにジムに行っているのだ」と言いながらも、カロリーがたかそうなクロワッサンやらデニッシュを自席のデスクで毎朝食べている。痩せたいならまず食べるのをやめればいいのに、と思いながらも最後までその点を指摘することができなかった。

ハルビンくんもしきりに転職を考えているようで、「あたいも転職したいけど、なかなか難しいわ。ねえ、会社をやめる時のプロセスってどんな感じなのかしらん」などとまだ転職先も決まっていないのに、用意周到にやめる時のシミュレーションをしているのである。

そんなこんなで退職日をやり過ごすことができた。実感はまだ薄い。転職先は決まっているものの、これからどうなっていくのか、という不安もある。

仕事から一気に解放された安堵感からなのか、どっと疲れていて仕事から帰ったあとは何をする気も起きなかった。こんこんとただ眠りに落ちるだけだった。