結婚相手は50人の中から選ぶ!?ゲリジム山に潜む謎のコミュニティ

それは勘違いから始まった。パレスチナ西岸地区のナブルスに、都市伝説のような山があるという。はじめてその山の名前を見た時、「下痢人山(げりじんやま)」!と衝撃を受けた。英語表記では「Mt Gerizim」。そう、間違ってMをNの発音で読んでしまい、日本語で発音すると「下痢人(ゲリジン)」じゃないかと(正しくはゲリジム)。そんなちょっと恥ずかしい山にサマリア人という輩が住んでいるという。パレスチナ人でもイスラエル人でもユダヤ人でもないらしい。一体どんな輩なんだろう。この謎のサマリア人と勘違いで覚えてしまった「下痢人山」というのが合体し、私の興味を一気に引きつけた。

普通に行ってもよいが、ちょうど羊を生贄として捧げる儀式を行うという話を聞きつけ、神聖な儀式の日にゲリジム山に住む謎に満ちたサマリア人見に行くことにした。

まるで魔王の城か!といいたくなるほど、ゲリジム山へのアクセスは悪い。たとえるなら、ハンターハンターのキルアの実家である。まず公共の交通機関もないため、タクシーで行くしかない。しかも帰りにすぐタクシーが見つかるわけではないので、帰りに同じタクシーを呼ぶか、待ってもらわなければいけない。


サマリタンコミュニティ
ゲリジム山からの眺め。ここにサマリア人たちがひっそりと暮らしている

サマリア人はイスラエル国内に800人ほどと非常に小さなコミュニティである。絶滅の危機に瀕しているコミュニティといったところだろうか。それをさらに加速させるのが、血統を重視したサマリア人同士での結婚が原則といったルールだ。

ゲリジム山在住のサマリア人青年に聞くと、「(ここに住んでいる)コミュニティ全体では女性は200人ほどだけで、しかもその中で結婚相手になりうる女性というのは50人ぐらいなんだよ」という。

ギョへ!?つまりは結婚相手になり得るのは50人の中からしか選べないのか!? もしコミュニティの女性全員がタイプじゃなかったらこりゃ大変そうだ。

こうした一族の血が絶えてしまうという問題に瀕したサマリア人たちは、一族繁栄ために別ルールを設けた。それが、男性に限ってはコミュニティ外の女性の結婚(ユダヤ系イスラエル人優先)も認められる、というものあ。その場合には、女性にはコミュニティに適応できるかどうかという6ヶ月トライアル期間が課されるのだ。

一体6ヶ月もトライアルをして何を見るんだとツッコミたくなるが、長ければ長いほど相手のことがよく分かるというものだろうか。にしても6ヶ月ためされるって、もし私がサマリア人男性に誘われても、絶対断るだろう。

さらに驚くべきなのは、血はけがれているものだという考えから女性は、生理期間中と出産後は家族から隔離されるのである。実際どういった場所に隔離されるのかは聞き損ねたが、少なくとも家族とは会えないということだ。一人ぼっちで出産後を過ごさなければいけないのは、寂しさこの上ないだろう。一体何のために結婚して子ども持ったんだ!と憤慨してしまう。

実際今回の祭りでも言われたのは生理期間中の女性は、ナプキンをトイレに捨てず持ち帰ることと言われた。神聖な祭りに、けがれたものとされるものを一切排除するためである。

どうやら神聖さに徹底しているようで、コミュニティ外の人間は、生贄の場に直接入ることは許されず、フェンスで囲まれた観客席のような場所から観覧することになった。

会場の様子
ゲリジム山に住むサマリア人がそろう儀式

祭司のあいさつから始まり、生贄となる16頭ほどの羊が連れてこられ、あれよあれよという間に、手際よくサマリア人の男たちにさばかれ、羊は市場でよく見かける“羊肉”になってしまった。

羊肉になった羊 (1)
羊を丁寧に屠殺していく

全身白い衣装に身を包んだサマリア人男性が慣れた手つきで、毛を剃り内臓を取り出していく。男性であれば大人、子ども関わらずに協力している。まるで町内会行事である。

串に刺された羊が現れていくと同時に、後処理として子どもたちが血をホースで洗い流したり、塩をまいたりしていた。

塩をまく少年
さばかれた羊肉の横で塩をまく少年

そして直径2メートルほどの地面に掘られた穴に、火を焚きその中へ羊を放り込んでいく。

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もはや何が焼かれているのかわからない

満月の月明かりの下、もくもくと炊き上がる多量の煙とほんのりと肉が焼ける匂いが印象的。

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一仕事終わって「おつかれちゃん」と声を掛け合う参加者

そうこうしているうちに、羊はこんがり焼けておいしそうな匂いを放つ「羊肉」となった。

土釜から出された羊
焼けすぎな感じを醸し出す羊肉

そして儀式は終盤を迎えたのか、「羊肉」を前に男女老若男女が祈りの合唱をする。神聖な儀式のくせに、寝る準備万端ですと言わんばかりのまき姿の女性たちの姿もちらほら。合唱の後は各羊の周りに6~8人、おそらく家族単位だろう、が集まりおいしそうにむしゃむしゃと「羊肉」をたいらげていた。

別に食べることを期待していたわけではないが、部外者には「羊肉」は配られなかった。ここまで引っ張っといてそのオチはなんだ、とガックリしたがこれもコミュニティ行事なのでしかたがない。

話を聞く前は謎でいっぱいなサマリア人だったが、コミュニティの絶対数が少ないということで知る人が少ないというのもその謎に加担する一つの要因だったのだと思う。しかし、私の勘違いで始まったゲリジム山とサマリア人探索は、彼らのシステムは以外とシンプルで、信仰を頑なに守るイスラエルに住むその他のユダヤ人たちとどこか共通しているところがあるように感じられた。