もう絶対行きたくない国、スーダン旅行の悲劇

初めてギブアップしたというよりかはもうゼッタイに来たくないと思う国だった。

レバノンのベイルートからエチオピア航空で、エチオピアの首都アディスアベバの空港で乗り継ぎ、スーダンの首都ハルツームへ入ろうと思っていたのだが、空港についた途端から雲行きは怪しかった。

チェックインカウンターの列に並ぶのは、大量のエチオピア人の労働者たち。同年齢の女の子ばかりだった。通常の旅行荷物ではなく、全家財と呼べるような大量の荷物を持って手続きをしているのでやたらと時間がかかる。

レバノンでよく見かけた家政婦として働いているエチオピア女子が、母国へ帰るのだろう。その様子はまるで中国の旧正月のプチ帰省ラッシュのようでもあった。

エチオピアからスーダンへのフライトは、乗客の半数以上が中国人で、しかも中年の男だらけ、というスーダン行きなのか中国行きなのかよくわからない状況になる。一方でおかしいことも何もないのに、デフォルトで表情が釈迦のような微笑みを浮かべる中国人を見て心が和む。

空港で代筆ボランティア

そして地獄は入国とともに始まる。機内で配られた入国用の紙。ペンがないので横のスーダン人になんとか貸してもらってしのげたとおもいきや、空港内に入るともう一つの難関が。エボラの証明書をかけというのだ。

先ほどのペンを貸してもらったスーダン人はもういない。仕方がないので、近くにいた職員にペンがない貸してもらおうとしたが、そんなもんもってねーよ、と言われる始末。

困り顔で呆然としていると、ペンを持った中国人が目の前に現れた。同じアジア人顏であることをいいことに、「ペンを貸してくれ」というと快く貸してくれたのだが、これが悲劇の始まりだった。

入国カードへの記入が終わり、ペンを貸してくれた主にペンを返そうとしたのだが、そいつが代わりに差し出してきたのは、機内で配られた入国審査の紙だった。ものは言わぬが、「俺の代わりにカードに記入してくれ」と顔は言う。どうやらこの中国人は英語が分からないらしい。

入国カードにはアラビア語と英語しかかかれていない。ペンを貸してくれた借りもあるので、しょうがなしにそいつのパスポートを見ながら、英語で記入していく。これで一件落着と思いきや、待ってましたとばかりに次から次へと中国人たちが、「俺のも書いてくれ!」と押し寄せてきた。

中国人一行は全員英語が分からず、代わりに入国カードを代筆するというボランティアである。

他人にパスポートなどという個人情報を見せて大丈夫なのだろうか、と思ったが中国人の心配はそこではなく、いかにして空港から出るか、という点にあるのだろう。もはや個人情報保護法などおかまいなしに、自ら個人情報を開示してくるのである。

一体何枚の入国カードを書いただろうか。

少なくとも10枚はくだらない。まさか空港で10人以上の人助けをするハメになるとは。

しかしその後の入国審査も遅々として進まず、空港を出るまでに1時間以上も足止めを食らうという事態となった。空港はもはや半分以上が中国人で埋まっており、スーダン人がまるで観光客のようになっている。それにしてもくそあつい。今までに経験したことがない暑さである。

空港に迎えに来るはずの送迎車も来ていない。あまりにも時間がかかりすぎて、あきらめて帰ってしまったのだろうか。とはいえこちらはあきらめるわけには行かないので、ホテルに連絡し迎えに来てもらうよう要請をかける。

20分ほどでやってきたのは、運転手ではなくホテルのオーナーだった。

オーナーは、「いやあ、すまないねえ。運転手が出払っちゃっていて」とすまなそうに言う。後に知ることになったのだが、そのオーナーは日本人女性と結婚していて、かなりの日本通だ。どうりで物腰が柔らかいのは、そのせいか。

日本通のオーナーとひとしきりしゃべり、安堵したかのように思えた。ホテルもそこそこきれいで、日本語の本がロビーにコレクションされている。きっと日本人妻の趣味なのだろう。旅には関係のない、定番の村上春樹小説から聞いたこともない詩人の本などが置かれている。

おまえが食べる場所はねえ!

一息ついたところで、町へ繰り出す。

ホテルは、中心街からやや離れておりアクセスが悪く、タクシーを利用しなければいけない。しょうがないので、タクシーを呼んでみたもののタクシーにはエアコンがない。そこそこの暑さであれば、まだ我慢できるが、いったいこのつんざくような暑さはなんだろう。息苦しい。暑すぎて肌が痛い。

なんとか暑さに耐えながら、適当に走らせついた人がそこそこいる中心街のショッピングモールへ暑さから逃れるため駆け込む。まるで砂漠の中でオアシスを見つけた旅人のように、クーラーが聞いている室内は快適だった。生き返る心地とはまさにこのことだろう。だくだくになって肌にまとわりついていた汗がすっと引いていく。

しかしここでも悪運はついてまわる。お腹が減りすぎていたため、何か口にしようと最上階のフードコートへやってきたのだが、なんと全席満員御礼で食べる場所がないのだ。フードコートが満席になる状態とは一体・・・みな暑さから逃れてこの涼しいフードコートで涼をとっているらしい。

せめてフルーツジュースでも飲むかと思い、ジューススタンドで注文をしようとしたが、店番中のスーダン女子は自分のマニキュア塗りに夢中で、こちらを面倒そうに見やるだけだ。

暑さのせいでそのかったるそうな眼差しに対抗する気力も失われていたので、敵前逃亡をする。フードコートで立ち食いをするのもはばかられたため、しょうがなくフードコートを後にした。

その後も炎に飛び込むような気持ちで、エアコンのない町をえいやっという残り少ない気力だけで見てまわる。しかしあまりにも暑すぎて立っているのが精一杯で、写真を取ろうという気さえ湧かない。だからこのスーダン旅行にも写真がないのである。

あとで知るのだが、4月というのはスーダンでもっとも暑い時期に当たり、その気温はなんと50度近くになる。年間の平均気温ですら30度を越している。世界でもっとも暑い場所の1つだったのだ。

愚かなほど無知であり、アフリカ旅行への事前準備がかけていたかを痛感する。

スーダン到着4時間後に国を脱出することを決める

そうした暑さ故か、3日予定していた滞在だが、速攻でこの国を今すぐに出たい、日本に帰りたい、という気持ちがわき起こった。ハルツームに到着して4時間後である。暑さゆえにひどく気が動転していたらしい。

ホテルに戻り、なんとか涼しい部屋の中でも耳につくほどうるさいエアコンの可動音のせいで、気は動転したままである。まともに思考なんかできない。しかし、うるさいといってエアコンを切ると地獄のような暑さが待っているので、にっちにもさっちにもいかない。騒音をとるか暑さをとるか、である。

こんな状況に耐えきれずして、ハルツームについた当日に急遽帰国をはやめて帰ることにした。一番早いフライトでも翌日の夕方便である。仕方がない。それでも1日でも早く帰れるのだから。愚か者はさらに愚行を繰り返す。

乗り継ぎ便は待ってくれない

なんかいわくつきなスーダンだが、それは出国まで及んだ。2時間前に空港についたのだが、なんとチェックインにならび航空券を発行してもらうまでに2時間以上。すでに出発時刻はすぎているのにもかかわらずまだチェックイン手続き中。

もはや時間がかかっていることよりも、カタールのドーハにて1時間しか乗り継ぎ時間がないフライトに乗り遅れるのではという嫌な予感の方が強かった。そのため、その辺にいたマネージャーに乗り遅れたらどうしてくれるんだ、とかなりキレ気味で食ってかかったが、マネージャーいわく、「システムがダウンしたんだ。しょうがない。それでも働いているんだから」などとぬかしやがる。

手続きが遅れたおわびにファーストクラスにしてやると気を利かせてくれ、カタール航空のファーストクラスと聞いてわくわくしていたが、しょせんここはスーダン。スーダン発のファーストクラスはカタール空港でもエコノミーとビジネスの間のようなものなのだ。

ビジネス、ファーストクラスラウンジでも食料、ジュースは無料なのだが、ソファもきたないしぼろいし、特に食べたいと思うようなものではなかった。残念。

機内に入ってもそれは続き、単に席がでかい、食事がフルコースだったぐらいしかファーストクラスの要素をみたしていなかった。しかもスーダンの法律とかでウェルカムドリンクはジュースのみ。アルコールはなしだった。どこまで苦しめるんだスーダン。古くなったボロ航空機をこうした国にあてがっているようにしか思えない。同じカタール航空なのに・・・

結局ドーハから羽田への乗り継ぎは間に合わず、なんとかバンコク経由でタイ航空の航空券を手配したもらったが・・・これがまた間違いなのであった。ドーハからバンコク空港についたものの、タイ航空もなんと2時間の遅れ。この便だけである。

なにか取り憑かれているに違いない。

スーダン脱出のために12万も片道で払ったのにも関わらず、時間と労力がかかるだけのフライトになるというとんでもない結末を迎えたのである。

すべてはスーダンのせいである。

スーダンにさえいかなければ・・・金と時間だけをムダにしたスーダン旅行であった。もう絶対行かない国、スーダン。ここまでいかなければよかったと思う国はスーダンぐらいである。

20代後半から海外で生活。ドバイで5年暮らした後、イスラーム圏を2年に渡り旅する。その後マレーシアで生活。大学では社会科学を専攻。イスラエル・パレスチナの大学に留学し、ジャーナリズム、国際政治を学ぶ。読売新聞ニューヨーク支局でインターンを行った後、10年以上に渡りWPPやHavasなどの外資系広告代理店を通じて、マーケティング業界に携わる。

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